前回投稿した『頭文字D』感想記事
の今回は続編、原作5巻vol.50〜10巻vol.110、アニメ1期の一部〜2期前半部までにあたる範囲、題して「ゆりかごからの卒業編」について見ていきたい。
前回は『頭文字D』と『ファーストガンダム』の共通点という視点で見ていったわけだが、その流れで言えば今回の内容に相当するのは『Zガンダム』。ハチロクを駆ることで大人達と対等に渡り合えるようになった拓海だが、その世界ではまだまだ才走った子供に過ぎないという現実を突きつけられる話。
純粋な少年が大人への階梯を登る上で、避けて通れない挫折を経験するのがこの“ゆりかごからの卒業編”。戦いの中での主人公の成長を、女性との関係を対応させながら描き出すところも『Zガンダム』と同様。改めて繰り返すが、車の運転にさほど興味がなくても、漫画としての面白さで読めてしまうのが、『頭文字D』の魅力である。

BATTLE5:
vs佐藤真子&沙雪 シルエイティ

峠の釜飯屋で池谷先輩の出会った謎の美女が、拓海の次の対戦相手、真子。特に涼介戦と順番が前後するアニメ版は、OPと本編で髪色が異なり、釜飯屋での初登場では走り屋とわからないようになってるニクい仕掛け。拓海にとって、秋名以外を走る初のアウェイバトル。
真子戦の表のテーマは、相棒。碓氷峠のエンジェル(個人的にはインパクトブルーよりこっちの通り名の方が好き)は、某女児アニメよろしく2人組の、ふたりはハシリヤ(笑)。いざとなれば真子の方が肝が据わってる所もなぎほのっぽい。そんな2人のニコイチを表す車だから、シルエイティ。
対する拓海が孤独に走っているかと思いきや、彼が共に走るのは何よりも頼れる相棒ハチロクで、ハチロクの支えを受けて拓海は、初めて走る碓氷峠を攻略していく。真子と沙雪の女の友情を補助線に、無機物であるハチロクと拓海の信頼関係を再確認するのが、真子戦の1つの意味合い。
もう1つ、裏テーマとなるのが、池谷先輩の、真子の、そして拓海の下心。このバトルは池谷先輩が拓海に頭を下げ実現したものだが、実は拓海自身走りたくてウズウズしていた。初めて走る峠を攻めてみたいという芽生え出した走り屋の性を隠すため、池谷先輩の痴情を利用したのだった。

走りを覚えた秋名は謂わば母親。他所の峠を攻めに行くのは、母親以外の女を知ろうとする行為で、であればこそ対戦相手は女でなくてはならなず、女のケツを追っかけ回す内に碓氷のリズムを自分のモノにした拓海は、走り屋として、男として、また一段成長を遂げる。
完全にトレンディドラマの「ジ・エンド・オブ・サマー」。「Rage your dream」のハマり具合や2回転半の迫力、「バックミラーなんか二度と見ない」と「もうサンダルなんか履かない」の呼応とアニメの出来もいい。失恋を経て成長するという構図は、今後の伏線にもなっていく。
BATTLE6:
高橋啓介 FD-3S vs中里毅 BNR-32 GT-R

次の拓海のバトルはケンタのS14とのレインバトルなんだが、闘争心全開だった真子戦からは拍子抜けする呆気ない瞬殺劇なので、その前の啓介vs中里戦を軸に見ていく。アニメではここまでが1期に含まれ、拓海を刺激した秋名での両者の模擬戦の代わりに、涼介戦の前に挿し込まれる形。
2人の共通点は、拓海に負けた者同士ということ。ライバルを自認する彼等は、拓海の観戦に、いつにも増した気合でバトルに臨む。そしてその2人の走りを見た拓海も、負けてられないと走り屋魂を駆り立てられる。走り屋の意地は、互いを認めるからこその競争心でもある。
一月余り前、拓海と戦った啓介のFDは完全に噛ませで、中里のGT-Rの方が脅威だったのだが、このバトルは涼介のセッティング意図を解してFDのポテンシャルを引き出した啓介が勝利を上げる。第2部では拓海と並んで主人公の1人を張るだけあって、高橋啓介、流石の成長スピード。
一方解説役に回ったことで、碓氷で垣間見せた拓海の峠センスが裏付けられる。中里同様、オーラだけで啓介の勝利を予感し、中速コーナーが連続する妙義のヒルクライムでは、逆勾配の最終コーナーフロントグリップの差が勝敗の分かれ目と判断。結果は拓海の予言通りだった。

