ウェンディ、ゼンダに立つ 『伝説のオウガバトル』攻略日誌 その8 解説編

 

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伝説

アヴァロン

 今回はその名の通り、アヴァロン伝説です。アヴァロンに関してざっくり言うと、キリスト教とも関係の深いアーサー王伝説の中で、最後の戦いで傷付いたアーサー王が眠りにつき、来るべき戦いのために傷を癒しているという安息の地。

 ゲーム本編でも、ロシュフォル教の聖地ということで、信仰の中心地になっているんですが、実は『伝説のオウガバトル』では、ロシュフォル教の神が何者なのかは明かされていないんですよね。女神フェルアーナが聖なる父と呼んでいるので、フェルアーナより上位の男性神であることしかわかっていません。

 まあ続編の『タクティクスオウガ』で、太陽神フィラーハを主神としていることがわかるので、本稿でもアヴァロンを中心とする原始フィラーハ教が存在し、そこから派生したのがロシュフォル教という解釈を取っています。一応『伝説』においても、宗教者や天使が高い値を示すALIが、タロット「サン」のダメージ量に関わってくるので、太陽=神聖という結び付きが、裏設定としては存在しているようですが。また「サン」が味方をも傷付けるというのも、主神らしい厳格さではあります。

 本編時間でも、ロシュフォル教成立はせいぜい80年前なので、聖地云々はロシュフォル教成立以前の伝説、つまりフィラーハに関するものだと思われます。なので、アヴァロン島の地理的、及び地形的条件から、太陽が初めに射した地という謂れを付けました。このことから、太陽神信仰の中心地となったのではないかと。

 ただ「フィラーハ」という名が、アヴァロン関係ないゼノビアの貿易都市に付いているんですよね。後から気付いて焦ったんですが、ここから原始フィラーハ教は俗世と関係しすぎて衰退したという設定にしました。内なる信仰を重視するロシュフォル教の教義も、そこから生じたのでは。

 来るべき戦いというのは、このサーガの最終章であるところのオウガバトルと思われるので、もしかしたら天界の人間や、ロシュフォル皇子等かつての英雄が、降臨するのかもしれません。その時、アヴァロンを神聖側が掌握していることが、勝敗の鍵となったとか。

雷神トール

 アーサー王のアヴァロン伝説も、おそらく北欧神話におけるヴァルハラ信仰の影響を受けていると思われます。一方、本作の中で度々、北欧神話の三大神の一柱トールの名が出てきます。ここは関連付けてもいいだろうということで、本稿でもトール神を絡ませてみました。

 ゼテギネア大陸でトール神信仰があったのは間違いなく、雷神の鞭/シグムンド/サンダーグラブ/雷鳴のヘルム/雷鳴の指環という五つもの装備品がトール由来とされており、没設定ですが、当初は天空の三騎士の一人である固有キャラクターとして、雷神トールが登場する予定だったそうです。

 そんなトールですが、残念ながらゼテギネア神話には存在しないことになってるんですよね。1番名前出てくるのに。なので、ゼテギネア神話の中で1番キャラの弱い快楽神ザムンザが、勢力の強かったトール神信仰を吸収したため、他の神と並び立つようになったということにしました。

 本作の重要な北欧神話要素としてもう一つ、女戦士クラスのヴァルキリー/フレイヤがあります。ヴァルキリーは三神の中でも主神オーディンと、フレイヤは三神最後の一人フレイと関係の深い存在なんですが、ヴァルキリー/フレイヤは共に雷撃魔法を扱うんですよね。

 なので本稿では、現実の北欧神話における三神を一柱に習合したものが、ゼテギネア大陸におけるトール神信仰であるという解釈をしました。女好きの神ザムンザと結び付けたのはこういう意図があって、女戦士が雷撃魔法のみ扱えるのは、彼女達は本来魔術師の素養はないが、ザムンザ=トールが女戦士に無分別に力を与えるからだという理由です。

 厳粛な太陽神フィラーハとは別に、この神の島アヴァロンを特徴付ける要素として、勇気を示す女性戦士の味方トール神という存在を登場させ、アイーシャの仇討ちを劇的に後押しさせてみました。

オウガ

 オウガバトルという呼び名の由来(実際はQUEENの曲名ですが)となった「オウガ」ですが、一体どういう存在なのか、実はサーガが完結していない現在わかっていません。

 このアヴァロンで、初めてその存在が明かされるわけですが、早速情報が矛盾し、プレイヤーは煙に巻かれます。しかも、今後もオウガに関する情報は出てこないので、『伝説』におけるオウガがどういうものなのか、一度整理したいと思います。

 太古の昔、魔神や悪魔と共に地上の覇権を懸けて、神々を奉じる人間と戦った、愛や正義よりも力と闘争を好む野蛮な悪鬼というのが、オウガに対する一般的な理解のようです。この場合、悪魔に近い亜人の一種という感じでしょうか。

 一方で、神聖都市タルジンの男は、オウガとは悪魔に心を奪われた人間のことでは、と推測を述べています。ここでは、人間とは別個のオウガという種族がいるわけではなく、心の有り様の問題のようです。そうなると、信仰がオウガと戦う術であるというのも、説得力が生まれてきます。

 アヴァロン島ステージボスのガレスが、オウガであるという説も出てきます。ガレスは、ラシュディより授けられた暗黒魔法によって、鎧をその分身として動かしおり、鎧には悪霊や死神が取り付いているそうです。暗黒魔法という力に溺れ、元の人間性を失って残虐な黒騎士と化したガレスは、オウガと呼ぶに相応しいかもしれません。

 神への信仰を失い、暗黒魔法等の力と引き換えに内面的にも外面的にも元の人間性を失った、外道に堕ちた人間のことをオウガと呼ぶのではないでしょうか。世が乱れると人心も荒廃し、オウガと化す人間も増えてくる。力を崇拝するオウガは地上に魔神や悪魔を召喚することも厭わず、地上から神への信仰を駆逐せんばかりになった戦争が、オウガバトルとなるのでは。

 

キャラクター

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アイーシャ

 本編中で唯一、年齢が明かされるんですが、なんと18歳。聖母と言うには若すぎる気もしますが、現実の聖母マリアはローティーンでイエスを身籠っているので、これでも年増なのかも。当然、味方キャラの中では最年少だと思われます。本稿のウェンディは19歳のつもりで書いているので、姉妹感が出ててもいいかなと。

 島出身の神官で、母の死を機に帝国打倒を決意するという、設定パクってると思われても仕方ない感じですが、僧侶系女性オピニオンリーダーだとどうしてもアイーシャとイメージ被っちゃうんですよね。一応年長でリーダーのウェンディの方が好戦的な姐御肌で、アイーシャは普段は大人しい激情家という、キャラクター付けが出来ればなと思います。

 デフォルトのプリーストがイメージとも合ってるんですが、上記のようにアヴァロンでヴァルキリーが活躍するシーンはアリだなと思ったので、ヴァルキリーにしてガレスに挑ませました。ライトニングのエンチャントは、アイーシャ固有のものということで。今後は普通に、プリーストとして使っていくと思います。

 ナイトはともかく、マーメイドが同時加入する理由として、カストラートから海を渡ってきたということにしました。カストラート海ステージへ行く前にマーメイドの特徴を押さえておけっていう、制作者側からの配慮でしょうか。

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ガレス

 帝国の皇子で、ラスボスの一人でもあるガレスですが、ここで登場するのは分身体ということで、強さは控えめ。まだ前半戦ですし。黒騎士という異名は見たまんまですが、皇子でありながら騎士というのは、流石武の国ハイランド。

 もう一方の不死身のガレスというのも、分身体を使って何度もプレイヤーの前に立ちはだかってくるので、納得っちゃ納得ですが、ラスボス戦では前座扱いでそのまま死んじゃうし、そもそもこういうしつこい敵キャラって、戸愚呂兄宜しくなんか雑魚のイメージあるんですよね。

 雷撃が比較的苦手なのは、鎧だからですかね。ステータスが平均的に高くて、ウェンディの魔法やソニックブームが躱されたりしたので、リプレイに反映してみました。実際は、頑張ればアッシュの攻撃も当たります。むしろライアンの雷遁が当たらない。

 鎧には悪霊や死神が取り付いているそうですが、システム的には反映されていないので、よくわかりません。個人的には、ガレスがep.5におけるオウガという説はアリだと思います。ep.8では、ガレスみたいな人間を辞めた奴等の軍団と戦うんですかね。

 

プレイ記録

軍団編成

 自軍本陣のバインゴインから敵本拠地のアムドまで、ほぼ一直線に進軍するので、本陣守備の部隊は要らないでしょう。イベント消化用のウェンディ隊に、装備を充実させた主力部隊、そしてアイーシャ回収用の隊。以上3部隊で攻略します。

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 第1隊の構成は、リーダーにウェンディ、低空移動用にカノープス、他にサムライのアッシュとランスロット、ニンジャのウォーレンを加えた固有キャラの部隊。

 第2隊の構成は、ヴァルキリーのリサリサをリーダーに、低空移動用のランカスター。この2人を後衛に、前衛としてサムライのブラッキィ/ティム/シルフィード

 第3隊の構成は、リーダーがサムライのギルバルド、ニンジャのライアンとヘクター、ヴァルキリーのエンヤ。後からアイーシャを加えるので、4人まで。また、アイテムで前線に呼び出すので、低空移動用のキャラは必要なし。

 一応リサリサ隊の装備を記述しておくと、アンデッドとの戦闘を考慮して、前衛のサムライ3人には神聖武器である「ルーンアックス」「神宿りの剣」「神秘のメイス」、STR効果のみかかるランカスターには最強武器「シグムンド」、魔法で攻撃するリサリサには若干INT補正のある「イスケンデルベイ」を持たせてあります。ただ、あんまり上手くなかったので、適宜付け換えています。

アイーシャ加入

 最初の目標は、マップ中央の隠し教会を解放し、アイーシャを加入させることです。

 リサリサ隊を中央北部の湾付近まで進出させつつ、ウェンディ隊でその後方を進軍し、中央教会の解放を目指します。ギルバルド隊は編成がまだ完了していないので、出撃はさせません。

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 ウェンディ隊の進路を白線、リサリサ隊の進路を赤線で表しています。

 敗退の可能性を考えると、リサリサ隊とウェンディ隊をあまり近付けているのも不安ですが、ウェンディ隊の進軍を遅らせ過ぎて攻略が遅くなるのも面白くないので、リサリサ隊がガントーク付近まで来たところで、ウェンディ隊を進発させました。回復アイテムとタロットを使っていけば、大丈夫でしょう。

 この時点で気を付けるべき敵は、大空移動で進軍してくる、グリフォン2体を擁したヴァルキリー隊です。グリフォンもヴァルキリーも物理攻撃が弱点なので、タロット「チャリオット」で削り、仕留めました。

 アイーシャ加入イベントを終えると、第4隊としてアイーシャ隊が加入しますが、第4隊は使わないので解散します。

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 その代わり、第3隊のギルバルド隊は4人しかいないので、最後の一人としてアイーシャを編成します。

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 また、リーダーでなくなったアイーシャは、プリーストからヴァルキリーにクラスチェンジさせます。成長度を考えるとヴァルキリーよりプリーストの方が優秀なんですが、アイーシャでガレスを倒そうと思ったら、事前に前衛のブラックドラゴンを倒さないといけない上、前衛に置いて低火力の攻撃で倒さなければならないので、非常に難易度が高くなるんですよね。

 ヴァルキリーなら高火力の、しかも魔法で攻撃できるため、前衛のブラックドラゴンを倒す必要もない。アイーシャの初期CHA値では、一度クラスチェンジを行うとデフォルトのプリーストには戻せないんですが、ガレスを倒せればプリーストの条件をクリアするので、問題ありません。

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中央戦線

 次の目標は、リサリサ隊で敵を迎撃しつつ、ウェンディ隊をアムド前方まで進出させます。

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 ここでは、リサリサ隊がいかに敵を撃退できるかが鍵です。

 1番厄介なのは、ゴースト4体を連れたゴエティック隊です。アンデッドは神聖攻撃以外ではダメージが与えられないため、前衛に神聖武器の装備が必須となりますが、加えてAGIも高いため、単純に攻撃が当たらないことも多いです。

 なので、ホークマンでAGIの高いランカスターに「ルーンアックス」を持たせて前衛に置き、代わりに「シグムンド」を装備したシルフィードを後衛に下げてソニックブームを撃たせることで、ゴースト達を倒しながら、リーダーのゴエティックも確実に仕留めました。

 ゴエティック隊との戦闘で、ランカスターのLv.が上がったので、ホークマンから上位互換のバルタンへとクラスチェンジさせました。ALI値がギリギリの所にあったのですが、ちょうどアンデッドを倒した後にLv.が上がってくれたので、助かりました。

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 次に厄介なのが、エンジェル3体を連れたプリースト隊です。エンジェルの火力は大したことないので、殴り合いのダメージ量で負けることはないのですが、このステージ8時点でプリーストに回復力を発揮されると倒しきることができず、戦線に残存し続けるんですよね。

 プリースト隊がウェンディ隊の前方に見えたら、リサリサ隊で積極的にぶつかっていき、早めに撤退させます。

 一方で、部隊を戦闘要員で固めた地上ユニットも、こちらは湾の西側を迂回して進行してきます。

 ニンジャとナイトで構成されるナイト隊は一見強力そうですが、ニンジャが2人とも後衛にいるので、案外勝てなくはありません。

 やはり、ドラゴンを有したバーサーカー隊が厄介です。バーサーカー自体の攻撃力も高いし、ドラゴンのファイヤーブレスも強力で、単なる殴り合いでは戦闘不能者が出て、押し負ける可能性があります。

 最も攻撃の集中しやすい前列中央に、最もステータスの高いシルフィードを今まで通り配置すると、武器ではなく防具の「ヒドラの牙」を装備させます。ヒドラの牙は、物理耐性と火炎耐性を上げてくれる上、STR補正まで付くという、まさにドラゴンと戦うためのアイテムです。これでシルフィードが生き残ってくれれば、勝てるはずです。

 リサリサ隊が真っ直ぐ進めば、湾に沿って進軍することになるのですが、ここでマーメイド隊と水上で戦う可能性が出てきます。マーメイド自身も地形補正で強化されますが、連れている2体のオクトパスが、地上と別物のように強くなるので、無策で当たると敗退の危険が濃厚です。

 なので装備を、火炎と雷撃が弱点のマーメイド隊専用に付け換えます。通常攻撃で、サンダーアローとライトニングを撃てるリサリサとランカスターには、属性関係なくそれぞれINTとSTRを上げる武器で構いません。直接攻撃になる、前衛のティムとブラッキィには火炎属性の「イスケンデルベイ」、シルフィードには雷撃属性の「シグムンド」を持たせました。

 敵への対抗策としては、これで一通りです。後は、キュアポーションやキュアストーンをジャンジャン使いながら、力で押していきます。意外とタロットを使わずとも、なんとかなりました。

アムド侵攻

 ウェンディ隊がアムドの手前まで進軍したら、ギルバルド隊をマップ上に出撃させ、「オールサモンズ」を使います。

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 このままアムドへ向かってもいいんですが、折角前線の人数が増えたので、先鋒となるリサリサ隊の人員を少し入れ替えます。

