親友でも戦友でもないってつまりアレですね 八月のシンデレラナイン 6話 感想

 

 『八月のシンデレラナイン』6話「これからの私たち」があまりに私の好みドストライク回だったので、感想記事を書きます。

 どういうことかと言うと、スポ根部活ものでも、単なるゆるふわ系百合アニメでも描けない、女達による同好会ものでしか発生し得ない感情を、わざとらしい感じを受けさせない持ってき方で表現した素晴らしい回だった、ということです。

 以下、それを言葉を尽くして説明していきます。

アニメ公式サイト

TVアニメ「八月のシンデレラナイン」公式サイト
f:id:boss01074:20190518045010j:image

 

アニメは作画が全てじゃない

 アニメというのは動く絵を楽しむ媒体なので、制作費を確保してある程度の画面のクオリティを保っていれば、それなりに面白く見えるものではあるんですよね。金をかければ最低限の仕上がりにはなる。

 一方で、全体の作画水準が上がったために、これは低予算で組まれてるなというのが素人目にもわかりやすくなってきていて、パッと見でわかりやすい画面のチープ感だけを基準に、作品全体を鑑賞せずにアニメを評するなんてナメた連中が増えてきているように感じます。

 直近だと『いもいも』の作画は話題になりましたね。まああれはまた1個次元が違うものだったんですが。

 アニメ『八月のシンデレラナイン』は、同名のアプリゲームの世界観を基にしたアニメであり[ゲーム公式サイト→八月のシンデレラナイン(ハチナイ)]、『いもいも』ほどではないにしろどうやらあまり潤沢な予算が組まれてはいないのだろうなと感じさせるものがあります。

 しかし、アニメの良さはパッと見の画面だけで決まらないものです。特にこの『八月のシンデレラナイン』は、夕方の時間帯にやっててもおかしくないような真っ当な野球アニメであり、毎回グッとくるシナリオの出来が素晴らしい作品です。

 正直、ド深夜のアニメには似つかわしくない健全さに、スポ根が苦手な私は当初あまり期待していなかったのですが、同好会ものというワンクッションと、素人が野球をやるということを真っ直ぐ描く本作に惹かれていき、そして6話の素晴らしさに大いに感動しました。

 

有原翼と河北智恵

 6話でメインとなるのは、主人公有原翼と、その親友河北智恵です。
f:id:boss01074:20190518045048j:image

 翼は中学時代、シニアリーグで全国優勝を果たしたチームの中心選手を張るほどの実力者でした。彼女の実力ならクラブチームに入ってプロ選手を目指して野球を続けるという選択肢もありましたが、翼にとって野球とは、チームのみんなで1つの目標に向かって一致団結して戦うことに意義があるものでした。なので、彼女は個人の能力が重視されるクラブチームに入る気はなかったのです。

 しかし、野球から離れた翼は脱け殻の状態に等しく、そんな彼女の様子を見かねた智恵は翼に一緒に野球をやろうと声を掛けるのです。
f:id:boss01074:20190518045105j:image

 翼と智恵は幼馴染みでずっと一緒にいたのですが、翼が野球を始めてからはそちらにのめり込むようになり、智恵と一緒に過ごす時間は減っていきました。謂わば、智恵にとって野球は親友を奪っていった相手です。

 親友が野球から離れて自分の元へ帰ってきたことを本来なら喜ぶべきはずなのに、智恵は親友が戻ってきたこと以上に、野球をやってる翼のことが好きなのでした。なので、今度はそれほど翼が好きな野球に自分も飛び込んでみたいと思ったのです。

 智恵が一緒に野球やろうと言ってくれたことで、翼は入った高校で新たに野球同好会を立ち上げ、『八月のシンデレラナイン』の物語が始まります。

 

「これからの私たち」

f:id:boss01074:20190518045146j:image

焦らなくていいよ

 前話の練習試合でコテンパンにやられたチームは、気持ちを新たに練習に励みます。ここでオタク大好き宇喜多茜ちゃんが野球を好きだと言って、ついにフライをキャッチできるという感涙のシーンがあるのですが、それはまた今度。

 盛り上がるチームの中で、智恵だけは雰囲気についていけていないことに焦りを感じていました。曲がりなりにも他のメンバーは、野球がしたいという自分の意志で同好会に入ってきました。ですが、智恵の場合、発端の動機が野球を好きな翼を元気付けたいだったため、周囲との温度差が生まれてしまっていたのです。