ケンタとのバトルにもその鋭い感覚が表れ、同伴のイツキをバラスト代わりに駆動輪のトラクションを稼ぐ即席レインセッティングで、滑らせることしか頭にないケンタと意識の違いを見せる。単純なスピード域の差でぶち抜いた、ダウンヒル群馬エリア最速を証明する貫禄の走り。
アニメと違い、この交流戦は涼介の県外遠征を見据えたものだが、その仮想敵となる県外勢力がここで顔見せする。ケンタとのバトルもこっちの乱入者が本命で、群馬で敵無しとなった拓海を脅かし得る新たな強敵として、同じスピード域を走る挑戦的な4WDの登場がド派手に演出される。
BATTLE7: vs岩城清次
CN9Aランサー エボリューションⅣ

乱入に留まらず、彼等エンペラーの両エース清次と京一は直接拓海達とも因縁が付く。ランエボを絶対視する2人はハチロクを徹底的に扱き下ろす。ここからアニメ2期。最早自分の体の一部と化すハチロクに愛着がないわけがない拓海は、相棒の真価の証明を懸け、清次とのバトルを迎える。
その前に、エンペラーの最初の標的となったのが妙義ナイトキッズ。中里が敗北したナイトキッズは屈辱的な仕打ちを受け、慎吾を典型として涼介戦辺りからベビーフェイス化してきてはいたが、ここで完全に御役御免。以降はエンペラーもといランエボが、本作のヒールの代名詞に。
中里の敗因は、啓介戦の完敗で自信を失い、コンセントレイションを欠いていたこと。このメンタル面が勝敗を左右するという展開が、この後の拓海vs清次戦、さらにはそれ以降のバトルでも重要になってくる。物語は、拓海の精神的な成長を求めるタームへと入っていく。
秋名ではこの心理が逆転。テクニックで上回ろうと躍起になる清次に対し、速いのはあくまでランエボと冷静に分析する拓海。4WDの立ち上がり加速に追従するため“溝落としパート2”を原作初披露。後ろから煽られペースを乱していた清次は、最終コーナーでラインを明け渡してしまった。
ただし、絶対有利な秋名で文太の技“溝走りパート2”を使った勝利は、自分自身の速さの証明にならないとも感じていた。以降、拓海は秋名でのバトルを封印。守ってもらえない環境で、走り屋の自分とハチロクがどこまでやれるのか確かめたいと。拓海に巣立ちの時が近付きつつあった。

その裏ではハチロクのパワーアップ計画が進行中で、新エンジンに胸を躍らせるものの、拓海の更なる飛躍を願う文太は敢えて計画を先送り。手塩にかけた旧エンジンの寿命が近いことも感じながら、拓海が壁にぶち当たるその時までは、力不足でも息子に寄り添わせ続けることを選ぶ。
BATTLE8: vs須藤京一
CE9Aランサー エボリューションⅢ