 具体的には、5人の中でもLv.の高いランカスターとブラッキィを、ギルバルド隊のヘクター、エンヤと入れ替えました。

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 リサリサ隊は若干の戦力ダウンになる上、敗退で即隊列が乱れるので、勝利が必須になりますが、今まで通り装備を対策して落ち着いて対処すれば、進軍には差し支えないでしょう。

 これ以降は地上移動になるため、運搬用キャラは考えなくても大丈夫です。

 リサリサ隊→ギルバルド隊→ウェンディ隊の順にアムドまで進撃します。

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 出撃してくる敵を蹴散らしてアムドに辿り着いたら、ガレス攻略シフトへチェンジします。

 一度替えたブラッキィ/ランカスターとヘクター/エーニャも、元に戻しました。これに関しては、特段理由はないんですが、趣味です。

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 ガレスを仕留めるのは最後に突入するウェンディ隊になるため、ウェンディ隊にアイーシャを入れます。代わりに外すキャラですが、先述したようにもう飛行移動にする理由はないので、カノープスと交代しました。

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 陣形も、後列のガレスを攻撃できるように、各隊後衛を3人配置します。

 リサリサ隊は、サンダーアローを撃てるランカスター、魔法攻撃のできるリサリサに、ソニックブームを使えるシルフィードを後列。

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 ギルバルド隊は、サンダーアローを使うカノープスソニックブームを撃つギルバルド、忍術を扱うライアンを後衛に配しました。

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 ウェンディ隊は、ソニックブームを撃てるアッシュ、魔法攻撃のウェンディ/アイーシャを後列に。

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 更に、装備も変更します。

 とりあえずウェンディ隊最優先で、ウェンディにINT補正最高値の神宿りの剣、アイーシャにINT補正次点の神秘のメイス、アッシュはSTR最高補正のシグムンド。前衛は耐久力を考え、ウォーレンがINTにマイナスがあるもののSTR補正の高いマラカイトソード、ランスロットにはSTR補正に加え若干のINT補正もあるイスケンデルベイを、それぞれ装備しました。

 ギルバルド隊には残りの装備から、STR補正の高いルーンアックス、黒王の剣をカノープス、ギルバルド、またINT補正もあるイスケンデルベイをライアンに。前衛のヘクターとエンヤには、次にSTR補正の高い覇者の剛剣とペリダートソードを装備させます。

 リサリサ隊には防具を装備させても良かったんですが、アムドまでの血路を開いたことで彼等の仕事は9割方完了してるので、何も装備させなくてもいいでしょう。

アムド攻略

 愈々ガレスとの戦闘に入ります。因みにHPの減ってるキャラも居ますが、肝心なキャラは温存しておいたので、ここで回復アイテムを使う必要はありません。

 1番手はリサリサ隊で、リーダー補正のあるリサリサが先制のライトニングを撃てます。メインの削りはギルバルド隊がやってくれるので、ライトニングが当たったらリサリサ隊は即撤退します。

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 2番手はギルバルド隊です。同じく、リーダーのギルバルドが先制でソニックブームを撃てます。ソニックブームが当たれば満足なので、そのまま撤退します。

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 外れても、敵の攻撃は前衛が庇ってくれ、後衛に届く攻撃は1~2発なので、カノープスのライトニングアローとライアンの雷遁×2で削れれば、大将のウェンディ隊で十分撃破できる算段。その場合、ヘクターとエンヤは戦死しますが、彼等にダメージソースは期待していませんし、撤退時にCHAが減らないで済むので、むしろ好都合。

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 3番手が、愈々本命のウェンディ隊です。先制でウェンディでアイスレクイエムを放ちますが、まあ当たりません。

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 ガレスのイービルデッドを喰らってもHPは温存してきたので、問題なし。

 アイーシャのライトニングが、現時点でのウェンディ軍では大火力なので、リプレイに反映させてあります。但し、ガレスはソニックブームかサンダーアローの一方だけしか受けていないので、まだ倒せません。ソニックブームを当てた上で、サンダーアローも喰らわせていれば、ここで撃破できるのですが、アッシュが攻撃するシーンを作りたかったので。

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 アッシュのソニックブームは当たらないこともないですが、外れてくれないとここでガレスを倒してしまうので、外れてくれて良かったです。上述の通り、ギルバルド隊での戦闘を調整すれば、アッシュのターンを待たずにガレスを撃破できるのですが、ここは趣味です。

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 ウォーレンやランスロットブラックドラゴンを撃破するのは困難なので、やはり盾役と考えます。特に集中砲火を浴びるウォーレンは戦死の可能性もありますが、全弾命中以外は一命を取り止めますし、最悪戦死も已む無しです。実際は生き残ったので、ウォーレンに経験値を稼がせることができました。

 アイーシャの二発目のライトニングで、漸くガレスを撃破しました。

 

戦後処理

聖母アイーシャ

 アイーシャは、ヴァルキリーからINT成長度の高いプリーストに戻しておきました。こちらの方が、アイーシャらしいですし。今後は、ウェンディ隊のヒーラーとして使っていきたいと思います。

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 ついでに、すっかり忘れていましたがリサリサもプリーストに、またアイーシャと共に加入してきたカッシングとマーフィーもサムライにと、ステータス成長率のいいクラスへチェンジさせておきました。

ドロップアイテム

 戦闘時のドロップアイテムで、「ソウルコール」、「光の囁き」、「体の源」、「勇者の欠片」をゲットしました。

 「ソウルコール」は、マップ上で使える回復アイテムで、戦死したキャラを生き返らせることができる、いわゆる“フェニックスの翼”です。ソウルコールは幾つあっても困らないので、ストックしておきます。

 「光の囁き」は、マップ上で使用できる時間操作のアイテムで、時間帯を昼にすることができますが、正直使いません。質入れ用ですが、既に1つ獲得していて、ストックを圧迫しないことが救い。

 「体の源」は、いつでも使えるドーピングアイテムで、最大HPを上げる、いわゆる“命の木の実”です。早速ですが、ウェンディに使っておきます。

 「勇者の欠片」は、いつでも使えるドーピングアイテムで、Lv.を1上昇させる、いわゆる“不思議な飴”です。ただまあこれに関しては、クラスチェンジの際使うかもしれないので、今のところはストックしておきます。

埋もれた財宝

 マップ上の隠しアイテム「埋もれた財宝」を回収しに行きます。埋もれた財宝は装備アイテムであり、何が出るかはランダムなのでこれによって攻略難度が変わってきます。

 戦うわけじゃないので回収部隊はどんな構成でもいいんですが、1日目の出撃コストがかからないウェンディ隊を使い、移動力重視でグリフォンのイーロス、後は折角なのでアイーシャと、趣味でウォーレンを入れました。

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 埋もれた財宝は、マップ南東端にある離れ小島に一つ、アヴァロン島南東の沿岸部に一つ、マップ北部神聖都市ラゾンのある島の西側に一つの計3つです。

 まず、南東端の財宝を回収しに行きます。1つ目の財宝は、「雷のオーブ」でした。「雷のオーブ」は、中程度のSTR補正と最上位の雷撃耐性が付与されるアクセサリです。アクセサリではおそらく最も使える。

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 次に、そのまま本島南東沿岸の財宝を回収します。2つ目の財宝は、「コールドシールド」でした。「コールドシールド」は、中程度の物理耐性と最上位の氷結耐性が付与される最強クラスの防具、雷獣の楯の氷結版です。

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 そして、マップを対角線に渡って、北島西部の財宝回収に向かいます。3つ目の財宝は、「神宿りの剣」でした。神聖属性かつ、中STR補正と高INT補正という優秀な武器で、しかも既に1つ持っているのでストックを圧迫しない。

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 はっきり言って、今回の埋もれた財宝は当たりですね。ヤッター。

トリスタンを止めてくれ

 スラム・ゼノビアステージでカルロバツにいるバーニャから「栄光の鍵」を入手しているので、このアヴァロン島ステージで帝国軍本拠地だったアムドに立ち寄ると、帝国に侵入したというトリスタン皇子の庇護を頼まれます。

 別に、このイベントを見ていなくても、なんなら依頼を拒否したとしても、攻略上何の不都合も生じない、つまりイベントを消化しても特にメリットはないんですが、折角なので皇子の庇護を引き受けました。

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 リプレイでは、宗教都市ガルヤルサで聞くことのできる、大神官フォーリスと魔法使いボーグナインが旧知という関係を利用して、トリスタンはディアスポラへ向かったということにしましたが、本編で皇子がディアスポラを経由しているかどうかはわかりません。

アイテム補充

 僕のプレイがヒーラーを置かないスタイルのため、ステージ攻略の度に回復アイテムの補充が必要で、毎度シャロームのチャンジガルに戻っているのですが、そろそろキュアポーションの買い足しはしなくてもいいんじゃないかと。

 今回の攻略でちょうどキュアポーションのストックを使いきったので、回復アイテムはキュアストーンとソウルコールのみで行きたいと思います。

 その代わり、これまでキュアストーンの常備数は20で、今回の攻略で5つ消費して15残っているのですが、多めに15買い足して30ストックしておきます。

 ソウルコールはドロップも含めて11所有しているので、買わなくてもいいと判断しました。

 

攻略後記

 今回はアヴァロン島ステージの攻略でした。

 アイーシャを加入させるだけなので、攻略自体は大してかかりませんでしたが、それだけだと味気無かろうと思い、折角ラスボスの一人ガレスが出張してきてるので、リプレイでは戦闘面での描写を膨らましたら結局いつも通り長大な投稿になってしまいました。僕の悪い癖。

 第2部では、女の子の固有キャラクターが複数人加入しますが、その1人目であるアイーシャのキャラクターを立たせる意図として神の加護を描きたいなというのと、母の仇を討たせるならヴァルキリーに変えなきゃなという攻略上の都合から、そう言えばアヴァロン伝説ってヴァルハラ信仰だよな→北欧神話由来だとゼテギネアってトール神信仰があるよな→よく考えたらヴァルキリーって雷使えるじゃん、みたいな流れでアヴァロン/トール/ヴァルキリーを絡めた話を作ってみました。

 何度も倒されるせいでいまいち小物感が拭えないガレスですが、これでも力を信奉する帝国の皇子という地位にあるので、相応の存在感を示してもらいました。オウガバトルサーガep.5という位置付けではありますが、『伝説のオウガバトル』というタイトルである以上、本作にもオウガの先触れのようなものがあった方が個人的にはしっくりくるので、本稿ではガレスを『伝説』におけるオウガとして捉えたいと思います。

 暗黒道に堕ち化物と成り果てたガレスと、神への信仰が持つ内なる力を示したアイーシャの対決は、新生ゼノビア編の幕開けとして相応しい構図だったのではないでしょうか。今後ウェンディ達は、その新生ゼノビアの中心となるはずの血気盛んなトリスタン皇子を追って、帝国領へと進軍していくことになります。

 今回も長々と読んでいただき、ありがとうございました。

 よろしければまた次回、お付き合いください。

 

伝説のオウガバトル

伝説のオウガバトル

  • 発売日: 1993/03/12
  • メディア: Video Game
 

 

 

ウェンディ、ゼンダに立つ 『伝説のオウガバトル』攻略日誌 その8 リプレイ編

 

 本稿の概要に関しては、こちらをご覧ください→

 今回の投稿の、解説編はこちら→

 

第2部 ゼノビア新生編

ステージ8 聖なる戦い

 ゼノビアでの補給を終えたウェンディ軍は、海を渡り内海に浮かぶアヴァロン島へと渡る。

「東の海への出口に位置するアヴァロン島は、太陽の一番初めに射し込む中心の山間部が、天界に最も近い場所とされ、古来より太陽神フィラーハ神の託宣を請ける聖地とされてきました。オウガバトルのその以前より、戦いの中で勇敢さを示した戦士達の魂は、死後このアヴァロンへ辿り着くとされ、来る暗黒の力との最終決戦において、神の御名の下に正義を守るために戦う、その備えに入るのです」

 アヴァロンへ向かう船の中で、ウォーレンから島の伝説の説明を受けるウェンディ。

「アヴァロンを聖地とするフィラーハ信仰の宗派も、元は彼等戦士達の魂を鎮めるための祭儀が教典化したものであり、今現在ゼテギネア大陸の正教と言えるロシュフォル教も、その流れを汲むものです。アヴァロン島は、ロシュフォル教の聖地であると同時に、島全体がロシュフォル教を受け容れていると言っていいでしょう。勿論、未だ原始フィラーハ教を守っている島民も居ますが、彼等とて先代、先々代よりロシュフォル教の大神官とは非常に近しい関係にあります」

 ロシュフォル教の教主フォーリスは、同時にアヴァロン島の統治者でもあるというわけか。

「だからこそ、トリスタン王子の存在を帝国から隠し通すことができていたわけね」

「当代の大神官フォーリスは若くより敬虔な信徒として知られた女性であり、神の教えが蔑ろにされる混乱の時代にあって、ロシュフォル教会が未だ信仰の門としての形を保っていられるのは、偏に彼女が正義と慈愛の心を説き続けてきたからに他なりません」

 力による支配で暗黒の道を推し進める帝国に対し、自らの信義にのみ従い続けてきた大神官フォーリス。ロシュフォル教の教主としてこれ以上相応しい人物はいないだろう。だが、

「正義と慈愛をなによりも尊ぶ大神官。そんな人なら」

「ええ。帝国の意に従うとは思いません。そのフォーリス様を、グラン王を手に掛けたガレスがどう扱うか」

 人の命を奪うことを、なんとも思ってない男。フォーリスが高潔な信念を抱き続ければ、いずれ――。

「あまり、時間はないかもしれません」

 自然、表情が引き締まるウェンディ。

 と、そこへ、

「おい、ウォーレン。もう一度、印の結び方教えてくれるか」

 ニンジャの装束をしたライアンがやってくる。

「貴方、獣王様なんじゃなかったの?」

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「ギルバルドも居るし、魔獣が少ないのにビーストテイマーやる意味もないだろと思ってな。サムライばっかだから、相性の良いニンジャが居た方がいいだろ」

「拘りとか、あるわけじゃないんだ」

「生き残るのは、変化を受け容れられる奴だ。時代が自分の方向くのを待ってるだけじゃ、人間の短い一生で名を残すことなんてできない」

 一通り教わるとライアンは、練習してくると言って去っていった。

「そう言えばカペラと戦った時、忍術は大陸の魔法とは違うって言ってたけど」

 ウェンディは、ポグロムで聴いた魔術講義を思い出した。

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「魔法は、空気中の精に対し、杖を媒介としながら呪文で誘導をかけることによって、威力を発揮する術式です。魔導の肝は呪文に込める言霊であり、多種多様な呪文を知り、それを如何様に用いれば重き言霊となるかを常に考える。魔術の行使は、知性を限界まで働かせてこそ効果があるものです」

 という話を聞いてるだけでも、ウェンディの知性は限界なのだが。

「一方で忍術は、同じ精を導引する方法論ながら、その術式が印の形で記憶されています。己と精を通じることで活性化させて化身を成し、己の一部として精を操るのが忍術です。純化された術式である忍術を行使する際、知性は寧ろ不要。己を空と同じくし、感性のみに因りて行うは、体術の一種という言い方もできるかもしれません」

 理解できてるか不安だが、要は頭を空っぽにして感覚的に行使する魔法ってことか。

「知性と感性の違いはあると言え、精への導引は共に高い集中力を要します。魔法の適性がある人間なら集中の仕方を知っているため、忍術においても高い威力を発揮することができます」

