『劇場版 幼女戦記』感想記事

 

 『劇場版 幼女戦記』を見たので、その感想記事です。

 公開からだいぶ経ってるので、ネタバレ全開で行きたいと思います。未見の方は、ブラウザバックを。

 尚、元々Twitter用に書いてたものなので、要点を端的にまとめただけの短い記事になります。構えず、気軽にサクッと読んでいただけると幸いです。

 

『劇場版 幼女戦記』(2019)

作品概要

 論理と知性で快進撃を続ける主人公へ襲い掛かる、狂気と妄執の行軍。

 今回の敵メアリーとロリヤの異常性が物語を駆動し、続き物ながら1本の映画として完成してる。

 参謀本部がターニャを持て余す、TVシリーズにはない描写入ったのは新鮮。

 ターニャの幼女性が物語の核と、改めて実感した。

第1幕 方向性提示

 まずは、セッティングの巧さ。

 冒頭、戦後の談話で映画全体に緊張感がもたらされる。(“ドクトル”登場ヤッター‼️)

 楽勝に見えた南部戦線が、敵の策で一転窮地に。

 からの、敵陣強襲作戦。

 乱戦描写で序盤の引きを作りつつ、ターニャの機転と、彼女の率いる二〇三大隊の頼もしさをアピール。

 我等が主人公に待ち受ける苦難と激闘、そしてそれに対する勝利を観客に期待させる。
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第2幕 敵対者の顔

 こっから本編。東部戦線へ導入。

 本作の敵、ロリヤとメアリーの姿が描かれる。

 ロリヤは、粛清人事でまともに機能しない軍隊を作り上げた張本人。

 夢見て上京した田舎娘風のメアリーは、軍隊では明らかに異質な存在。

 人的資源を軽視する政治屋と、復讐を行動原理とする狂信者は、どちらもターニャの倒すべき敵である。

 一方でターニャも、その純粋過ぎる合理主義と慢心による茶目っ気から、参謀本部の思惑を外れ、血みどろの死闘へ足を踏み入れてしまう。
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第3幕 忍び寄る影

 浮かれるニ〇三大隊に対して、メアリーから存在Xの影を感じ取ったターニャの気は晴れない。

 観客も、これから始まる試練を予感する。

 そんな中、ターニャは参謀本部の敵北面遊撃指令と東部方面軍からの救援要請を同時に遂行する作戦を立案。

 敵陣に孤立した重要拠点防衛に向けて、ニ〇三大隊は進発する。

 周囲の敵兵を蹴散らし、任務完了したかに見えたが…
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第4幕 狂宴の開幕

 ターニャ捕縛に執念を燃やすロリヤが、戦略性度外視の大規模攻勢を敢行する。

 序盤で一捻りにされた連邦軍だが、その機能不全こそが為せる無謀な力押し。

 死屍累々を築きながら、一昼夜絶えず押し寄せてくる歩兵の波を前に、流石のニ〇三大隊も消耗の色を隠せない。

 そこへ本命。敵航空戦力が到着。

 拠点防衛には、爆撃阻止が必須。作戦目的は、地上部隊の掃討に加え、こちらを狙ってくる敵魔導士を迎撃しつつ、護衛の戦闘機群を速やかに排除し、最優先で爆撃機の撃破へと変更。

 またターニャは、異次元の魔法力で突貫してくるメアリーを引き付けるため部隊を離脱。

 戦局は、ニ〇三各隊負傷者が続出する正念場へ。
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第5幕 復讐鬼号叫

 本作の見せ場。クライマックスの空中戦。

 メアリーの正面ガチガチに固めて突貫ってスタイル復讐鬼っぽくていいし(『マッドマックス』感)、繰り出すのがレーザー砲なのも化物感煽ってる。

 動力と火力で上回る相手を市街戦に誘導するのも定石で、冷静になったターニャが相手の力を利用して好機作るという、エンタメとして完璧な流れだった。
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第6幕 修羅の戦場

 ただ、それで終わらないのが戦争の狂気を描く本作。

 武装を全て失っても身一つで殴り掛かるメアリーに、ターニャは一撃KO。生身では非力な幼女だという事実を思い知らされる。

 激情に任せて力を振るうメアリーの隙を、強かに狙っていたターニャ。

 妄執に終わりを告げる今一歩のところでドレイクが割って入り、決着は水入り。

 策戦は、二〇三大隊の奮戦で帝国が勝利した。
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真の勝者

 実は、本作でメアリーと対比されてたのはヴィーシャ。

 私怨に囚われ軍紀無視で独走したメアリーは、策戦に失敗し、追い詰めたはずのターニャを殺し損ねた。

 逆に、連邦への禍根から自由なヴィーシャは、常に作戦を完遂し、連邦に打撃を与え、カードにも勝つ。

 メアリーにヴィーシャ程の胆力があれば、あるいは念願も成就したかもしれない。
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幼女戦記

 勝利を続けるターニャだが、その卓抜した能力が災いし、念願の内地勤務だけは叶わない。

 本作も、一時的に成就したかに見えたのは、更なる転戦辞令への準備期間に過ぎなかったというオチ。

 ターニャは、それ自体は手段のはずの勝利に慢心するきらいがあり、そこが彼女の弱点かもしれない。

 ヴィーシャと違い、適応そのものを目的化出来ないのは、そこがターニャの(純粋すぎる)“幼女性”と言えるのではないか。

 『幼女戦記』とは、圧倒的理不尽な状況に放り込まれた主人公が、自身の高い能力によって勝利を続けながらも、観念の自由の中に安息を求める限り終らない、戦いの記録なのだ。
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感想総括

 以上、配された登場人物の魅力と観客を引き込む作劇で、自由を求める真の戦いまで導いた本作は、紛うことなき傑作だった。

 今後の展開としては、人の情動が理解できないはずのターニャが、部下には篤く慕われているので、参謀本部との距離感も描かれたことだし、ターニャのカリスマが剥がれた時の戦いもちょっと見てみたいと思った。
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