京一による清次の尻拭い、の前に原作では塚本先輩と再会し赤城見学へ。アニメ化されないのは、なつきの峠初体験を描くこの話が1期と矛盾するため。その際なつきに頼まれ、塚本先輩の180SXでS13をちぎる拓海は、手応えの違いにハチロクが非力であることを実感せざるを得ない。
峠見学はつまり、なつきなりの拓海への接近なわけだが、個人的にはここで2人の世界の間にある隔たりが露わになったように思う。「こんなクルマぶつけてもいいから」は、ハチロクを自分の分身のように思い始めていた拓海とは決して相容れることのない台詞だったのではないだろうか。
そして遂に、なつきの援交が発覚。やけっぱちになった拓海は、京一の挑発に乗る形で赤城へ向かう。ベンツに女を寝取られた怒りをぶつけるのに、常に上からの態度で説教かますラーメン屋の大将は格好の相手だった(笑)。つまり京一は、拓海に己の小ささを自覚させる“大人”の象徴。
バトルは、ミスファイアリングシステムの立ち上がり加速を活かした京一伝家の宝刀カウンターアタックで終盤を待たず勝負あり。ランエボ乗りでは1番人間が出来てる京一だが、面白味ない合理主義一点張りは涼介からボロクソに扱き下ろされる。『頭文字D』のランエボ乗りに人権なし(笑)。
涼介による決着判定後もバトルは続いており、むしろここからが本番。敗北の決まった現実を受け入れまいと、悲壮なまでの闘争本能で拓海は抗う。ハチロクから迸るオーラ。アニメでは以降CGになるが、この時だけは手描き表現で、個人的には『Zガンダム』みあるこっちの方が好み。
4A-Gがブローし座席で茫然自失の拓海を、家に居たはずの文太が迎えに来る。改めて再起不能という事実に、打ちひしがれる拓海。パワー不足を苦にという当初の思惑は外れたが、逆方向とは言えエンジンへの強い執着を見せた拓海に、新エンジンロールアウトの及第を文太は下すのだった。

2nd LAP: ゆりかごの外の世界

アニメではなつきの援交周りがふわっとさせられたので、原作のニュアンスも汲んでおきたい。密告主の声バレが徹底回避されるアニメ版だが、そのタネ明かしもないので、単に拓海となつきの仲を妬んだ悪意の第三者という扱い。原作ではなつきの不貞行為に加害性のニュアンスが伴う。
密会の目撃場所はホテルからファミレスへ変更。アニメは一応別れ話のタイミングで、大人の関係を強調する企図のアレンジ。対して原作は拓海に悪いと思いつつパパの懇願に負けズルズル関係を引き摺った結果で、パパの醜さとなつきの甘さを咎め、大人のだらしなさの方が印象に残る。
拓海から見れば、ベンツの親父とホテルへ通うなつきに遊ばれてたも同然で、許し難い。一方なつきも援交の自覚がなかった等、考えの甘さが破滅を招いており、つまり2人共成長途中の少年少女達で、彼らが傷付きながら大人への階段を登っていく姿を描くのが、第1部のテーマなのだ。
走り屋とその車の一体不可分を描いてきた「ゆりかごからの卒業編」。ハイテクマシンを駆る外敵エンペラーの来襲を機に、これまで挑戦者の立場だった“秋名のハチロク”は、群馬エリアの誇りを背負う存在となり、夜の峠に憧れを抱いて集う彼ら走り屋達のロマンの象徴となっていく。
しかしその幻想は、赤城の夜に砕け散る。拓海もその1つである若さの意思に体を貸し、数々の伝説を打ち立ててきたハチロクだったが、遂にその心臓が限界を超えてしまった。夜の世界に零れる涙を吸い込んで鼓動に変えた4A-G。その最期の啼哭が、夢の終わりを告げるように響き渡る。

外の世界へ踏み出す秋名のハチロクに、浴びせられた現実の洗礼。だが純粋なだけでは通らないからこそ、そこに刻まれる名は、藤原拓海という男の真価を証明するものになる。ここまで連れてきてくれたもう一人の自分との別離を経て、少年は大人への階段を登っていくのである。

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ステータスは流石に弄ってないので、代表でのコンバートは許容範囲にしてもらいたい。