 ニンジャならば、戦士適性の人間でも魔法が使えるのは有り難い。そう言えば、もう一つ魔法を使う戦士クラスがあったな。

「ヴァルキリーの魔法は、ウィザード型? ニンジャ型?」

「あれは、魔法というより加護に近いもので、女性戦士の制式装備である雷神トールの名が刻まれた槍を持つと、誰彼を問わずライトニングを放つことができるようになるようです。何故女性戦士にだけ加護がもたらされるのか、原理は私にもよくわかりませんが、一説によると好色の男神ザムンザは、ゼテギネアにおけるトール神信仰を習合していると言われています。あるいは、それが関係しているのやも」

 女好きだからっていうのは身も蓋もないが、女性全員に加護を授けてくれるとは、太っ腹な神様で良かった。

 

 アヴァロン島へ上陸したウェンディ軍を、一人の男が待ち受けていた。

「貴殿方が、ゼノビアを解放したという」

 見たところ、軍人には見えないが。

「貴殿方を待っていました。私はバインゴインの者です。我等は帝国と戦う貴殿方を支持します。バインゴインを解放してあるので、拠点としてお使いください」

 ちょうど軍の本拠地が欲しかったところなので、彼の申し出を受けることにする。

 バインゴインへ向かう道中、

「彼にトリスタン王子の事を聞いてみるのは?」

 ウェンディはウォーレンに確認するが、

「いえ、バインゴインへ着くまで、彼が帝国の手先でないという確証があるわけではありませんし、それよりも、流石に王子の事は一部の者にしか明かされていないでしょう。フォーリス殿にお会いするまで、伏せておいた方が賢明でしょう」

 言われてみれば、そうかもしれない。ウェンディは、男から現在の島の情勢を聞き出す。

「帝国はもう、このアヴァロンへ入っているのね?」

「ええ。先日、帝国の皇子、黒騎士ガレスが軍を率いてこの島へやって来ると、ロシュフォル教会を帝国の支配下に組み入れるよう、アムドに居られた大神官のフォーリス様に要求しました」

 やはり、ガレスは既にアヴァロンへ来ていたか。

「ロシュフォル教の前身であるフィラーハ教は、この聖域守護を主とする祭祀派と、世俗の争いに関与していく教化派に分裂し、やがて多数派だった後者が戦乱に呑み込まれると、フィラーハ教自体も衰退していきました。その反省から出発したロシュフォル教は、教会の本義を見失わないよう、世俗の権勢からなるべく距離を置き、己自身の内なる信仰に、正義と慈愛の戦いの場を求めることを、その教義としています」

 ゼテギネア大陸でフィラーハ教が衰退したのは、今から50年以上前になる大陸擾乱期の混乱が原因だったのか。王子が開祖とされるロシュフォル教の反世俗的という興味深い姿勢も、そう聞くと納得できるものがある。

「それゆえ、法皇を罷免し、教会を否定した神聖ゼテギネア帝国に対しても、敵対はせずに、あくまで中立という姿勢を貫いてきました。ところが、此度の要求。フォーリス様は頑として独立を主張し続け、それは教会の、そしてこのアヴァロンの意志でもあったのですが、服従を拒否するフォーリス様を、ガレスは見せしめとして弑したのです」

 ウェンディに衝撃が走る。あまりにもあっさりと、その言葉が発されたから。

 従わねば、殺す。自己以外の一切の命に敬意を払わない、帝国の暗黒道がもたらす現実。その非道さが、改めて思い知らされる。

 しかも、相手は戦士ではない宗教者だ。その宗教者が示した信仰を、一方的な暴力で否定する。そんなことは、絶対に許してはならない。

「力ずくでこの島と教会を支配したガレスを、神のみに従う教会の僧侶達は認めないでしょう。我等とて、ガレスに従うのは御免です。たとえ命を落とそうとも」

 男の顔には、悲壮な覚悟の表情が浮かんでいた。

 バインゴインへ到着する。

「ウェンディ殿、どうかガレス奴を倒し、フォーリス様の仇を討ってくだされ」

 ウェンディの手を取って懇願する男。ウェンディは、

「わかった。必ず、このアヴァロンをガレスの手から解放してみせる」

 男の手を握り返し、力強く答える。

 ウェンディの答えを聞くと、男は元来た道を引き返していった。

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 バインゴインへ入ったウェンディ軍は、アムド攻略の作戦会議に入る。

「ガレスは既にフォーリスを殺し、アムドを占拠していますが、本国からまだ大部隊が送られていない今の内なら、付け入る隙があると思われます」

 いつもように、ウォーレンが会議を進行する。

 島の南西に位置するバインゴインから見て、アムドは中央の山岳を挟んでちょうど対極の北東部だ。

「アヴァロン島中央部は火山地帯になっており、地上からアムドを目指すなら、沿岸部を大回りしていく必要がありますが」

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「俺等が居れば、関係ないな」

 声を上げたのは、カノープスだ。

「はい。低空運搬ができるカノープス殿とランカスター殿を配した部隊で、中央の火山帯を進軍。そのままアムドへ直行するのが一番かと」

 有翼人の周りに居る人間が彼の羽を身に着けると、ハーネラ神の加護により低空を飛行する能力を得る。だから有翼人の居る部隊は、地形に関係なく進軍することができる。

「問題は、どなたを先鋒にするか。一部は、バインゴインへ残しておく必要もありますから」

「私に先鋒をやらせて欲しい」

 前へ進み出たのは、リサリサだった。若く、血気盛んなリサリサは、この頃出撃しても戦闘の機会に恵まれない防衛任務ばかりで、鬱憤が溜まっていたのだろう。

「いいでしょう。リサリサ殿の隊を先鋒として、我等も進軍します」

 ヴァルキリー、サムライ、ニンジャで構成されるウェンディ軍は、ガレスの待ち構えるアムドへ向けて、バインゴインを進発した。

 

 島全体が、海から突き出た大きな火山と言っていいアヴァロン島は、陸地の大部分を占める山岳、谷底に海水が入り込んでできた湾、周縁部に所々都市を置く平地で主に構成されている。

 ウェンディ軍はリサリサ隊を先頭に、島の中心へ向かって北東に切れ込む湾沿いに進むと、やがて火山地帯へと入っていった。

 湾沿岸の荒地も、火山地帯の行軍も、カノープス等がいるおかげでハーネラ神の加護を受けるウェンディ達は、なんなら平野を行くよりも容易に進んでいける。

 そうして空中から進行路を見下ろしていたランカスターは、敵軍の動きにいち早く気付いた。

「前方から敵が来てるぞ」

「気付かれたか」

「いや、違うみたいだ」

 敵は、こちらを目指してるわけじゃないらしい。

「む、既に交戦中だぞ」

 敵兵は、交戦部隊への増援だった。

 どういうことだ? 私達以外に、帝国軍と戦っている者が居る?

「どうする? 敵の注意が逸れてる内に進むこともできるが」

 私達の目的は、アムドに拠る黒騎士ガレスを倒すこと。先遣部隊とは言え、帝国皇子が擁するということは敵は親衛隊だ。アムドまでの戦力は、できる限り温存したい。だが、

「帝国と戦う人間は、私達の同志よ。見捨てては行けない」

 帝国と戦う意志。私達の戦いは、それを守るためにあるのだ。

 ウェンディ軍は、今まさに進行中の戦場へ向かう。

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 見えてきたのは、帝国軍のナイトとニンジャに襲われている、ナイトとマーメイドで構成された部隊。指揮を執っているのは、プリーストか?

 芳しくない状況へ、更にドラゴンを連れた帝国のバーサーカー隊が加わる。このままでは厳しいか。

 と、見るが早いか、飛び込んでいったリサリサ隊。

 動きの速いニンジャを後に回し、重装備のナイトを見事な連係で叩く。

「助太刀する」

 プリーストに告げたリサリサは、バーサーカーの隊に向き直る。

 躍り掛かった敵前衛バーサーカー棍棒を、ティムとブラッキィがサムライ装備の長刀で受け止める。と思う間に、ドラゴンからのファイアーブレス。

「ぐっ」

 持っていたヒドラの牙に守られたシルフィードは、辛うじてドラゴンの炎を耐えた。

「敵の大振りに注意しつつ、こちらの攻撃を的確に当てろ」

 部隊に指示を出しながら、リサリサは敵リーダーと思しきバーサーカーにライトニングを浴びせる。

 装備の比重を攻撃に置くサムライは、前衛においてもナイトのような力押しではなく、テクニカルな戦い方が要求される。間合いを制し、敵の呼吸の隙を衝く居合い抜き。

「アバーッ!」

 リサリサ隊は、敵部隊を撃破した。

「私はウェンディ。貴方は?」

 追い付いたウェンディは、先刻、帝国と戦っていた女性司祭に名乗った。

「私は、大神官フォーリスの娘で、アイーシャと言います」

 フォーリスの娘。ということは、

「母君の、仇討ち」

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「このアヴァロンで神官を志す者は、16になった年から、異郷の地へ旅に出て、己の心を試す修行を積まねばなりません。私も、二年前より大陸を周遊し、修行に励んでいたところ、悪名高いガレスがアヴァロンへ来たと聞いたのです。その時カストラートに居た私は、マーメイド達の力を借り、急ぎ海を渡って帰ってきたのですが、時既に遅く…」

 母親の死に目にも逢えなかった。

「この二年で私が目にしてきたのは、帝国の手によって、大陸中に暗黒が堕とされていく様です。この世界で信仰を失わないことが私の戦いと思い、これまで修行を続けてきましたが、遂に愛する母までも。このまま祈り続けたとて、帝国のある限り、この世に救いは訪れません」

 ゼノビアを解放する戦いの中でウェンディも、乱世における祈りがいかに無力かを見てきた。力で以て他者を虐げる存在を相手に、高潔な魂は容易く踏み躙られる。弱き者の怒りは、存在すら認めてもらえない。

「せめてガレスに一矢でも報いねば死にきれぬと、この火山帯の中にある聖地に潜み、機会を窺っていたのですが、発見され戦闘に」

 そこでアイーシャは、ウェンディの目を見る。

「この地を解放しに来た貴殿方の軍に、私を入れてもらえないでしょうか。どうか、母の仇を取らせてください」

 この娘は、私と同じだ。ウェンディは思った。

 巫女であったウェンディの母も、帝国がもたらした荒廃で聖霊の加護が失われる中、必死に祈祷を続け、やがて体を病み、精気を使い果たして死んでいった。島の安寧をのみ願った母が死なねばならなかった理不尽に、その怒りを知らしめるためウェンディは大陸に渡ったのだ。

「いいわ。共にガレスを打ち倒しましょう」

 ウェンディ軍は、新たな仲間を迎えることになった。

 

「しかし、アイーシャ殿が仲間に加わるのは佳しとしても、カッシング殿やマーフィー殿は、先程の戦闘で手傷を負っており、どこかで静養する必要があるかと」

 ウォーレンの言うように、アイーシャ隊の戦士達は、直ぐに戦線へ加わるというのは難しそうだ。

「この近くに教会があります。私達は、そこで傷を癒してから合流するので、先行してもらって構いません」

「ふむ。ですが、アイーシャ殿達ばかりを残していくのは、少し心配ですな」

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「俺が残ろう」

 ギルバルドが声を上げた。

「ギルバルド殿ならば安心です。後はニンジャも居ればいいのですが」

「しゃーねーなあ。俺も残るか」

 今度はライアンだ。

「いいでしょう。リサリサ隊、ウェンディ隊はこのまま先行し、進軍してくる敵を押し返します。ギルバルド隊はアイーシャ殿を組み入れた後、追いかけてきてください」

 二隊に編成され直す軍を見ながら、ウェンディはある事を思い出す。

「そう言えば、フォーリス殿の娘なら、トリスタン王子の事を知ってるかしら?」

「トリスタン?」

「元ゼノビア王国の王子です。アヴァロン島で匿われていたと聞いたのですが」

 アイーシャは、少し考え込む。

「私がまだ幼かった頃、母に引き取られた遠縁の男子が居ました。体が弱いということで、人前に出ることもなく、私ともあまり交流はありませんでしたが、年齢を考えると、彼がトリスタン王子だったのかもしれません」

「その方は、今何処に?」

「私がアヴァロンを出るまでは、アムドに居たはずですが」

 ということは、王子も恐らくは…。

 一同が沈む間もなく、

グリフォンだ」

 敵はやってくる。

「では」

 二隊に別れるウェンディ軍。

 リサリサ隊が、グリフォンを引き連れたヴァルキリー隊の迎撃に向かった。ウェンディも後を追う。

 王子が無事でいる可能性は、限りなく低いだろう。だがそうだとしても、今は前に進むしかない。たとえ、勝っても失ったものを取り戻すことができない、仇討ちの行軍になろうとも。

「私達は、こんなところで止まるわけにはいかないのよ!」

 ウェンディは懐から一枚のカードを抜いた。

「チャリオットッ!」

 ウェンディ達の前に、地獄の勇者ロキと目される幻影が浮かび上がると、乗った車ごと敵に突進しながら、手にした鉄槌を振り下ろす。ぶつかる瞬間、ロキは消えたように見えたが、ヴァルキリーとグリフォン達は車に撥ねられたように体勢を崩す。

 そこへシルフィード達の攻撃が入り、ヴァルキリー隊を撃破した。

 火山帯を抜けると、今度は逆に中央に向かって南西に切れ込む湾沿いに、ウェンディ軍は進軍していく。

 と、何かが湾上をこちらに向かってくる。あれは、

「オクトパスです。水上のオクトパスは極めて厄介な敵となります」

 目の前に現れたのは、二体の大蛸だった。

「何か弱点はないの?」

「雷撃、もしくは火炎系の攻撃なら有効なダメージを与えられます。リサリサ殿はライトニングを」

「サンダーアローを使ってみるか」

 ただのホークマンからバルタンへと進化したランカスターは、掌から雷の矢を放つことができる。

「火炎系武器なら、イスケンデルベイが2本あるだろ」

 柄に双頭の鷲があしらわれた剣は、刀身に炎を宿すことで相手に大ダメージを与える。

 ティムとブラッキィが装備する間に、戦端が開かれた。

シルフィード殿はこれを!」

 ウォーレンが投げ渡したのは、雷神トールが鍛えたとされるシグムンド。受け取ったシルフィードはその勢いのまま抜刀し、正面のオクトパスに切り付ける。

「ヌヌヴゥーッ!」

 と、突然ランカスターがブリザードに襲われる。オクトパスの背後、マーメイドが隠れていたか。

「食らえっ!」

 後衛の敵を狙うリサリサのライトニング。マーメイドにも、雷撃は有効だ。

「まだまだっ」

 ダメージから立ち直ったランカスターが繰り出す、反撃のサンダーアロー。マーメイドは倒れる。

 見ると、オクトパスもティム等によって討たれていた。

 歴戦の兵達に、ウォーレンの的確な采配がある。敵がガレス靡下の精鋭だろうと、ウェンディ軍が遅れを取ることはなかった。

 

 太陽が最初に射すアヴァロン島は、日が沈むのも早い。特に、今ウェンディ達のいる島の東側は、西から射し込む夕日が高い山々に遮られるため、先程まで明るかった地が早くも暗黒に覆われている。

