去年のジークアクス祭り最大の功績は、令和のこの時代にファーストガンダムへの巨大な導線を引いたことだと思う。
あれから1年が経ち、ジークアクスきっかけでファーストガンダムを見始めた層も、そろそろガンダムロスが起きて新しい作品を求めている頃じゃないだろうか。
そんな人々にオススメしたい作品、それがしげの秀一原作、アニメ化もされた大ヒット漫画『頭文字D』だ。
片やロボットアニメ、片や走り屋漫画ということで一見接点は無さそうだが、知ってる人にはお馴染み『頭文字D』には、親父のマシンで戦いに挑む主人公、“赤城の白い彗星”の異名を取るライバル、そのライバルが乗るRX-7はガンダムの型番RX-78の元ネタと、『ガンダム』に繋がる設定や描写が幾つもある。

何より、私が「秋名ダウンヒル伝説誕生編」と題した序盤の読み味は、ファーストガンダムの前半戦と非常によく似通っている。なので、『機動戦士ガンダム』を楽しめた人間なら、『頭文字D』もきっと楽しめるはず。
まあそれでなくても、一度は聴いたことのある有名タイトルで、続編『MFゴースト』のヒットを見るに『昴と彗星』のアニメ化も控えていそうなこの時世、それらの源流である『頭文字D』についてもこの際抑えておいて損はないと思う。
ということで以下、『頭文字D』序盤“秋名ダウンヒル伝説誕生編”をおさらいしながら、そのファーストガンダムにも通ずる面白みを紹介していきたい。尚、原作とアニメでは構成が異なるが、原作1巻vol.1〜5巻vol.50、アニメ1期最終回の涼介戦までを範囲とし、両者を併記する形で参照したい。個人的には、どちらから入ってもその面白さは伝わると思う。
OPENING: 車に無関心な主人公
『頭文字D』を手に取ろうとする人にとって最大のネックは、「俺…車の運転は出来ないし、興味もないんだよな〜」ではないだろうか。安心して欲しい。かく言う私も運転は出来ない。
確かに専門用語は出てくるし、運転の上手い奴がカッコイイという価値観の世界だ。だが主人公の拓海自身、運転技術こそ卓越しているものの、車に関して当初は素人同然の状態から始まる。

それでも楽しめるのは、この作品の、特に第一部は主人公、拓海の成長譚としての軸がはっきり通っていて、キャラクターの劇で読ませる漫画としての面白さで勝負している作品だからだ。
ガンダム、ガンダムと喧しく言う理由はそれで、ガンダムファンの中に、宇宙世紀の物理学に長じ、巨大ロボの操縦経験がある人は誰一人いない。それでもこれだけ多くの人に受容されている理由は、その世界観で描かれる少年少女達の人間ドラマが十分見応えあるものだからだ。
もちろん、本作のメインターゲットはスポーツカーを走らせるドライバーであろうし、しげの先生はこの作品を機に車の運転に興味を持つ若者が増えて欲しいと思って描いているとは思う。
だがまずは、ライバル達との出逢いを経て主人公が成長していく、少年漫画的な王道の物語だと思って、知らない世界に気後れしていた人も、この名作に触れてみてもらいたい。
BATTLE1: vs高橋啓介 FD-3S