 智恵は、翼の好きな野球へ自分も飛び込むんだという初心を思い出し、成長の遅い自分のための自主トレーニングを組みたいと翼に打診するのですが、翼には「焦らなくていい」と言われてしまいます。

 翼としては、親友の智恵が一緒に野球をやってくれるということだけで満足なのであり、それ以上のことを求めるつもりはそもそもなかったのでしょう。しかし、それは智恵の望んだ「一緒に野球をやる」ということではありませんでした。また「焦らなくていい」ということは、意識的にしろ無意識的にしろ智恵が遅れていることを翼もわかってはいるのであり、わかってるのに何も言ってくれないというのが、ますます智恵の翼に対する不信を深めたと思います。

親友やめる

 結局、智恵は他校の生徒にコーチを頼んで自主練を開始します。

 それを発見した翼のリアクションが、完全に恋人の浮気現場に遭遇した彼女のそれ。東雲さんの言う通り、智恵がコーチを受けてトレーニングすることはメリットこそあれデメリットがあることじゃないんですよ。それでも翼は智恵が他の女と一緒に野球やってることを我慢できない。

 それを受けた智恵の方では、コーチを頼んだのは翼が自分を甘やかすからであり、今後も自分を特別扱いし続けるのであれば、翼との関係を解消するとまで言ってのけます。

 その後、何事もなかったかのように接しようとする翼に対し、明らかに翼を避ける智恵。折しもテスト前期間で部活動がないため、仲直りするきっかけを掴めないまま日が過ぎていきます。

 智恵のコーチと顔を合わせた翼は、彼女に野球に親友は必要ないと言われて考え込みます。スポーツドリンクの受け取り方でキャラクターを出していく演出素敵。

私たち

 チームメイトの計らいで、グラウンドに呼び出される2人。

 先に切り出したのは、智恵の方でした。一緒に野球をやるために、これからはチームメイトの1人として接して欲しいと翼に頼みます。

 1度は智恵の言葉を受け入れようとする翼。ですが、智恵が渡してくれたテスト対策用ノート、そこに一々書かれた翼を思いやる言葉を見ている内に感情を抑えきれなくなりました。今までの関係をなかったことに、他のメンバーと変わらないで接するなんて、そんなの嫌だ。

 感情の全てをぶつけてきた翼を見て、智恵もハグで応えました。彼女だって本当は翼の隣にいたかった。そもそも野球を始めたのだって、翼に野球をやってた頃の笑顔を取り戻して欲しかったから。それくらい、翼のことが大好きだった。

 

尊い

 スポ根部活ものの解決としては、親友をやめてこれからは戦友になろうという答えがあります。でもクラブに入らずに智恵と同好会を立ち上げた翼にとって、新しく目指すことにした自分の追い求める野球を再び諦めることになります。それに智恵が他人と野球することを認められないくらい、翼の智恵に対する独占欲は強いんです。また智恵の方でも、翼がいるから野球をやるんです。親友の翼がいるのといないのとでは、智恵にとっても野球をやる意味が変わっちゃうんです。

 他方で、いわゆる日常系といった作品のノリからすれば、野球をやってたって私たちは親友だよという答えもあったと思います。ですが智恵にとって、この同好会は野球を始めるためのものだったんです。野球に興じる翼を遠くから眺めるためのものじゃなく、翼と一緒に自分もやるもの。智恵には、これまでの翼との関係から1歩踏み出すきっかけでもあったんです。その智恵の真摯な思いを受けて、翼もただ仲良しごっこでいるだけじゃなくて、野球をやるための同好会としての関係性を築くべきなのかと思い悩むことになります。

 今回翼と智恵が出した、親友でもない、戦友でもない特別な関係の私たちというのは、スポ根アニメにも、日常系アニメにもない感情であり、それによって導き出された答えです。野球を好きな気持ちによって成立する同好会というコミュニティの中で、親友同士お互いへの好きという気持ちを諦めなかった翼と智恵。その2人の姿に、ゆるふわな展開を期待しつつもスポ根的解決に対して構えていた私は、心を打たれました。

 一見チープにも見える画面の仕上がりから、私自身当初はそこまで期待していなかったのですが、毎回外さないストーリーに徐々に心を掴まれていき、6話で描かれたあまりにも尊すぎる感情で、すっかりこの作品のファンになりました。アニメ『八月のシンデレラナイン』のストーリーがどうなっていくのか、今後も見守っていきたいと思います。