 進撃を続けるウェンディ軍は、湾を抜けた。もう、オクトパスを連れたマーメイド隊に苦しむこともないだろう。

 一息つこうとしたところで、漂う不審な瘴気。

「アンデッドが来る!」

 直感的に悟ったウェンディの声と同時に、ルーンアックス、神宿りの剣、神秘のメイスといった神聖武器を用意するウォーレン。

「そこかッ!」

 ルーンアックスを受け取ったティムが、ゴーストの気配を感知して斬りかかった。ルーンアックスに触れたゴーストは、一瞬で消滅する。

 ブラッキィも神宿りの剣を構えるが、

「攻撃が、当たらねえ」

 ほとんど質量を持たないゴーストは、回避能力も高い。その上、夜の闇に紛れたこの時分、瘴気の塊であるゴーストに攻撃を当てるのは、至難の業だ。神聖武器での攻撃なら、当たれば一撃で浄化できるのだが。

「素早い敵なら、俺に任せろ」

 有翼人のランカスターが、神秘のメイスをハンマーのように使い、一体のゴーストを倒した。

「どこかに、ゴースト達を使役するゴエティックが居るはずです」

「そいつを倒せれば」

 その言葉を聞きながら、シルフィードは刀の柄に手をかけて、腰を落とし、目を閉じる。

「ゴーストに比べれば、気配を読むのは容易い!」

 言い終わるや否や、放たれるソニックブーム。その先で上がる悲鳴。

「逃がさない!」

「アバーッ!」

 リサリサが追撃のライトニングを放ち、ウェンディ軍はゴエティック隊を撃破した。

「屍霊術師も、ガレスの配下に?」

 思わず呟いたウェンディに、

「俺の目を眩まし、グラン陛下を弑し奉ったガレスは、明らかに外法の術を使っていた。その上、あの大魔導師ラシュディと手を組んでいるとなれば、暗黒魔法を心得ていても不思議ではない」

 ガレスと見えたことのあるアッシュが答える。

「用心のため、ここからは神聖武器を装備して参りましょう」

 ウォーレンがそう指示したのも束の間、次に遭遇したのは、エンジェルを引き連れた部隊だった。

「なんてこと…」

 屍霊を使役する一方で、天使を軍勢として派遣する。神の定めた秩序を蔑ろにする、これが帝国のやり方だ。この天使達にしたって、力で無理矢理従わされているに違いない。

「あまり、天使達を殺したくはない」

「幸い、エンジェルの火力はそれ程高くありません。ダメージが落ちる神聖武器でその都度撃退していけば、鏖にせずとも進軍できます」

 ウォーレンが提案をする。

「が、回復役であるプリーストは、倒す必要があるでしょう」

 仮にも神に仕える身ならば、心から帝国に服しているわけではないだろう。けど、

「戦争なのよね。これは」

 サンダーアローを放ち、プリーストを仕留めたランカスターの顔も、決して清々しい顔とは言えなかった。

 それでも、いやそれ故に、ウェンディ達は進まねばならないのだ。戦いを望まぬ者の血が流されることのない、平和な時代を築くために。

 

 漸く街路に抜け、アムドの廓を臨める位置まで進軍したウェンディ軍の元へ、

「間に合ったか」

 アイーシャを伴って、ギルバルド隊が参陣した。よく見ると、アイーシャの装束が変わっている。

「今必要なのは祈りではなく、仇敵ガレスを打ち倒すための怒り。それに相応しい武装を整えたまでです」

 先刻の、聖母然とした静謐さから一転、今アイーシャは、チェリー色のマントを羽織り、ヴァルキリーの槍を携えている。

 アイーシャの顔には、自らの本分を捨ててでも母の仇を討つという決意の表情があった。

 そう言えば、カッシングやニーナ等、アイーシャが連れていた従者達の姿は見えないが。

「傷はある程度癒えたので本陣に帰らせ、アイーシャだけを連れてきた」

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「それでは、ここにいる者達でアムド攻略に参りたいと思います。先陣をリサリサ隊、その後にギルバルド殿と我々で続きます。部隊編成ですが」

 ちらと見るブラッキィとランカスターには、少々疲労の色が見える。

「兵の疲労を考え、人員の入れ替えをしたいところではあります」

「俺等は元気が余ってるぞ」

 声を上げたのは、ギルバルドと共に来たへクター。

「では、リサリサ隊のブラッキィ殿、ランカスター殿と、ギルバルド隊のへクター殿、エーニャ殿を交替し、改めてリサリサ隊に先陣を切ってもらいましょう」

 各々、異論はないと言う風に頷いた。

 三部隊となったウェンディ軍は、一路アムドを目指す。

 アムドからは、敵の迎撃隊が続々と繰り出してくる。

「おっと」

 敵ナイトの攻撃で怯みそうになったへクターに、

「前線の空気に馴れるまで、無理はするな」

 進軍の先鋒を支えてきたティムが声を掛ける。

「なに、もう覚えた」

 攻撃の後の隙にきっちり手裏剣を捩じ込んで、答えるへクター。

 新しく加わった二人も直ぐに順応し、リサリサ隊は帝国軍を危なげ無く撃退していく。

 アムドが目前まで迫った頃、

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「ウェンディ殿」

 ふとランスロットに呼び掛けられて気付くと、暗闇に浮かぶアイーシャの肩は、力が入り過ぎているように見える。

 無理もない。これから対面しようというのは、母の仇なのだ。同じく復讐の剣を構えたランスロットだからこそ、アイーシャの気負いに気付いたのだろう。

アイーシャは、私の隊に入れてもいいかしら?」

 本隊であるウェンディ隊ならば、アイーシャ一人が突出することもないはずだ。ウェンディが切り出すと、ギルバルドも意図を理解したようだ。

「こちらも、カノープスの機動力が欲しかったところだ」

「ではここで、再度編成を組み直しましょう」

 ウェンディ隊のカノープスと、ギルバルド隊のアイーシャの交替。また、休息を取ったブラッキィとランカスターも元のリサリサ隊へ復帰し、へクターとエーニャをギルバルド隊へ戻す。

アイーシャ殿にはこれを」

 ウォーレンが渡したのは、神秘のメイスだった。元々聖職者のアイーシャには、似合いの武器だ。

「ガレスは、アムドの中心、神殿付近で待ち構えていると思われます。進入した後、一気にガレスの元まで押し寄せましょう」

 愈々準備は整った。

 太陽神フィラーハの加護を請ける聖地アヴァロンも、今や夜の闇に染まっている。この地に降り立った悪鬼ガレスは、神の助けを求めるのではなく、自分達の力で打ち倒さねばならないのだ。血に染まったこの聖地に、光を取り戻すために。

「必ず、ガレスを討つ!」

 ウェンディ軍は、アムドへ突入した。

 

「…貴様等が、デボネアを破った反乱軍か…」

 ウェンディ達の前方、アムド神殿の正面。

 夜中の暗闇に目を凝らすと、漆黒の影がぼんやりと浮かび上がる。

「…要塞ゼノビア城をあっさりと落とすとは、なかなかやる…。…ここで貴様等を倒さなければ、後々厄介なことになりそうだ…」

 そう言うと、漆黒の影が一歩踏み出す。

「…もっとも、貴様等にこの俺を倒すことはできんよ…。…この、不死身の黒騎士ガレスはなッ!」

 そこに現れたのは、フルヘルムの兜で顔まで被った、全身黒の鎧に身を包んだ異形の男。黒騎士ガレスの姿だった。

「これが、ガレス…!」

 闇に溶ける黒色の鎧は見た目もそうだが、巫女の心得があるウェンディにはわかる、屍霊のように濃い瘴気を纏っている。おまけに兜から覗く、異様な紅い眼光。

 およそ、まともな人間の放つ気配とは思えない。ガレスというのは、人を罷めているのではないか。

 また、ガレスと同時に、黒山のような影、ブラックドラゴン二体が姿を現す。帝国の将軍というのは、どうもドラゴンを率いるのが好きらしい。

「間違いない。あれが、神聖ゼテギネア帝国皇子ガレスだ」

 ガレスと面識のあるアッシュが、13年前と同じその姿を認める。

「ガレスッ!」

 仇敵を目の前にし、遂にその怒りを爆発させたアイーシャが、帝国の皇子の名を絶叫する。

「私は大神官フォーリスの娘、アイーシャ

 紅く光る眼差しが、妖しく窄む。笑っているのか。

「大陸の平和を乱すばかりでなく、愛しい母の命まで…」

「…愚かにも帝国に逆らい続けたフォーリスは、その報いを受けたのだ…。…慈愛も正義も、帝国の力の前にはゴミ同然…。…最期まで神の名を唱え続けていたが、どうやら見捨てられたようだな…」

「おのれッ! 母の仇、取らせてもらうッ!」

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「クク…。…お前のような小娘が、俺を倒そうと言うのか? …良かろう、相手をしてやる。神がいかに非力なものか、その身体で思い知るがイイッ!」

「お前の敵は、アイーシャだけじゃない」

 ガレスが動く前に、リサリサが先制のライトニングを落とした。

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 ダメージがないわけではないはずだ。だが、そのままゆっくりと戦斧を構えるガレスは、

「イービルデッド」

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 ウェンディ軍全体を範囲に収めた、暗黒魔法を行使した。

 こ…、これは――。

 ラシュディの弟子の一人、カペラが使ったダーククエストと同種の、大量、高濃度の瘴気による精神攻撃。しかも範囲的には、カペラの魔法を上回っている。

 直撃を受けたものの、ウェンディはなんとか正気を取り戻す。一度カペラから受けて耐性が付いていなかったら、危なかったかもしれない。

 鎧が放つ瘴気は、屍霊術によるものか。ラシュディから暗黒魔法を授けられているかもしれないというアッシュの読みは、正しかったらしい。

 はっと振り返ると、一日中戦い通して疲労の大きいリサリサ隊は、精神攻撃による憔悴が著しい。

「後は私達に任せて」

 リサリサ隊を退がらせるウェンディ。

「はっ」

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 経験豊富なギルバルドは早くも態勢を建て直し、ガレスに向けてソニックブームを放った。

 が、ガレスは効いた様子がない。外したか。

「おいおい、何やってんだよッ」

 ギルバルドを詰りながら、サンダーアローを放ったカノープス

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 これには、体勢を崩すガレス。

「鎧は雷を通すか。なら、鵺!」

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 ライアンの雷遁忍術も、確かに効いているようだ。

 が、その勢いを断ち切るように、前衛のブラックドラゴンがへクターに襲い掛かる。

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「ぐおぉッ!」

 闇の力で強化されたドラゴンの一撃は重く、既にへクターは虫の息と言っていい。

 後衛のブラックドラゴンからは、アシッドブレスがエーニャを襲う。

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「ぎゃあッ!」

 強い。人々を力で支配してきただけのことはある。でも、

「まだよ!」

 ガレスが如何に強かろうと、そこにどれ程力の差があろうと、この戦いは、退くわけにはいかない。

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 アイスレクイエムを放つウェンディ。しかし、

「…その程度の魔力、俺には効かんぞ…」

 力不足は如何ともし難い。奴が魔性なら、神聖魔法バニッシュであれば。ウェンディが前衛へ踏み出そうとすると、

「貴様には、借りがあるな」

 ガレスに問い掛けたアッシュは柄に手を掛け、腰を落とし、じっと力を溜める体勢。彼は今、呼吸を測っている。

 ガレスがアッシュを認めた。

「…貴様は、アッシュか…。…死に損ないめ。騎士なら騎士らしく、ゼノビア王家の後を追え…」

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「王家を守れなかった儂に、敵討ちなどという名分はない。だが、一介の剣士として、貴様のことは斬るッ!」

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 間合いを見切った、完璧な抜刀によるソニックブーム。しかし、

「むっ、手応えが…」

 ガレスは変わらず立っている。

「王子を殺したの?」

 ウェンディは思わず、尋ねずにはいられなかった。

「…何故、貴様等が奴の事を知ってる…?」

 ああ、そんな…。

 と、その時、強烈な雷光が辺り一面に弾け、轟音と共にガレスを襲った。

「……ウ、ウゴ……」

 一瞬遅れて、アイーシャの放ったライトニングだとわかる。神官修行の身にあったアイーシャの集中力は、魔法の威力として存分に寄与していた。

「母が殺されたのは、お前に屈しなかったからだ。それこそ、母の正義と慈愛がお前の力に克った、何よりの証だ。神を信じる心が如何に強靭な力を生むか、お前の身体に思い知らせてくれるッ!」

 アイーシャは、再び雷撃のエンチャントに入る。彼女なら、やってくれる。ウェンディ軍の意思が一つになる。

 体勢を建て直したガレスが、アイーシャの魔法を阻止しようと動く。先程魔術の行使に利用した身の丈程の戦斧を、今度は物理武器として大振りに振り回し、唸りを上げて襲い掛かる。

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「ぎぃっ」

 ウォーレンが間に入り、アイーシャが攻撃を受けるのを防いだ。その手に握られていたのは、持ち主の魔力を吸って強度を上げるマラカイトソード。ウォーレンの魔力に反応して高硬度となったこの氷結剣が無ければ、危なかったかもしれない。

 強い。人々を力で支配してきただけのことはある。だが、

「ここは通さんッ!」

 ブラックドラゴンの攻撃は、ランスロットが受け止めている。何かを守る時の彼は、この上なく頼りになる。そしてそれは、ウェンディ軍の全員に言えることだ。

 アイーシャの詠唱に応じて、槍と共に携えている神秘のメイスが、聖なる光で彼女の身を包む。

「回る焔の剣を操る、轟の空を統べる豪勇の神よ。その恩恵の一つたる戦乙女の槍を以て、邪悪なる意思を打ち砕く力を我に授け賜へ。稲妻を司る雷神トールの名の下に」

 アイーシャの頭上を中心に、精気を含む灰色の雲が発生したかと思うと、周囲の精気を呑み込んでみるみる成長し、瞬く間に辺り一帯を覆い尽くさんばかりとなった。

「雷よ…撃ち轟けッ!」

 アイーシャの叫びに呼応するように、上空の雷雲でエネルギーが充填されるのがわかる。

 瞬間、大地を穿つ程の勢いで、ガレスに向かって光の束が殺到すると、炸裂して爆音を響かせた。

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 一面を煌々と照らした閃光が消えると、そこにあったのは、漆黒の鎧が砕かれたガレスの――、

「…ッ!」

 砕けた鎧。その中身は、何もなかった。ただ空虚な暗闇が、こちらを覗いていた。

「………オオ…、…俺が…、…負けるというのか………」

 何もない場所から、声が聞こえる。いや、声を出しているのは、鎧そのものか。

「………この俺が負けるなど…、…そんなバカなことが、あってたまるか………。………この俺の手で…、…らず…、…必ず貴様等を…、…地獄へ…送っ…や………」

 フルヘルムの紅い眼光が消え、鎧はその場に崩れ落ちた。

 終わった…のか。

 聖地アヴァロンを侵した悪鬼、その影を宿した漆黒の鎧は、神の怒りの如き雷により破壊された。

 血に染まった聖地は今、黒騎士ガレスの手から解放されたが、勝利したはずのウェンディ達の心に、言いようのない不安が翳を落とした。

 

 ガレスを倒したウェンディ達は、ひとまずアムドに腰を据え、アヴァロン島の戦後処理に当たっていた。

 住民の殆どが宗教者であるこの島は、ガレスの侵攻にあって、防衛力こそないものの無用な血が流れることもなく、一部の神官達を除いて生き残った者も数多い。

「これなら、そう遠くない日に、元のアヴァロンの姿を回復することでしょう」

 ウェンディと共にアムドの街を見て回っていた神官長は、闇が去った真昼の太陽の下でそう言った。

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 戦火を避けることで、彼等はアヴァロン復興の火種を残した。これが、彼等なりの戦いなのだ。ウェンディには、そう思われた。

