カタリナ・クラエスの痛快活劇を見逃すな‼️ 『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』放送記念記事

 

 7月から、アニメ『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』(通称『はめふら』2期)が放送されます。

 1期が好評だったようで、2期はキー局放送になるため、これを機に『はめふら』へ触れるという人も増えるのではないでしょうか。

 1期を大いに楽しませてもらった身として、私自身『はめふら』の何がそんなにハマったのかについて、この場で語らせていただきたいと思います。

 

 

異世界転生モノ

 まず、『はめふら』の原作は「小説家になろう」で連載されていた“なろう小説”です。

 “なろう小説”の特徴として“異世界転生モノ”というジャンルが隆盛を誇っており、本作もその1つです。

 ざっくり言うと“異世界転生モノ”とは、現代日本に生きていた主人公がゲームの中のようなファンタジー世界、謂わば“ゲームファンタジー”といった世界に転生し、生前のゲームの知識を以て活躍するというあらすじのものを指します。

 昨今、深夜アニメにおいても、この“なろう小説”を原作とした“なろう系アニメ”が一大ジャンルを築いているといった現状です。

 この世界観のベースとなるゲーム、基本的にはRPGが多いのですが、それが乙女ゲームであるというのが、『はめふら』を他の“なろう系アニメ”から一線を画している特徴です。

 

乙女ゲーム

 ウィンドウ内の文章を読み進めながら、現れた選択肢によって分岐するストーリーを楽しむアドベンチャーゲームというジャンルがあります。その中で、美少女キャラクターとの恋愛がメインとなるものを美少女ゲームと言います(例:ときめきメモリアル)。その対となる、女主人公をプレイして男性キャラクターとの恋愛を楽しむのが乙女ゲームです。

 乙女ゲームなんかやったことないという方、ご安心ください。僕もやったことありません。なので、ここからの説明はごく大雑把なものになりますが(反論ある方はコメントください)、基本的には『シンデレラ』のストーリーをなぞると思ってください。不運な境遇に生まれながら、運命の導きによって王子様と結ばれる、それが主人公キャラ。そして、恋敵となるシンデレラを理不尽に苛める義理の姉妹が、悪役令嬢です。『はめふら』では、この悪役令嬢に転生してしまった主人公の物語になります。

 今となってはこの乙女ゲームを下敷きにした“悪役令嬢モノ”は、「小説家になろう」の人気ジャンルの1つですが、きっかけはこの『はめふら』であり、それは裏を返せば『はめふら』までは乙女ゲームの“なろう小説”化が難しかったことを意味します。以下、それが困難な理由、及び『はめふら』がいかにその難点を突破したかを僕なりに語っていきます。

 

シンデレラストーリー

 一見、乙女ゲームもといアドベンチャーゲームは、ゲームの構造がそもそも限りなく小説に近いので、下手したらRPG以上に小説化しやすいように思えますが、そこには落とし穴があります。

 RPGの場合、レベルアップという主人公の成長が前提としてあり、また魔王を倒すという大義がそのゴールとなります。このフォーマットに沿って行けば、必然的に読者を惹き付けるエンタメ作品として完成するわけです。

 翻って乙女ゲーム、ここではその雛型『シンデレラ』の物語を見ていくと、最近ではそこに批判や新たな解釈も加えられたりしますが、大きく言えば、無垢な主人公が(出自/魔法使い/王子様といった)外的な要因=運命によって、権力者の妻という私的な幸福を達成する。それが、いわゆる“シンデレラストーリー”です。

 こう見ればわかるように、シンデレラストーリーのカタルシスとは、圧倒的に不憫で純粋無垢な少女が、読者の代理である第三者の手によって救済されることにあります。とりわけ、王子様と結ばれるに当たっては、それが“真実の愛”であることを裏付けるため、手練手管を弄することはタブーとされます。

 仮に、主人公がゲーム知識という自助努力によって幸福の達成、恋愛の成就を目指した場合、恋敵達を出し抜くというムーヴが必要になり、主人公の無垢さは失われ、シンデレラストーリーとしては完全に破綻です。王子様の愛を受けるには、シンデレラは無垢でなければなりません。

 逆に、あの手この手を使って王子様を振り向かせようとする悪役令嬢とは、この場合、特権を有した主人公に対し、正当な努力で恋愛の成就を目指しているに過ぎなくなります。ゲーム知識により危機を回避できる主人公が、さらに運命の後押しまでもらって恋敵を押し退けても、カタルシスは得られません。

 つまり、乙女ゲームを基にした“なろう小説”には、主人公が努力を封じられた共感を得づらいキャラクターであり、悪役令嬢への勝利が自己本位にしかならずカタルシスを生まないという、2つの大きな欠点を孕むことになります。

 

カタリナ・クラエスという主人公

 では、『はめふら』は如何にしてその瑕疵を回避し、傑作となり得たのでしょうか。

 『はめふら』に施されているギミックの1つは、タイトルの通り、転生先をシンデレラではなく悪役令嬢にしたことです。これにより主人公は、無垢の強制から自由になり、どころか破滅回避という努力のための正当な理由まで獲得できます。悪役令嬢への転生は、努力する共感を呼びやすいキャラクターへと主人公を転化させました。

 かと言って、無垢なシンデレラを虐げては、折角掴んだ読者の心は離れてしまいます。そこで『はめふら』の主人公カタリナは、恋愛ゲームでの勝利ではなく、農業技術の習得による自活という明後日の方向への努力を見せます。努力はするけど天然という無敵のキャラクターによって、一度失った無垢な精神性を取り戻し、カタリナは再び王子様の愛を受ける資格を得るのです。

 以上見てもらえればわかるように、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』とは、明後日の方向へ全力疾走するカタリナ・クラエスという愉快痛快な主人公が、持ち前の明るさと溢れ出る行動力で、乙女ゲームというシンデレラ構造を打破していく物語なのです。

 これを読んで少しでも興味を持たれた方は、7月から始まるカタリナ・クラエスの活躍を覗いてみてください。