シトリの問いとウィステリアの答え アニメ『ノケモノたちの夜』第十二夜「記憶の旅路」 感想記事

 

※投稿が遅れましたが、この記事は第十三夜を見る前に書き始めたものなので、今からすると最終回の台詞があるなら「記憶の旅路」をここまで深掘りしなくても良かったかなとも思います。

 

 この「記憶の旅路」はミステリー仕立て。なるほど、だからホームズ出してきたわけか。

 初めはシトリの言葉を額面通りに受け取ったけど、ウィステリアを嵌めるのが目的なんだから、この世界自体が嘘って考えた方がいいよな。

 憎悪を増大させる存在として生み出された悪魔の本分に、「信頼」で3人が打ち勝つ展開と。

 

 最初の罠がウィステリアの記憶って説明で、この憎悪の世界をウィステリア自身の心と認めさせることで、堕落させようとした。

 けど、お前は世界一綺麗だ、というスノウの愛で、この世界が自分1人のものじゃないと気付く。

 ただ剣十字騎士団となった今のスノウに、ノケモノのウィステリアは会うことができない。

 

 大人になれたのは生き延びる術を覚えたってことかもしれないけど、憎悪を見つめて跳ね返す精神的な力の現れでもある。と思う。
 そこに第2の罠マルバスの存在で揺さぶりがかかるけど、見えないところでも信頼し合っている2人の闘志は揺るがず、スノウに対する信頼も相俟って、マルバスは堪え忍ぶ戦いを続ける。

 

 そして最後の罠。

 ウィステリアのために全てを捧げた末、魔に堕したスノウを切り捨てるか。

 あるいはマルバスとの絆を断ち切って、スノウと永遠に寄り添い続けるか。

 どちらを選んでもスノウは賭けに敗れ、ウィステリア共々身心を掌握される。

 スノウの解放=限定解臨の解除から目を背けさせるシトリの狡猾さ。

 

 このスノウの過去、真実なのかな?

 まあここはウィステリアがスノウの心の中の憎悪を受け止めて最後まで信じられるかが焦点だから、ウィステリアに縛られて地獄見た事実を突きつけられる展開は納得だし、多分そうなんだろうけど、剣十字騎士団の処遇ががやけに甘かったり、個人的にはなんかしっくり来ない。

 

 幸い客観的な事象は何もないので、ここは敢えてスノウの過去はデタラメという解釈を取ってみる。

 その場合、

  • スノウの過去で個人的に最も違和感があった悪魔との契約。
  • そして疑惑の端緒となった明らかウィステリアと重ねられたスノウの描写。

 この辺にシトリが嘘をついた思惑があるのでは?と勘繰ってみる。

 

 境遇が逆転した世界で、救い主のウィステリアに襲い掛かるスノウの図から、

  • 悪魔の使役は持たざる者の怨嗟であり、マルバスと契約したウィステリアも同様。
  • ノケモノにとって本質的な敵である持てる者と手を取り合うのは綺麗事

 悪魔と絆を結ぶウィステリアに、シトリはこれらの問をぶつけたかったのでは。

 

 このシトリの問いに、ウィステリアの出した答えが、

  • 憎悪渦巻く世界にも信じられる暖かさはあり、
  • マルバスとの契約は、破壊の力ではなく共に歩く道連れを求めて

 目を差し出したのは、自分の知る世界の美しさをマルバスにも見て欲しいからで、それ自体が憎悪の化身=悪魔の巣食う世界に向けた祈りに他ならない。

 

 ウィステリアの瞳が価値を持つのは、彼女を愛する存在があり、彼女自身そこに映る美しさを信じているから。

 たとえ自分は光を失いノケモノとなっても、その瞳を預けたマルバスが夜を照らしてくれる。

 残酷な世界に見切りをつけ引きこもったシトリに、他者を信じ続けたウィステリアが打ち勝つ見事なラスト。

 

 本作の最大の魅力って、悪魔と契約してノケモノとなった人々が、それでも精一杯生きてることよね。

 なんだかんだで、憎悪に囚われて道を見失ってる契約者って1人もいなくて、みんな自分の生を全力で肯定してる。みんな好き。

 そういった作品の主人公が、悲撃のヒロインではなく世界を信じて他者と向き合い続けてるっていうのはテーマと合致してて改めて感嘆する。