 それにしても…。

 ウェンディには、気に掛かることが二つあった。

「ガレスのあの姿。あれは…」

 ウェンディ達が倒したのは、空っぽの鎧だった。しかし、その鎧はガレスと名乗り、戦斧を振るって魔法を唱えたのだ。

「屍霊術は、ああいうことも可能なの?」

 ウェンディは、傍らに控えているウォーレンに尋ねる。

「霊体を物質に定着させる術はないわけではありませんが、生霊を元の生体とかけ離れた物質に定着させるのは、霊自身の本質を失いかねないため、邪法とされています。生来の魔術師でないガレスはそれを理解していないのか、あるいは力と引き換えに文字通り魂を売ったのか」

 瘴気を纏った漆黒の鎧、フルヘルムから覗く紅い眼光を思い出す。確かにあの鎧が発していた気配は、人間のものではなかった。あれではまるで――、

「全身を真っ黒な鎧で包んだ邪悪な姿、私には伝説のオウガかに見えました」

 襲来時、ガレスの姿を見ていた神官長は、恐ろしさに身も縮むばかりと声を震わす。

「オウガとは、太古に地上の覇権を懸けて人間と争った、ゼテギネア神話に登場する悪鬼です。光より闇を、慈愛や正義よりも暴力と戦争を好む輩と言われています」

 ウォーレンが、ゼテギネアに明るくないウェンディに、オウガの伝説を補足する。

「勿論、オウガなるものがこの世に実在するものなのか、私にはわかりません。しかし、目には見えなくとも、神や魔神は人の心の中に存在します。ですから、魔神の僕たるオウガもまた、心の有り様としては存在します。オウガとは、心を売り渡し悪魔に堕した人間なのではないか、と私は思うのです」

 神官長の考えが正しければ、人の身体を捨て、暗黒の力の虜となったガレスは、正しくオウガと呼ぶに相応しいかもしれない。

「ウェンディ殿はお出でですか?」

 一人の男が、ウェンディの元を訪ねてくる。

「私がウェンディだけど、何か用?」

「ウェンディ殿に、折り入ってお頼みしたいことが」

 男の表情が、用向きの切実さを物語っている。

「私にできることなら、協力させてもらうわ」

「実は、トリスタン王子に関することなのです」

「トリスタン王子…!」

 これが気掛かりの二つ目だ。アムドに転がっていた亡骸を改めてみても、それらしきものは存在しなかった。かと言って、殺されなかった保証などないのだが、信じたかったのだ。アムドを脱出し、どこかの町に隠れて――、

「帝国軍が向かっていると知ったフォーリス様は、旧知の仲であったボーグナイン様を恃み、このアヴァロンから我等の舟で、トリスタン王子を落ち延びさせました」

 アヴァロンにはもう居なかったのか。しかし、

「それで、王子は今どこに?」

「実は王子は、父君を弑した帝国に復讐する機会を虎視眈々と待っておられました。貴殿方との戦いで帝国が動揺している今が好機と、トリスタン王子は解放されたゼノビアではなく、ボーグナイン様の住むディアスポラへと向かわれたのです」

 なんと、未だ帝国領であるディアスポラへ。

「血気を起こしたトリスタン王子が帝国の餌食となる前に、どうか貴殿方の手で、王子を保護してくださりませんか!」

 言われるまでもない。

「私達は、そのためにアヴァロンへ来たのよ。王子がまだ生きているならば、必ず私達の手で守ってみせる」

 ウェンディは、力強い言葉で男に約束した。

 

 大方の戦後処理に片が付くと、後のことをアイーシャに任せて、ウェンディ軍は今後の作戦会議に入る。

「トリスタン王子が、ディアスポラに…」

 ウェンディが知り得た情報を伝えると、アッシュ以下ウェンディ軍の戦士達も、安堵と動揺の入り混じった表情を見せる。

「つきましては、このアヴァロンから大陸に渡るに、北のカストラート海へ向かう航路と、西のディアスポラへ向かう航路があるのですが」

 ウォーレンが一応の確認を取る。

ディアスポラへ向かう。みんなも、それでいいかしら?」

 一同は、異論なしというように頷いた。

 そこへ、元のプリースト姿に戻ったアイーシャが訪れる。

「やっぱり、貴女にはそっちの方が似合うわ」

 マントを翻して槍を構えるアイーシャも勇ましかったが、同じチェリー色の装束でも、法衣に身を包み、杖を携える彼女は、若くして聖母の佇まいであり、こちらの方が彼女の本分なのだと実感する。

「これらは、教会からのせめてもの支援です。受け取ってください」

 アイーシャはソウルコール、光の囁き、体の源、勇者の欠片、神宿りの剣、コールドシールド、雷獣の楯を渡しに来てくれたのだった。

「ありがたく、頂戴させてもらうわ」

「それに、もう一つ。この先の戦いに、私も連れていってください」

 それは少し意外だった。

「貴女には、この島でやることがあるんじゃなくって? それも、立派な戦いだと思うけど」

 アイーシャは静かに首を振る。

「今でも、神への祈りに勝るものがあるとは思っていません。それでも、帝国がある限り、この地上の信仰は脅かされ続けるのです。私は、神への信仰を、その意志が生きるこの島を守るために、帝国を討たんと欲するのです」

 ウェンディには、彼女の意思を止めることはできなかった。何故ならば、ウェンディが戦いを決意したのも、正しく同じ理由からだったのだから。

「それじゃあ、こちらからもお願いするわ。安国寺をもたらす帝国を倒し、この大地に再び神の光を取り戻すため、是非貴女の力を貸してちょうだい」

 アイーシャは、腰を屈めてその言葉を請けた。

「謹んで」

 ロシュフォル教の若き聖母を迎えて、ウェンディ軍は帝国打倒の決意を新たにする。この戦いは、単に悪逆非道の徒を討ち取るだけに止まらない。神への祈りを蔑ろにする暗黒の教えを除き、大陸に新たな秩序を築くための戦いなのだ。

 そのためにもウェンディ達は、新たな秩序の中心となるべき王トリスタンを求め、帝国領ディアスポラへ向かう。ディアスポラで待ち受ける敵が如何なる相手だろうと、神へを信じる心を忘れない限り、ウェンディ達の戦いは祝福されるであろう。このアヴァロンにおける、悪鬼と化した黒騎士ガレスとの戦いで、聖なる怒りがその影を祓ったように。

 

伝説のオウガバトル

伝説のオウガバトル

  • 発売日: 1993/03/12
  • メディア: Video Game
 

 

 

ウェンディ、ゼンダに立つ 『伝説のオウガバトル』攻略日誌 幕間7.5 解説編

 

  本稿の概要に関しては、こちらをご参照ください→

 今回の記事のリプレイ編はこちら→

 では、本文をご覧ください。

 

 

キャラクター

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デボネア

 メインとなる話は前回やりましたが、それを受けて今回は、戦いを止めるために動くデボネアという形です。

 やたら創作エピソードが多いと思うかもしれませんが、それも已む無しというか、彼はイベントにおける台詞量から、シナリオ上の主人公的立ち位置にあるトリスタン皇子なんかより、遥かに存在感出してるんですよね。後半戦の仲間になってからは、敵である帝国軍幹部との絡みもあって、実質主人公と言っていい活躍ぶり。

 ただ、アッシュの言ったように、自身の信念に従ったデボネアゼノビアに左遷するようなエンドラなら、戻って進言なんかすれば捕縛されるのは目に見えてたはずなんですけどね。その辺は甘さというか、盲目というか。“やらねばならぬこと”って、クーデターだったんでしょうか。流石に愚行だと思うので、ウォーレンに一言入れさせてもらいました。

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ライアン

 本稿を書くに当たって、原作に最も改変を加えたキャラクターです。年齢も、20代前半ということにしてあります。ギルバルドの事を知らずに、「獣王」を名乗っていたということで。

 本編のライアンは、いかにも粗暴な傭兵といった感じですが、それだと、「ワールドエンド」を目指す正義のウェンディ軍にはちょっと似つかわしくないんですよね。

 なので、己を大きく見せる野心家な部分は変えないままで、その手段を善行によってのみ為すという風にキャラクターを変更しました。大体五千ゴートを払った結果仲間になるなら、五千ゴートは回収できるんじゃ? 個人的には、七人の侍の菊千代をイメージしています。

 実質創作キャラのようなものであり、ウェンディとも年齢が近いので、本稿では最も動かしやすいキャラクターになるかと思います。

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バーニャ

 トリスタンを逃がした乳母。なのに何故一緒に居ないのか。そして何故「栄光の鍵」をお前が持っているのか。あとジャンはどうなった?

 そもそも作品内の世界では、アッシュによりゼノビア王家は皆抹殺されたというのが通説なはずで、グラン殺害後の混乱期、如何様に王家殺害の噂が生まれたのか、帝国は真実を知り得ていたのか、一介の乳母と思しきバーニャが、どうやってトリスタンを逃がしおおせたかという経緯を創作しました。

 貴族等の政権簒奪後、王家の人間は人前に出ることがなくなったので、死亡説が出た。帝国との開戦により、注意の空白地帯が生じたゼノビア王宮で、バーニャが息子を身代わりにしてトリスタンを逃がし、暗躍したアプローズの悪知恵でトリスタンは死んだことにされた。帝国はトリスタンの存在を把握していなかった、というかそもそも重要視してなかったかも。

 栄光の鍵は、息子の亡骸を引き取った時に回収したことにしました。息子の命と引き換えに護ったトリスタンと、その象徴である栄光の鍵により、彼女のゼノビア王室付き乳母としてのプライドが強調できて良かったかなと思います。

 初見時は、「えっ、俺が王様なるんじゃないの?」って吃驚だったんですが、身の程弁えろとか言われて腹立ちますね。年月を短縮したのと、この時の高圧的な態度から、年齢はまだ元気な50代としました。大体この時期のトリスタン、何もやってないし、民主主義の世界で育った僕からしたら、帝国と戦ってるオピニオンリーダーの方がよっぽど新王に相応しいと思いますけどね。

 

プレイ記録

ドロップアイテム

 今回は、スラム・ゼノビアステージの戦後処理になります。

 とその前に、攻略時のドロップアイテムで「7リーグブーツ」を入手しました。

 「7リーグブーツ」は、マップ上で使える部隊移動用の消費アイテムで、攻略指南などではよく多用されていますが、オピニオンリーダーの隊をメインで動かす僕のプレイスタイルからすると、7リーグブーツより「オールサモンズ」の方が使えるんですよね。しかも、オールサモンズ既に5つも持ってるし。これは質入れ用になるかと思います。

アイテム回収その1 

 今回の実働部隊は、フルメンバーで行く必要もないだろうということで、グリフォンのパラディオに、ウォーレン、ランスロットの移動速度重視の部隊にします。

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 そのウェンディ隊でまずは南下し、マップ南の埋もれた財宝の一つを回収しました。

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 財宝は「ペリダートソード」でした。マラカイトソードの劣化版なので、正直微妙。

ライアン雇用

 北部のアイテム回収に向かう前に、一旦アンベルグを経由してライアンを雇用します。

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 攻略前すげなく断ったライアンの申し出ですが、攻略後は前回比75%offという破格のお値段になっているので、五千ゴート払ってライアンを雇用します。

 今後イベントなども特にないんですが、お金は余ってるので仲間にして損はないでしょう。

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アイテム回収その2

 ライアンを雇用した後は、再びアイテム回収に戻ります。

 バイロイト西方の山中に一つ。「雷鳴のヘルム」でした。雷撃耐性は結構上がるので、まあ悪くない。

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 ここから北の半島部、及び小島に、3つの財宝があるのでそれも回収。

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 1つ目は「バーニングバンド」。火炎耐性は上がりますが、効果は薄く、氷結耐性が下がるデメリットもあるので、ぶっちゃけ外れ。正直この時点で、リセットボタン押そうか少し迷った。

 2つ目は「イスケンデルベイ」。既に1つ持っている主力武器だったので、これならバーニングバンドの失敗は目を瞑ってもいい。

 本作は、消耗品、装備品、貴重品が全て同じ場所にストックされるので、アイテムの管理が必須になります。なのでストックを食わないアイテムの重複は、寧ろ嬉しい展開です。

 3つ目は「シグムンド」。雷撃属性の武器で、最高クラスのSTR補正。ヤッター。

栄光の鍵入手

 アイテムを全て回収したら、ゼノビア西方の小島にある隠し拠点、貿易都市カルロバツを解放。

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 バーニャが現れ、トリスタンの生存が明かされる。たかが乳母の癖に偉そうな彼女に付き合って、大陸を治めるか?の問いに「いいえ」と答えると、「栄光の鍵」を入手。

 最悪無くても、カオスフレームの関係でトリスタンを仲間にすることはできますが、折角なので貰っておきます。

人員整理

 ここまでのプレイで軍団の人数が増えてきたので、画面を見やすくするためにリストラします。

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 まず、魔獣はグリフォン以外使うことはないんですが、見栄え的に1種類ずつは残しておきたいと思います。

 なので、ドラゴンとワイアームを1頭ずつ破棄。

 グリフォンは居ても困らないんですが、あんまり多いのもなんなんで、1体減らして3頭に。この前入ってきたばっかのマラトーンですが、ゼノビアに置いていきます。

 亜人種、つってもまだ有翼人しか居らず、彼等は居れば居ただけ役に立つので3人とも保存。

 問題は男性戦士で、彼等の数が多いんですよね。

 固有キャラ6人も皆男性戦士と言っていいので、汎用キャラを思いきって6人解雇します。

 また女性戦士も2人減らして、4人でいいでしょう。

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 こんまりスタイル。

 リプレイで名前の出たアンディやエリーゼを解雇したので、彼等にはゼノビアの復興と統治を任せるという名目を与えておきました。

 

これまでのおさらい

 第1部の流れを大まかに整理したいと思います。

  • 序幕:本稿における(独自)設定

 13年前、大陸全土を巻き込んだ戦争(「ゼテギネア大戦」)に勝利したハイランド王国は、他の四王国を滅ぼし「神聖ゼテギネア帝国」を建国。

 皇帝に即位したハイランド女王エンドラによる独裁の下、帝国は軍拡路線を断行するため民に重税を課し、政策に異を唱える者を次々と投獄していった。

 帝国の支配により、神の教えを蔑ろにする暗黒道が大陸に蔓延し、太古の時代に封印されし魔界の者達も、その復活の時を待ち望んでいる。

  • ステージ1:ヴォルザーク決起

 外海と接する小島サージェムに住む巫女ウェンディは、帝国支配の余波を受け脅かされる生活に発起。悪の根源、神聖ゼテギネア帝国打倒のため、大陸に渡ることを決意する。

 13年前の大戦を傍観することしかできなかったヴォルザーク島に住む占星術師ウォーレンは、時代のうねりの中に自らの意志を示すため、帝国に反抗する戦士達を招集する。

 祖国滅亡の無念を臥薪嘗胆に、13年間戦い続けてきたランスロットを含む旧王国戦士団は、同じくヴォルザーク島に呼び寄せられたウェンディをリーダーに仰ぎ、打倒帝国の旗を揚げる。