物語は、仲良く車を転がしてたスピードスターズのホーム秋名へ、群馬制覇を目論む赤城レッドサンズが乗り込んでくることで始まる。率いるのは峠のカリスマ高橋兄弟。ガンダムで言えば、サイド7へ威力偵察を敢行するシャアの部隊。
レッドサンズの圧倒的な実力を前に、手も足も出ない秋名スピードスターズ。さながらザクに蹂躙される連邦軍。一矢報いたい池谷先輩の奔走により、高橋啓介との決着の場へ主人公、藤原拓海が担ぎ出されることとなる。
この時の拓海は、父親の英才教育により驚異的な技術を持ちながらも、運転自体への関心は全くと言っていい程持たず、走れば勝てるとは思いながら走りたいという気は一切なかった。いやいや乗りながら圧勝する所も、アムロ譲り。
直接の言及はないが、後の走り屋達の言動から類推するに、おそらく拓海はこれまで本気で走り合いをしたことがなかったのだ。自分より下手な相手に勝つのは当然。わかりきった結果を前に、全力を出してぶつかる、自分の実力を試す勝負のその意味がわからなかった。
そんな拓海が走る気になったのが、ヒロインなつきとのデートという餌(笑)。だがこのなつきの存在は大事で、拓海が今何を思っているかという心情の吐露は、作劇上、主にバトルの合間に挟まるなつきとのデートを通じて行われる。
啓介とのバトル。アニメだとわかりにくいが、この時から拓海は既に走りを少し楽しんでいる。それは、結果は完勝でも、必殺技(笑)“溝落とし”を使う程、啓介とFDの戦闘力が拓海のハチロクに迫ったから。
その後の「恐怖のダウンヒル 池谷コーナー3コで失神事件」でも、池谷先輩をからかうためわざと接触させてみたりと、持ち前の運転技術に周囲がリアクションしてくれるのを、徐々に誇らしく思えるようになってくる。
ハチロクが見せてくれた自分の可能性を、拓海は戸惑いつつも受け入れ始めていく。これ以降、拓海の中に、ハチロクで走ることと自分自身の同一化、そして一廉の男としてのプライド、走り屋としての自我が芽生えていくこととなる。

BATTLE2: vs中里毅 R32GT-R

とは言え5年もの間、家業の手伝いで運転を続けてきた拓海が、一息にそれをアイデンティティとして受け入れられるわけもなく、車を走らせて粋がる“走り屋のノリ”への反発心から中里の挑戦を拒み、それが親友イツキの窮地を招く。(笑)
思うに、この時期の拓海は、運転技術を身に付ける文太のスパルタ特訓を貧乏故の労苦であり、忌避してはならないと半ば強迫的に受け入れていた。“逃げちゃダメだ”だ。それが一種のコンプレクスとなり、運転が好きな自分にも蓋をしていたのだろう。
その本心を見透かす啓介から、拓海は既に走り屋であり、その矜持を持てと発破。最終的には祐一の策略に乗せられるわけだが、“自分のやったことに自惚れられない人なんて嫌いよ”“悔しいけど僕は男なんだな”。こういう流れで、拓海は走り屋としての自分と向き合っていく。
対する中里の車は劇中最高クラスのパワーマシン、380馬力のGT-R。特にアニメ版は制作陣がお気に入りなのか、バッハのトッカータとフーガで始まる専用テーマ付き。ACT.5で涼介のFCを追いかけてエントリーする所は鬼カッコよく、正直CGが初代PSレベルの残念な描画だが、Final Stageまで含めてマシンの迫力を最も感じるシーンはここだと思う。
勝敗の決め手はブレーキング。ハイパワーをABSで強引に止めグリップで回る中里に対し、限界挙動を自在にコントロールする拓海は、機械制御じゃ真似出来ない瞬間的な横スライドでラインを捩じ込み、タイヤのタレた相手の焦りを誘った。性能差をドラテクで凌駕してみせたのだ。
ただし拓海一人の力で勝ったわけではなく、GT-Rとの対戦を見越した文太が、立ち上がりでアクセルを開けられるバトル仕様にセッティングし直していたのだった。勝ちたいという自分の思いに応え、強敵から勝利をもたらしてくれたハチロクという相棒に、拓海の中で今までにない愛着が生まれてきた瞬間だった。
BATTLE3: vs庄司慎吾 EG6