  • ステージ2:シャローム辺境に上陸

 大陸へと渡ったウェンディ軍が、最初に対する敵は盗賊上がりの男、蛮勇の士ウーサー。彼はランスロットとの因縁があった。

 大戦時、ゼノビア軍の陣中にあったウーサーは、計略によってゾングルダークを奪取。そのまま帝国に寝返り、騙されたランスロットは、自らの過ちを悔い続けてきたのだった。

 ウェンディの言葉で王国騎士の誇りを取り戻したランスロットは、屈辱の過去と決別し、明日を切り開くためウーサーに戦いを挑む。彼の剣は、13年の後悔を断ち切るように閃いた。

 シャロームを治めるは、元ゼノビア王国魔獣軍団長、天空のギルバルド。彼はシャロームの安寧のため、戦士の誇りを捨て帝国へ臣従した。

 親友のカノープスは彼の苦悩を誰よりも理解しており、一度は仲違いしたギルバルドの苦痛を終わらせるためウェンディ軍へ加わる。

 ウェンディとの戦いに明日を築いていく光を見たギルバルドは、自らの命と引き換えにシャロームの安堵を申し出るが、カノープスの説得もあり、ウェンディを支えるために戦うことを誓う。

  • ステージ4:ジャンセニア湖の魔物

 人狼伝説の残るジャンセニア湖の支配者、天狼のシリウスは、本物のウェアウルフであり、残忍な欲望のままに都市の娘を拐っていた。
 騙し討ちを得意とするシリウスの策により、窮地に陥るウェンディ軍だったが、自分達の戦いの重みを思い出し、再戦の末シリウスを撃破する。

 だが、同時にウェンディには、相手の命を奪う戦いという正義の重みが、その身に改めて深くのし掛かった。

  • ステージ5:デネブの庭制圧

 ゼノビア南方の山岳地帯に住まう魔女デネブは、ラシュディ所蔵の魔導書と引き換えに帝国に従っていた。

 魔導書の研究が終わった以上、帝国に従う気はないというデネブに対し、ウェンディは市民に害をなさないことを条件に、その命を救う。

 しかし、性根が我儘なデネブに対する民衆の反感は根強く、ウェンディ軍はその評判を落とすこととなった。

 大戦時、大多数のゼノビア軍、及び民間人が森と共に焼き払われたポグロムの地には、未だに大量の怨念が漂っており、ゼノビア人にとって負の歴史を刻んでいた。

 この地を支配する黄玉のカペラは、大魔導師ラシュディの弟子の一人とされる魔術師であり、ポグロムの死霊を使って、外法の魔術を行使しようとしていた。

 魂を弄ぶカペラを撃ち破ったウェンディの手により、呪いとなって影を落としてきたポグロムから、ゼノビアは漸く解放された。

 ゼノビアの東に位置するバイロイトには、王家殺害の大罪人であり、元王国騎士団長でもある狂戦士アッシュが囚われていた。

 グラン王殺害の真実を語ったアッシュは、王家を失った騎士としての自分を葬り、ウェンディの剣として残りの生を見出だすと、因縁のある疾風のデボネアとの戦いに挑む。

 ウェンディ軍に敗北したデボネアは、命を捨てる場所をエンドラの元と定め、戦いを止めるためにゼテギネアへ帰還する。

 

創作要素

 ゲーム本編では、五王国の戦争は25年前ということになっているのですが(ゼテギネア大戦という語も造語)、本稿では諸々の事情により半分に短縮して13年前ということにしてあります。それに伴い、年齢も多少変更。

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 伝説の勇者であるオピニオンリーダー(本稿におけるウェンディ)は、東の孤島サージェムの出身ということにしました。実際は出身地不明であり、サージェムも非実在の島なんですが。

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 本編のウォーレンは何を考えてるか謎な人物ですが、本稿では大戦時、王国の崩壊を為す術なく見るしかなかった後悔を抱えていたというキャラクター付けをしました。以降の攻略でも、軍師的ポジションを担ってもらっています。

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 ランスロット加入に際しても、本編では“いい目をしている”だけの理由でしたが、それじゃあんまりなので、ウェンディの戦士としての覚悟を試すくだりを入れました。

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 本編では一言だけだったウーサーとランスロットとの因縁を創作し、両者のキャラ立ちと、新しい時代を築いていくというウェンディ軍のイメージも示すことができたと思います。

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 カノープスとギルバルドの親友という関係性を強調し、カノープス加入に際した、ギルバルドの苦痛を終わらせるという目的意識を明確にしました。

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 ギルバルドの翻心においても、民のために自分一人の戦いに殉じようとしたギルバルドの心を、明日への希望を追い求め続けるウェンディが溶かし、人々と協力して戦うという流れにしてあります。

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 シリウス戦は、彼の策士キャラを強調することで、ウェンディ自身の戦う意味とその覚悟を問い直させています。

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 それを受けたデネブ戦では、デネブを殺さないという選択に説得性を持たせると同時に、民衆の求める正義も提示しました。

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 ラシュディの弟子として、アルビオレ、サラディンと比肩されるカペラの格を上げるため、魔神の召喚を行おうとしており、彼の魔力はそちらに割かれていたということにしました。

 またこのステージでは、汎用女性戦士のエリーゼに裏主人公的性格を持たせてもいます。

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 アッシュの台詞から、デボネアと面識があったらしいので、騎士団長時代に師弟関係のようなエピソードがあったことにして、両者のキャラクターを立たせています。

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 また、アッシュが大逆の罪人とされた、グラン王殺害の経緯も語らせ、死に場所を求めるという彼の加入時の台詞をそれっぽく仕立てています。

 

 第1部は、個人的な正義感というある種の感情で打倒帝国の志を掲げたウェンディと、帝国に滅ぼされたゼノビア王国旧臣の意趣返し、という向きが強かったと思います。

 ですが第2部からは、大陸に秩序をもたらすため、トリスタンとラウニィーという、新しい時代の中心を求める戦いに入っていきます。

 第1部はなかなかのボリュームとなりましたが、もしかしたら第2部はもう少し軽くなるかも。よろしければ第2部以降も、お付き合いください。

 

伝説のオウガバトル

伝説のオウガバトル

  • 発売日: 1993/03/12
  • メディア: Video Game
 

 

 

ウェンディ、ゼンダに立つ 『伝説のオウガバトル』攻略日誌 幕間7.5 リプレイ編

 

  本稿の概要に関しては、こちらをご参照ください→ 

 今回の記事の解説編はこちら→

 では、本文をご覧ください。

 

第1部 シャローム蜂起編

幕間7.5 新たなる光

「負けたのか、この私が」

「容易に剣筋を見切れたのは、貴公の剣に迷いがあったからだ」

 未だ茫然としているデボネアに、アッシュが声を掛けた。

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「この戦いに正義がないことを、己でも薄々気付いていたのだろう。他に兵の姿が見当たらないのも、自身の戦いに巻き込んで、無用に散らす命を見たくなかったからではあるまいか」

 アッシュの言葉に、デボネアは項垂れたまま。この男は、噂に違わない武人のようだ。

 ウェンディもデボネアに語り掛ける。

「貴方程の人がそこまで忠誠を尽くすのだから、エンドラにも立派な君主としての面があるみたいね。でも、シャロームに入ってから私がこれまで見てきた現状、そしてこのゼノビアの有り様。とても、この大陸を治めるに相応しい人物とは思えないわ」

「…先王崩御後の混乱を収め、ハイランドの女王として君臨したかつての陛下は、紛れもなく立派な君主だった。だが、最近の陛下はお人が変わられたようだ。確かに、以前の陛下とは違う…」

 表向き、反乱軍鎮圧のためと言われているが、自分が最前線のゼノビアへと派遣された理由に、デボネア自身は思い当たる節がある。

 ゼノビアへの出征命令が下る前、デボネアディアスポラ監獄の責任者でもあった。

 生来の勤厳実直さで、市井の治安を脅かす盗賊、不正を働こうとする官僚を厳粛に取り締まってきたデボネアだったが、此度、軍費供出に反対した市民達を全員投獄するよう言い渡された。

 反乱軍の挙兵を名目に、帝国は鎮圧のための特別軍事費を認可。その負担は当然のように、ディアスポラを含む旧ゼノビア領市民達の元へのし掛かった。

 重すぎる税に耐えかねた市民達は、団結して徴発の拒否を陳情。それを受けた帝国側の回答は、陳情に参加した全員の捕縛というものだった。

 仕事にも真面目だったデボネアは、軍拡を続ける国費を賄うため、日頃から課される法外な税に喘いでいるディアスポラ市民の窮状を知っており、そこに加えて今回の増税。彼等に費用を捻出する余裕がないのは無理からぬことである旨を、エンドラに向けて上申した。

 その結果、反乱軍鎮圧の陣頭指揮を執れと命を受け、ゼノビアへの派遣が決まったのである。

 ハイランドの統治に当たっていた頃の陛下は、民の生活を何よりも労り、決して無実の民を罰するなど良ししなかった。あまつさえ、家臣の意見に耳を貸そうともせず、一方的に処分を下すようなことは…。

 私が仕えてきた陛下ならば、そんな真似はしない。今の陛下の周りには、廃止された宰相の代わりに顧問を務めるラシュディを始め、私の知らぬ者も多い。よもや、彼等の手で、陛下の判断が狂わされているのでは? 彼等が陛下の慧眼を曇らせ、我等忠臣達の意見から耳を塞いでいるのでは?

「私は、陛下のためならばこの命、いつ捨てても構わないと思っていたが、私が陛下の言葉と思っていたものを、何処ぞの下郎が発していたとしたら…。陛下でない者のために死ぬのは御免だ」

 跪くデボネアは、ウェンディを見上げて言った。

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「虫のいい話と思うだろうが、もし貴殿が許してくれるなら、私に最後の忠義を尽くす機会を与えてはくれまいだろうか。この戦い、いや民に苦痛を強いる帝国の圧政は、きっとエンドラ陛下の御意思ではないはず。我が命を懸けて、陛下を惑わす輩を取り除いてみせる。勿論、そんな言葉を信用できないというのであれば、この場で斬り捨てて貰っても構わないが」

 私達がデボネアを倒せたのは、彼が単独で最前線に置かれていたからだ。使い捨てるように自分を死地に送ったエンドラに対し、それでも尚デボネアは、最後に忠義の剣を振るいたいと言っている。

「ウェンディ殿…」

 何か言いたげなアッシュ。アッシュはデボネアに思うところがあると言っていた。つまり、旧知の間柄だということだ。デボネアの最後の頼みを、叶えてやりたい思いがあるのかもしれない。

 ウェンディは、デボネアの目を見る。そこには、彼女が知る最も確かな光。ランスロットやギルバルド、他の仲間と同じ信義の光が宿っていた。

「貴方がこの戦いを止めてくれると言うなら、私達だって願ってもないことよ」

「…誠か?」

 自ら言い出したことだが、デボネア自身信じて貰えるとは思っていなかった。

 ウェンディは周りを見る。

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「ウェンディがそう言うなら、仕方ねえな」

 カノープスはぼやいているが、満更でもなさそうだ。ウォーレンも、ウェンディを支持するように頷く。

 結局のところ、皆このデボネアという武人を気に入ってしまったのだろう。

「忝ないっ」

 デボネアは、深く、頭を垂れた。

 

 細部をウォーレンに委ねる形で、戦後処理に一応の段取りをつけたウェンディには、向かう所があった。

「よう、ゼノビアは解放できたようだな」

 ウェンディは、この男ライアンに会うために、アンベルグへやって来ていた。

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「お陰様でね。貴方が協力してくれなかったら、こう上手くはいかなかった」

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「俺は何もした覚えはねえが、そんなに俺のことを買ってくれてるなら、お前等に力を貸してやってもいいぜ? 但し、手土産として、五千ゴートよこすってんならな」

 五千?

「二万じゃなくて?」

「おたく等も金が無えみたいだしな。一万五千は、トロイの木馬の情報料だ。ゼノビア城を攻略した今となっちゃ、お前等にとってそれ程の価値は無えだろ」

 確かに、五千と言っても、1~2ヶ月遊んで暮らせるだけの大金ではある。

「いいわ。五千ゴート払ってあげる。貴方の力を貸してちょうだい」

「おっ、本当に用意してくれたのか?」

「考えておくって言ったでしょ?」

「ワッハッハッハッハ! この俺様が加わりゃ百人力だぜッ!」

 相変わらず調子がいいな。

「私はこれから帰るけど?」

「俺は少し、やることがある」

「それじゃ、用事が済んだらゼノビア城へ来るといいわ」

 ウェンディはそう言い残して、アンベルグを去った。

 

 ゼノビアに戻ると、ちょうど準備を整えたデボネアが出立するところだった。

「もう行くのね」

「ああ」

「もし貴方さえ良ければ、このままゼノビアに留まってもいいのだけど」

「嬉しい申し出だが、私にはやらねばならないことがある。戦いには負けても、ハイランド騎士の誇りは失っていないつもりだ。主君に対する忠義、領民に対する仁義、朋友に対する信義。三つの義を貫くという誇りが、ハイランド騎士の強さを支えている」

 デボネアの言葉には、力強い信念がこもっていた。

「だから、この剣に懸けて誓おう。貴殿の信頼に応えることを」

 それが気高き武人たる、デボネアという男なのだ。

 ウェンディ達は、僅かな供のみを連れてゼノビアを出ていくデボネアの後ろ姿を見送った。

「彼がエンドラの目を醒ましてくれたら、大陸に平和が戻るのかしら」

 誰ともなしに呟いたウェンディに、

「正直、難しいかもしれません」

 ウォーレンが答える。

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「長年に渡り圧政を続けてきたエンドラが、今更家臣の諫言一つで政を改めるかどうか。デボネアは力尽くでも改革を断行する心積もりでしたが、今エンドラの側近には大魔導師ラシュディも控えています。デボネアのような正攻法を好む男は、魔術師の弄する搦め手に掛かりやすいのも事実です」

 そう甘くはないと、思ってはいたが、

「じゃあ、戦いはまだ続くと思っていた方がいいのね」

 アッシュにも、悲痛そうな表情が浮かぶ。

 命の重みを知るデボネアが、無意味な死を遂げることがないよう、ウェンディは祈った。

 

 ゼノビアで戦後処理にあたるウェンディに、ランスロットが報せを持ってきた。

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「このゼノビアの西に位置する小島に、カルロバツという隠れた貿易都市がある。そこに、是非ともウェンディ殿とお会いしたいと申す方がいらっしゃるようだ」

 戦後処理といっても、年若いウェンディに優れた実務能力があるわけでもなく、リーダーとして大まかな流れを決めた後は、実質手が空いていたりする。

 グリフォンのパラディオに乗って、ウェンディはゼノビアを飛び立った。

 西の小島の上空を飛んでいると、意外に早くカルロバツを見つけることができた。ゼノビアのすぐ近くにありながら隠れ都市ということだったが、逆に近いことが幸いしたらしい。

 ウェンディは、貿易都市カルロバツを解放した。

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「そのお方は、こちらでお待ちしております」

 代表に案内された先には、老いた女性が居た。

「私は、ゼノビア家の乳母を務めていた、バーニャと申す者にございます」

 そう言うと、老女は深く御辞儀する。

 少し老け込んで見えるが、動作のきびきびした様子から、老婆と言うにはまだ若く、50代くらいだと思われる。

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「貴方をお呼びしたのは、他でもありません。帝国からゼノビアを解放なさった貴方に、グラン王の忘れ形見、トリスタン王子を探し出して欲しいのです」

「王子? ゼノビア王家の人間は、皆殺されてしまったんじゃないの?」

 だからこそ、アッシュは絶望し、ランスロットは主の居ない戦いを続け、ウォーレンが蜂起したのではないのか。

「いえ、トリスタン王子は生きておられます」

 バーニャは、ゼノビア王家が滅ぶこととなった顛末を語り出した。

「王陛下崩御の後、貴族議会の専横が始まると、彼等にとって邪魔者となったフローラン王妃とトリスタン王子は、王宮の奥で軟禁状態となりました。ですが、流石に貴族達も、王家に直接手を掛ける罪を犯すのは躊躇われたようです。帝国との戦争が始まるまでは、外に出ることこそできないものの、身の安全は保たれていました」

 グラン殺害の罪をアッシュに着せ、自分達は国王の代理として国政を牛耳った貴族達だ。王家と敵対してしまえば、反対陣営、例えば王家直属の戦士団などに、自分等を追討する大義名分を与えることになる。

「しかし、ハイランドの宣戦布告に対し、主戦派と降伏派で貴族達が分裂すると、王妃と王子は一時的に後ろ楯のない不安定な状態になりました。その時、フローラン王妃が失踪なされたのです」

 軟禁されていたはずの王妃だが、逃げたのか?

「アプローズです。あの男は、ハイランドが戦争に勝つと見越して、恩を売るために王妃を拉致したのです。ゼノビア王室の血を受け継いでいるフローラン王妃に、三種の神器の在処が託されていることは、王国の中枢にいる者なら皆知っていました。アプローズは、三種の神器を得る鍵として、フローラン王妃をエンドラに献上したのです」

 アプローズ。その名は、ポグロムの地で聞いた。無辜の民もろとも、降伏を申し出る同胞を焼き殺した男。そんな男なら、自分が仕える王妃を、出世のための献上品として差し出してもおかしくない。自分以外の人間を、全て道具としか見ていない男。

「王妃が拉致され、王子の身も危ないと知った私は一計を案じました。王子と同じ年頃だった私の息子を替え玉に仕立てると、王子に息子の格好をさせて城から逃がし、ゼノビア王家と遠縁にあるアヴァロン島の大神官の元へお隠ししたのです」

 バーニャの機転は見事だ。だが、それだと替え玉となったバーニャの息子は――、

「アプローズは、すぐに王子ではないと気付いたはずです。ですが、奴にとっては王子が本物かどうかなどどうでもよく、ゼノビア王室の嫡子を殺害したと、ハイランドに報告できることが重要だったのです。自ら姿を消した王子が、再び表舞台に現れるとは考えにくいと思ったのでしょう。奴は私の息子を殺し、トリスタン王子を殺したとエンドラに報告すると、領地のあるディアスポラへ戻り、ハイランドへと寝返ったのです」

 あまりに酷さに、思わずバーニャの顔を見たが、彼女の顔に悲しみの色は無かった。最早、涙は流し尽くしたのかもしれない。

「血塗られた罪の上に立つ帝国に明日などあるはずなく、いずれ正義を掲げる貴殿方の手で滅ぼされるでしょう。帝国なき後、大陸を治められる御方は、トリスタン王子を於いて他に居りません」

 帝国なき後。考えたこともなかった。

 そうだ。勝つにせよ、負けるにせよ、戦いはいずれ終わる。問題はその後だ。平和な時代を築くため、悪しき帝国による支配を繰り返さないために、私に何ができるのか。

「それとも、ウェンディ殿がお治めするおつもりか?」

 ウェンディの反応の鈍さに、バーニャは訝しみの表情を向ける。

「いいえ、トリスタン王子が御存命なら、新王として殿下以上に相応しい御方はいないわ」

「流石、ウェンディ殿。身分を弁えておいでです。アヴァロン島のトリスタン王子にお会いできたら、この『栄光の鍵』をお渡しください」

 ウェンディは、バーニャから「栄光の鍵」を受け取った。

「私が王子を連れて落ち延びる間に、息子は身代わりとなって果てましたが、辛うじて骸を弔うことはできました。これは、息子の亡骸から私が引き取り預かっていた、ゼノビア王位継承者の証です。どうかこの鍵を、正統な持ち主の元へ…」

 そうなのだ。息子を王子の身代わりに立てた時、バーニャは母としての自分を殺し、ゼノビア王室乳母としての自分を取ったのだ。そしてそのお陰、彼女の息子が命を捧げたお陰で、栄光の鍵がまだここにある。ゼノビア王室の血が、まだ残されている。

「貴方の息子が繋いだこの鍵、必ず大陸の真の王の手に届けてみせる」

 ウェンディはバーニャに約束した。

 

 カルロバツを後にしてゼノビアに戻ってくると、城下一帯で大規模な炊き出しが行われ、スラムの人々に振る舞われている。

 ウォーレンの案だろうか。気が利くものだと思って、働いている者達に聞いてみると、

「城下の窮状を見かねたライアン様が、施しをなされているのです」

 という答えが返ってきた。

 用事とはこのことだったのか。自分を売り付けた金で慈善事業とは、中々粋なことをするじゃないか。後で会ったら、礼の一つでも言ってやろうか。 

 そのライアンだったが、宮殿の門前で何やら揉め事を起こしていた。

「貴様のような者を入れるわけにはいかん」

 ティムがそう言うのも無理はない。ライアンは二頭のドラゴンを連れて、ゼノビア宮殿へ乗り込もうとしていた。

「これは、ウェンディ殿」

 ウェンディの姿を認めたティムが挨拶したのを見て、こちらに気付いたライアンは、

「おい、ウェンディからも何か言ってやってくれ。俺は、この軍の一員として認められたんだって。こんなドラゴンを扱える男、そうはいないだろう?」

 そうだった。コイツはこういう奴だった。

「さあ、知らないわ。適当に追っ払っておいて」

「おいっ! それはないぜ!」

 予想外の言葉に、獣王の異名とは程遠い困惑した表情。

 今までの軍には居ないタイプの人間だが、こういうわかりやすい男は、嫌いじゃなかった。

「フフ、冗談よ。彼も軍に加わることになったの。宮殿の中に入れてあげて」

 ウェンディの言葉に、ティムは一瞬胡乱な表情をしたが、渋々門を開けた。

「自腹を切らなくても、城下の炊き出しなら私達のお金から出してあげたのに」

 宮殿に入るまで、ライアンと並んで歩きながらウェンディは言った

「バカだな、それじゃあ意味が無え。城下の連中には、この俺様の名前を広めてもらわなくちゃいけねえからな。二万あれば住居も作ってやろうと思ったが、今はこれが俺の限界ってとこだろ」

「そうまでして、名声を得たいの?」

「ああ、そうだ。名誉こそ、男が命を懸けるに値するものだ」

 宮殿内に入ったウェンディは、皆にライアンを紹介した。

「改めて言わせてもらうぜ。この大陸一の魔獣使い、獣王ライアン様が加わったからには、ウェンディ軍の勝利は約束されたようなもんだ」

 相変わらずのこの調子だ。

「魔獣使いっていうのは、ギルバルド殿より自信があるのか?」

 元王国魔獣軍のマルコムが、冷やかし半分で声を掛ける。

「オッサンは、魔獣の扱いに長けてんのか?」

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 ギルバルドを挑発するライアンに、ウェンディが告げる。

「ギルバルドはゼノビア王国魔獣軍団長だったの」

「いっ! なんだよ、そういうことなら早く言ってくれよ。魔獣使いはもう間に合ってたんじゃねえか」

 どうやら、軍の皆にもライアンのことが伝わったらしい。

「そして、もう一つ」

 ウェンディは重要な事実を告げた。

「トリスタン王子が生きてる」

「なんとっ」

 アッシュだけではない。元ゼノビア王国戦士団で構成されたウェンディ軍は、皆一様にざわめいた。

「アプローズの手に掛かる前に、乳母のバーニャが城から連れ出したそうよ」

「それで、殿下は今何処に?」

「アヴァロン島」

「ふむ」

 その名を聞いたウォーレンが考え込む。

「先程、私の元に入ってきた情報なのですが、神聖ゼテギネア帝国の皇子ガレスが、アヴァロン島へ入ったそうです。もしや、帝国側もトリスタン殿下の存命を聞きつけ、その御命を狙っているのやも」

「それじゃ」

ゼノビアを取り返したばかりであり、デボネア殿の進言がどう出るかはわかりませんが、我々はアヴァロン島へ向かうべきかと思います」

 ウェンディは頷いた。

 ゼノビアの奪還したところで、この都に本来あるべきはずの、王家が存在しなければ意味が無い。

 喪われてしまったものは取り戻せないが、今、目の前でそれが奪われようとしているなら、私達の手で必ず守り抜いて見せる。

 ウェンディ軍の次なる目的地は、ロシュフォル教の聖地、アヴァロン島と決まった。

 

 宮殿の宝物庫からは、役に立ちそうな「7リーグブーツ」、「ペリダートソード」、「イスケンデルベイ」、「シグムンド」、「バーニングバンド」、「雷鳴のヘルム」を回収した。

 帝国に支配されていた各都市との提携、治安維持や交通の整備など、戦後処理にもおおよその目処が立ったところで、今後の話し合いに移る。

「我等はこれより、アヴァロン島へ渡るわけですが」

 広間に集められた一同の前で、ウォーレンが切り出した。

「恐らく、アヴァロンを防衛できたとしても、帝国との戦いは続くでしょう。そうなった時、このゼノビアを我が軍の本拠地として、大陸へ進軍していくのが望ましいです。前線への補給を維持し、またそれも含めてこのゼノビア復興を指揮していく部隊を、残していく必要があるかと思われます」

 これまでは、ヴォルザーク、シャロームという元々の領地から、前線へ送る物資を賄ってもらった。このままでは補給線が伸びきってしまい、迅速な対応に難が出てくる恐れがある。このゼノビアは、南東から大陸を臨む場所に位置する上、海陸共に交通の要衝であるため、本拠を置く上でこれ以上適した場所はない。

 ウォーレンの判断は的確と言えた。ヴォルザークを出発した頃に比べれば、ギルバルド達に加えてアッシュ等も入り、軍の陣容が充実した今、部隊を分割するにはちょうどいいのかもしれない。

カノープス殿等の機動力、ギルバルド殿、アッシュ殿、ランスロット殿の武力はこの先も必要になるかと思われます」

 当然、参謀としてのウォーレンは他に代えられない。

「我等は、ウェンディ殿の傍を離れるつもりはないのだが」

 サージェムから付き従ってきたティムとヘクターは、所縁のあるわけでないゼノビアに留まるよりはウェンディを守りたいというのが正直なところだろう。

「我等とて、ランスロット殿と共に行くつもりだ」

 大戦以来、ランスロットと苦渋の時を過ごしてきたラーク、ブラッキィにしても、主人を思う気持ちは同じらしい。

「我等も、アッシュ殿のためにこの命は捧げたいと思う」

 主人と共に、十年の時を獄中で過ごしてきたラットとカラベルだ。地の果てまで彼等は付いてくるだろう。

「では、俺も」

 同じく申し出たアンディに対し、

「いや、ゼノビアの守備は、この都をよく知る者に任せたい。我等を於いて、貴公より相応しい人物は他に居ないだろう。貴公には、ゼノビアの守備隊長を担ってもらえないだろうか」

 アッシュ直々に任命され、アンディは辞令を受け取った。

「隊長はアンディ殿にするとして、ヴァルキリーの戦士も欲しいところですな」

「私も、この地の復興に携わりたい」

 声を上げたのは、エリーゼだった。ポグロムで多くの同胞を失った彼女だからこそ、人々が笑って暮らせるゼノビアをもう一度見たいという思いが強いのかもしれない。

 その後、協議の結果、

「アンディ殿をリーダーとして、テイラー殿、ホィットマン殿、ハドソン殿、ディベルカ殿、マルコム殿、それにヴァルキリーのエリーゼ殿とアイラン殿を残存部隊とします。空輸用にワイアームも一体置いていきましょう」

「ドラゴンも二体連れていくわけにはいかないわ」

「ちぇっ、豪快でいいのに」

 ライアンには悪いが、ドラゴンも一体はゼノビア残留で。

 ウェンディは、改めてゼノビアを守備する戦士達の顔を見る。皆、頼もしい面構えだ。彼等ならば、大丈夫だろう。それは、これまで共に戦ってきたウェンディが、一番よくわかっている。

ゼノビアのことは、貴方達に任せる」

 戦士達は頷いた。

 一方で、アヴァロンへ攻め入る面子の方を見る。

 ウェンディ達には、トリスタン王子の救出という使命があり、そのためには、皇子ガレス率いる帝国軍と事を構える必要がある。

 ゼノビアの解放は、帝国との戦いの幕開けに過ぎない。ゼテギネア大陸を支配する帝国との戦いは、まだ始まったばかりだ。その戦いを支えてくれるのは、今ここにいる戦士達なのである。

 かつての栄光の地、ゼノビアに集った戦士達は、更なる激しい戦いへとその身を晒していく。悪しき法の下、大陸に暗黒を落とす神聖ゼテギネア帝国を打ち倒し、遍く平和と安寧の光を大地にもたらし得る、真の王を求めるために。

 

伝説のオウガバトル

伝説のオウガバトル

  • 発売日: 1993/03/12
  • メディア: Video Game
 

 

 

ウェンディ、ゼンダに立つ 『伝説のオウガバトル』攻略日誌 その7 解説編


 本稿の概要に関しては、こちらをご参照ください→

 今回のリプレイ前編はこちら→

 今回のリプレイ後編はこちら→

 では、本文をどうぞ。

 

 

世界観

サブタイトル

 本稿のリプレイに「忘れ得ぬ秋風」というステージタイトルを付けてみたんですが、ゲーム本編においても、このステージ「スラム・ゼノビア」には、「遥かなる日々」という時間の流れを感じさせるサブタイトルが付けられています。

 この“遥かなる”というのが、ステージであるゼノビア城にあった旧王国が繁栄を極めていた頃のことなのか、あるいは参戦キャラクターであるアッシュが牢に閉じ込められる25年(本稿の設定では13年)前のことなのか、またあるいはステージボスであるデボネアの剣に信念があった頃のことなのか。延いては、それらを包含したニュアンスという解釈もできます。

 ステージ視点の解釈では、デボネアとアッシュの会話イベントの中で、“大陸一栄華を誇ったこの町もいまではただのスラム”という言葉があるので、そこから戦争によって失われたかつての繁栄を偲ぶノスタルジックな味わいがあります。

 アッシュ視点の解釈では、王国騎士団長という栄誉ある地位から大逆の罪人に落ちぶれたという経緯があり、正義を信じていられた在りし日への追憶に、ある意味囚われていると言えるアッシュの哀愁にも近い感慨が表されています。

 デボネア視点の解釈では、ステージクリア時イベントにおけるデボネアの諫言決心を見るに、若き日の彼にはエンドラへの忠誠に正義を見出だした時があったはずなので、正義を誓ったはずの剣で悪逆の徒となってしまった悲哀があります。

 以上の事柄を踏まえて、大きく様変わりする程の時間が流れて尚、思いを馳せずにはいられない心象風景。また、そこから新しい時代への転機をもたらすであろうウェンディのイメージである「風」の要素を入れたサブタイトルにしました。

剣の道

 今回登場するアッシュとデボネアは、片や元ゼノビア王国騎士団長、片や神聖ゼテギネア帝国四天王ということで、どちらも武芸に秀でた(アッシュは汎用男性戦士ですがステータスが高い)人物であり、またお互いに接点があったようです。