走り屋の自覚と同時に、ハチロクが親父の車という気後れも感じ始める拓海。軽より遅いハチゴーを買ったイツキにも素直に尊敬を抱き、バカにされた時はあれ程バトルを嫌がってた拓海自らハンドルを握って、その連中を抜き去った。
彼らは、中里がリーダーを張る妙義ナイトキッズ。群馬が舞台の第一部において、走り屋のガラの悪さを担うのがナイトキッズ。ナイトキッズNo.2の慎吾が、拓海の次の相手。そのバトルに至る経緯だが、原作とアニメでは異なっている。
拓海を引き摺り出すため、スピードスターズの池谷先輩を標的にする煽り運転のプロ(笑)デンジャラス慎吾。コケにされる池谷先輩に、原作は拓海がキレてバトルに突入するが、アニメではハチロクに乗ってなかったので知らんぷりを決め込む。
1番大きな改変は、アニオリキャラ沙織ちゃん。『ドラゴンボールZ』のマロンちゃんと同じ、イツキの幻の彼女。デート中、またしても慎吾の煽り運転でハチゴーはクラッシュ。イツキを病院送りにされ、今度はアニメ版拓海もキレる。女の子に一生モノのトラウマ植え付ける慎吾のヒールぶり。よくここから主人公陣営入れたな。(笑)
池谷組の他、慎吾の取り巻きしかいなかった原作と違い、アニメでは高橋兄弟も中里もいる大勢のギャラリーの前でのガムテープデスマッチ。誰か止めろよ(笑)。この衆人環視で相手のクラッシュ誘う煽り運転は、流石デンジャラス慎吾。啓介も中里もスルーした“藤原とうふ店”に初めてツッコミを入れた男、伊達じゃねえ。(笑)
バトル経過は原作通りだが、ここでEDが変わるため、慎吾の自滅に合わせ前期ED「Rage your dream」が劇中歌で流れエモい感じに。過失運転致死上等のカスのくせに扱い良い(笑)。原作はイツキも池谷の車に同乗し事故った慎吾を助けるが、アニメは入院中なので不在。流石に病院送りにされた相手じゃ手を差し伸べる気にはなれないよな。
慎吾の汚いやり口で怒り心頭に発し、自分の分身に思い始めていたハチロクをズタズタに傷付けてしまった拓海。フェンダー諸共に凹んだ胸中、車は替えの利く道具ではなく、アイデンティティの一部なのだと痛感した拓海は、また一つ走り屋らしくなっていく。
BATTLE4: vs高橋涼介 FC-3S

啓介が負けて以来リベンジの機会を虎視眈々と狙っていた涼介から、満を持して拓海に挑戦状。涼介戦、アニメでは拓海自身の、母なる秋名の外へ出ていく決心にフォーカスされていて、バトル後の涼介とのやり取りや、アニメ1期の最終回であることも踏まえて、一人前の走り屋となった拓海がまだ見ぬストリートの世界へ走り出すというフェードアウトまでが、綺麗に繋がる構成。
土屋圭市も(笑)注目する大一番、アニメオリジナルの描写として、なつきが拓海のバトルを観戦しに来る。拓海とは住む世界が違ったというのがなつきの位置付けなので、ママチャリ必死に漕いで秋名山登ってきたら話変わってくるんだが、失恋を描かない最終回演出としてはこれもアリか。おまけに池谷先輩と真子まで復縁匂わせ。怒りの2回転半は何やったんや。(笑)
レースの迫力も、アニメの見せ方が上手い。2期以降はCGの車をよく見せたいのか、個人的には1期のカメラワークの方がバトルの見応えを感じる。抜かれる5連ヘアピンまで、キンコンをバックに拓海の感じるプレッシャーを原作以上に強調し、追い込みに入ったら、清次戦で使う“溝走り”パート2を先出しして逆転のきっかけとする。涼介の今までにない強敵感が存分に演出されてる。
文太の技を使ったのが、勝因にも繋がってくる。相手の土俵ドリフトで勝つことに拘った涼介のFCは、終盤タイヤが熱ダレを起こし失速する。いかに天才涼介と言えど、急造のセッティングでは拓海の限界ドリフト走行に付き合いきれず、秋名峠を攻める用に文太が長年熟成させてきたハチロクの足には及ばなかった。言い訳しない涼介、ランバ・ラルより大人。(笑)
キングの敗北に静まり返る原作とは対照的、拓海の大金星に秋名勢含めたギャラリーが大沸きに沸くハッピーエンディング。このバトル、拓海自身の未熟さも露呈したが、それ以上に成長を遂げた面もあって、たとえ相手が自分より格上であろうと、闘争心全開に、己を証明するため立ち向かっていく。気持ちの面で、ようやく拓海は一人前の走り屋になったのだ。
どこにでもいる平凡な高校生に過ぎなかった拓海が、ハチロクという相棒を駆って、大人の世界に自分の価値を示していく。これはまさにアムロとガンダムの関係で、降したライバル達の走り屋の矜持を認め始めた拓海は、秋名のハチロクとして彼らに恥じない走り屋になるため、今度は誰の助けも借りない秋名の外、本物のストリートの戦いへとその身を投じていくのだった。
1st LAP: 新たなる伝説
原作では挑戦を受ける前、拓海の方から対戦相手である涼介のことを意識していて、“僕は、あの人に勝ちたい”ということだろう。それ程の男、高橋涼介の描写から、原作はバトルに入っていく。原作の涼介戦は、拓海よりむしろ白い彗星、高橋涼介のカリスマ性に重きが置かれ、アニメ版とは若干ニュアンスが異なるので、その違いについても触れておきたい。

原作のみに登場するのが、涼介の従妹、緒美。この後もう1回くらいしか出番はなく、いなくても成立するキャラだが、昼間の涼介を映す緒美はシャアに兄の顔をさせるセイラ同様、涼介というキャラクターをただの対戦相手から一段高い位置へと据える。“パイロットだけをやっているわけにはいかん”涼介とのバトルは、まだ走り屋の自覚がない拓海にとって、大きな意味合いを持ってくる。
その意図を探るに、少しシーンを遡る。再調整したハチロクの試運転。秋名の夜景を眼下に、文太の真意を問う祐一。その答え、現役時と同じ、峠の向こうにある景色をただ純粋に追い求める一人の走り屋の文太に祐一は安心するのだが、おそらく涼介の答えも同じ。すなわち、他人の人生を背負い、結果が至上命題のプロとは違う、夜の峠だけが見せる世界に惹かれているのだ。
何があるでもない、己の意地とプライドのみを賭けた、それ故、時に命懸けにも等しい純度となる、男としての存在証明。であればこそ、その場で価値を示す男達の走りは、何者でもない多くの人々を魅了する。公道キングと称され、プロも一目置く涼介は、ただ速いだけではない、走り屋の憧れそのもの。時代の主役として唯一無二の輝きを放つ特別な存在、それが赤城の白い彗星だ。
その涼介から指名されたのが拓海。対戦相手すら虜にする技量で強敵を降す走りは、持たざる者達、わかりやすくは親友イツキにとっての希望となる。発揮され始めた拓海のカリスマ性。そして涼介と対等に渡り合うということは、彼と同じ次元へ引き上げられていくということだ。以降、秋名のハチロクは、赤城の白い彗星に代わり新たな伝説の立役者となっていく。

所詮これは、名もなきストリートの片隅、表舞台から隠れた、数寄者達のごく限られた世界の話でしかない。それでもここには、夜を駆ける者達を魅了するだけの昂奮があり、新しい時代の到来を予感させる確かな熱気を孕んでいる。その発生源たる特別な存在感を持った一握り、彼らの競演により、一夜が伝説となる瞬間の熱狂を記した作品、それが『頭文字D』なのだ。
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ステータスは流石に弄ってないので、代表でのコンバートは許容範囲にしてもらいたい。
