 騎士としてはランスロットが、王国戦士団団長としてはギルバルドが既に居るので、アッシュのキャラを立てるため、その2つに武道家の要素を足してみました。

 デボネアも武人キャラなので、武道家の心得をアッシュから説かれたことにすれば、2人の関係性も描けるのではという着想です。

 “死にぞこないの老いぼれ”と自らを卑下するアッシュがデボネアに対して説教をかますのは、本稿で創作したかつての師弟関係という立場の他に、騎士団長としての誇りは砕けてしまったものの、武人としてのプライドは残っていたのではないでしょうか。

 帝国軍幹部の中でも、デボネアと気が合ったフィガロ、自らの敗北を甘受したルバロン、自分に反抗した娘を誇りだと言ったヒカシューなど、義の心を有したキャラクターは居るのですが、彼等とデボネアの違いとして、騎士であると同時に武人だったということかなと思います。

 神帝と称されたグランのゼノビア王国も、エンドラの治めた神聖ゼテギネア帝国も滅びていきましたが、グランに仕えたアッシュから、エンドラに仕えたデボネアへと、剣の道に基づいた魂は受け継がれ、やがては一人前の戦士となったウェンディにも受け継がれると考えると、二国の騎士道に意味を見出だせるのではと。

 

マップ

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ミュルニーク

 戦闘でデボネアを殺してしまわないために、“礼をつくし、義を重んじる立派な武人”というデボネアのキャラクターをウェンディにも知っておいてもらう必要があったので、民を戦火に巻き込まぬため、彼に自軍本拠地となるミュルニークを提供してもらいました。

 多少無理がある気もしますが、シリウス戦で使えなかった“敵に塩を送る”というフレーズを回収できたので、個人的には満足です。

 伝言をした女はデボネアの側女でしょうが、愛人ではないと思います。

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城壁

 この後何度か目にすることになる城壁が、このステージで初登場します。しかもバイロイトゼノビアの二箇所。

 バイロイトの方で、飛行部隊で越えられることを教える意図があるのでしょう。攻略も基本飛行部隊なので城壁は無視しても良かったのですが、トロイの木馬を回収した方がライアンの物語を作り易かったので、ウォーレンに城壁の攻略法を探させました。

 「トロイの木馬」はトロイア戦争で使われた巨大木像ではなく、トロイの作ったからくり兵器らしいです。とは言ってもどういう物体なのかはさっぱりわからないので、魔力が込められている設定で城壁を破壊する装置を創作しました。説得力は正直自信ないんですが、そもそも、騎士はわんさかいるのに軍馬が一頭もいないこの世界。馬自体居ない可能性もあるんですけど。だからゼブラが伝説の生物なのかな。

 

キャラクター

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アッシュ

プロフィール

 狂戦士と言われながら、ALIは高いのでバーサーカーにはなりません。まあ誤解ですからね。国王殺しの罪で長年幽閉されてきた元騎士団長という肩書きは、それだけで伝説になるくらいキャラが立ってますが、冷静に考えると色々しっくり来ないので、所々創作を交えています。

 まず、ゲーム本編では25年も閉じ込められていたのに、解放後前線に加わって、しかも強いんですよね。本稿では13年と短縮しましたが、それでも長い。黒田孝高は1年で輿移動になったのに。せめて前線に居ても不思議じゃないくらいの年齢にしたかったので、本稿の彼は現在50歳という設定です。

王殺し

 彼が幽閉されたということは、国家の中枢にラシュディの息が掛かった人間がいたはずなので、現在絶えたと思しきゼノビア貴族達が陰謀に噛んでたことにしました。アプローズを使うことも考えたんですが、この時点では彼より力のある人間がまだ居そうですからね。

 ではグラン殺しの件ですが、いくら騎士団長とは言え、彼の剣の間合まで、そう簡単に国王へ近付けるとは思えないんですよね。なので、通説ではジャン王子戴冠式と言われてる式典を、アッシュの聖騎士叙任式へ変更しました。これにより、叙任に浮かれてグランを守れなかったというアッシュの後悔がひとしおに感じられるのではないかと思います。

 さて、アッシュに扮した人間がグランを殺したということですが、当のアッシュ本人は何をしていたんでしょうか。本稿では、ガレスによって王宮から連れ出されたということにしました。真の下手人がガレスであるという話が民間に漏れているので、この時のガレスの姿が目撃されたものと思われます。

繋がれし者

 それにしてもアッシュは、なんで正直に話さなかったんでしょうか。“守れなかった”と“殺した”じゃ意味合い違いすぎると思いますけど。騎士団長アッシュの投獄は、武力的にも精神的にも王国の弱体化を加速させたと思います。

 加入イベントで“死に場所を見つけてくれ”と言っていますが、アッシュ一人語りの本編はともかく、本稿リプレイのようにウェンディとの掛け合いで言わせるとなると、少々後ろ向きすぎるんですよね。

 なので、グランと共に騎士団長としてのアッシュは死んだのであり、一人の老剣士としてウェンディと共に命を賭して戦うのだという解釈にして、彼が慚愧を断ち切って戦いに出られるような流れにしました。それに伴って、バイロイトに王国の墓標という性格を持たせ、本編の、既に人生の夕暮れにあるアッシュを演出したつもりです。

余談

 システム上の都合だとは思いますが、騎士団長でありながら味方の元王国戦士達とは会話イベントないんですよね。敵のデボネアとはあるのに。勿体無いので、本稿ではギルバルドやランスロットと絡ませた他、アンディやラット、カラベルは元々彼の家臣だったことにしました。

 また幽閉されてたと言いながら、加入時にちゃっかり部下とゴーレムを引き連れてるという。シャングリラのデボネアはちゃんと一人だったのに。本稿ではその辺も創作してあります。

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デボネア

プロフィール

 後の行動を見ても、デボネアはかなり一本気な性格なので、まだ若いんじゃないかと思うんですよね。ただそうなると、彼が忠誠を誓ったエンドラは少なくとも帝国建国前だろうし、彼のアイデンティティは帝国ではなくハイランドなので、ギリギリ思春期をハイランド人として過ごし得る30代前半というのが、本稿における彼の年齢です。

 必殺技がソニックブレイドなので、本作においては珍しく、疾風という異名と戦闘スタイルがリンクしています。が、いつもの例からするとこの異名もやはり、戦闘スタイルではなくキャラクターを示すものだと思われます。今回知ったんですがちょうど疾風勁草という四字熟語があったので、そのイメージでエピソードも創作しました。

 また彼は、恋人のノルン以外からはラストネームのデボネアと呼ばれます。ゼノビア人は皆ファーストネームなので、もしかしたらハイランド人は他の民族より血族意識が高いのかもしれません。ヒカシューファーストネームですが。

ハイランドの誇り

 30代前半で四天王の一角を担うとなると、やはり家柄もある程度良かったのではないかと思われます。その上でエンドラに対する忠誠心を鑑みると、何かしらハイランド時代のエンドラに恩義を感じるような出来事があったかと。

 後に登場するラウニィーが女性初の聖騎士という設定から、戦士の男女比の割にハイランドにおいても決して女性の地位は高くないはず。そんな武の国ハイランドでの女王即位なので、多少混乱があってもおかしくない。その混乱下で名家にありがちな家督問題が起き、家を失ったデボネアをエンドラが復権させたという設定を考えました。

 ハイランドに戻ってから彼女の指導力に感服したデボネアは御前で忠誠を誓い、五王国の大戦で存分に剣を奮って将軍職と四天王の地位を得たという解釈です。

武人の誇り

 またデボネアは同時に、エンドラと袂を分かつことを選んだ数少ない人間でもあります。なので、一度ハイランドの外を経験して異なる価値観が入っているというのも、説得力があったかなと。

 彼の特徴と言えば固有技のソニックブレイドになるんですが、これはサムライやドラグーンの使うソニックブームの反動を無しにした上位互換であり、言わば剣技においてならデボネアは天空の三騎士より上なんですよね。

 それだけ武の道を極める者として、曲がったことが嫌いで、たとえ困難でも己の信ずる道を貫くという、ハイランド家に盲目的に尽くすだけではない別の価値観を有していたのだと思います。

 因みに、天宮シャングリラでの参戦時と比べると、今回戦ったデボネアは明らかにスペックが低いため、帝国の正義を信じられなくなって剣に迷いが出ている状態ということにしてあります。

アッシュとの関係

 同じステージに出てくるというだけで接点が無さそうですが、アッシュとの戦闘イベントでなんと“久しぶり”という言葉が聞かれます。

 獄中の彼と面会したのかとも思いましたが、公にはデボネア派遣はウェンディ軍鎮圧のためとなっているため、情報伝達の速度を考えると、デボネアゼノビアに来たのはせいぜい3日~1週間前。先週会った人間に久しぶりとは言わないと思うので、アッシュ騎士団長時代に面識があったものと思われます。そうなると、アッシュにゼノビアの退廃を指摘されるシーンが一層響きますね。

 デボネアの年齢からして、名を上げたのは大戦時と思われるので、アッシュと会った時は小僧だったのではと。また年齢差やアッシュに妻子がいない風な様子から、本稿のような父子関係じみた師弟エピソードを創作しました。ちょっと剣心と比古清十郎感が入ってるかもしれません。

 

ステージ攻略

軍団編成

 編成するのは4部隊。低空移動の3部隊で攻略していき、本陣防衛用の第4隊と、折角なので、途中で合流するアッシュの第5隊も使っていきます。

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 第1隊はウェンディがリーダーで、低空運搬力のあるカノープスと、ランスロット/ギルバルド/ウォーレンの固有キャラユニット。拠点解放用の部隊です。

 第2隊はハドソンをリーダー、低空運搬のマックスウェル、ディベルカ/マルコム/アンディのユニットで、ウェンディ隊の先鋒を務める露払い部隊です。

 第3隊はリサリサをリーダー、低空運搬のランカスター、テイラー/ホィットマン/シルフィードのユニットで、この部隊は解放したバイロイトの防衛に使います。

 第4隊はラークをリーダーとし、ブラッキィ/ティム/アイラン/エリーゼで構成されたユニット。こちらは本陣守備なので、地上移動で問題ないです。

 装備は、先鋒のハドソン隊を優先しながら、リサリサ隊にも割り振ります。ラーク隊には十分な装備が行き渡りませんが、運搬用キャラの分も戦士を入れてあるので大丈夫でしょう。

アッシュ解放

 早速ゼノビア攻略へ、と行きたいところですが、まずはバイロイトに囚われているアッシュを解放して仲間にします。

 ミュルニークから、低空3部隊を北のバイロイトへ向けて進発。

 回り道になるので、ラーク隊をミュルニークに残し、本陣を防衛してもらいます。

 北進した部隊ですが、解放用のウェンディ隊は真っ直ぐバイロイトを目指します。

 迎撃用のハドソン隊は、城壁で身動き取れなくなるのが嫌なので、その手前で待機。

 リサリサ隊は、ウェンディ隊を追い越してもなんなので、ちょうど途中にある埋もれた財宝を回収させました。財宝は「マラカイトソード」でした。

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 以降、ウェンディ隊/ハドソン隊/リサリサ隊の進路を、それぞれ白/黒/紫の線で表します。

攻略開始

 愈々ゼノビアの攻略、なんですが、城壁手前の拠点を解放しておきます。解放しなくてもいいんですが、目標がわかりやすい方が便利なので。

 拠点は、東のエルランゲンと南のアンベルグの2つがありますが、エルランゲンの方はバイロイトへ向かう軍とも衝突する恐れがあり、トロイの木馬回収に行きやすく、どうせクリア後行く必要があるアンベルグの方を前線拠点とします。折角なので、ライアンの顔も見ておきたいですし。

 リプレイでは一度城壁に当たって跳ね返されましたが、実際のプレイでは直接アンベルグへ向かっています。

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 ゼノビアからバイロイトへ向かう敵の進行ルートを突っ切って、ハドソン隊とウェンディ隊はバイロイトからアンベルグへ。後方のウェンディ隊で解放するので、ハドソン隊はアンベルグの前面に位置するように。

 敵のほとんどは、最も移動速度の速い大空ユニットなので、ウェンディ隊を無傷でアンベルグへ届けるためには、ハドソン隊とウェンディ隊の距離を近く保ったまま、ハドソン隊で敵を迎撃していく必要があり、敗北するとウェンディ隊が敵前に晒されるので、ハドソン隊は勝利が必須。溜まっているタロットの使い時です。実際の攻略では、「ストレングス」と「ハングドマン」を使いました。

 その結果、ハドソン/ディベルカ/マルコムはLv.が上がったので、成長度でナイトの上位互換となるサムライへクラスチェンジです。

f:id:boss01074:20200720073830j:imagef:id:boss01074:20200720073905j:imagef:id:boss01074:20200720073938j:image

 ミュルニークやバイロイトに守備隊を置く必要があるのも、敵が大空を速攻で進軍してくるからなんですよね。本当、この航空戦術が疾風のデボネアの由来なんじゃってくらい、舐めてるとやられます。

アッシュ進軍

 アンベルグを解放できたら、アッシュの部隊を進発させます。アッシュ進軍の理由はデボネア戦でのイベントを見るためだったのですが、実際にやってみるとデボネアが強く、3回当たる必要があったのでちょうど良かったです。

 ただ、このままだと進軍速度が遅すぎるので、進軍前にストーンゴーレムをグリフォンのネッソスと変えておきます。

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 真っ直ぐ向かえれば良かったのですが、西から敵が進行中であり、戦うのは面倒だったので迂回しました。

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 この敵を迎撃したラーク隊のシルフィードはLv.が上がり、サムライへクラスチェンジできるようになりました。

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トロイの木馬回収

 一方で、アンベルグ解放後のウェンディ隊は、南西の小島にある隠し教会に向かって「トロイの木馬」を回収しに行きます。

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 無くてもクリアできないわけではありませんが、大空ユニットと低空ユニットで進軍がバラつくのが気になるし、折角用意してくれているので。

 ウェンディ隊が出発したら、代わりにハドソン隊をアンベルグに入らせて防衛させます。

 ここで、アンディもLv.が上がり、サムライへクラスチェンジ。

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 また、マックスウェルもLv.が上がったので、ホークマンから上位互換となるバルタンへクラスチェンジさせました。

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 トロイの木馬を入手したら、ウェンディ隊は再びアンベルグへ。

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 アンベルグで、ハドソン隊、アッシュ隊、ウェンディ隊の3隊を合流させます。

  図では、アンベルグ周辺に敵部隊が居ますが、アッシュが来る頃にはハドソン隊により倒されました。

 因みに、アンベルグに止まる度しつこく売り込みを掛けてくるライアンは、面倒ならば二万ゴート払ってもいいですが、値落ちするクリア後に雇った方がお得なので、今回はすげなく断り続けました。1万5千ゴートはトロイの木馬の情報料でしょうか。

臨戦態勢

 集合した3隊について、多少編成を変えます。

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 移動速度の関係から、ネッソスのいる隊が先鋒になるので、Lv.の低いアンディ/ラット/カラベルで構成し、アンディをリーダーに。

f:id:boss01074:20200720080017j:imagef:id:boss01074:20200720080032j:imagef:id:boss01074:20200720075328j:image

 残りのメンバーでアッシュ隊を構成。

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 今度はアンディ隊が負けられない戦いになるので、装備も付け替えておきます。

 ここからは直進なので、アンベルグの守備隊は居なくても問題なし。

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 3隊でゼノビア城へ向かい、城壁手前でトロイの木馬を使用して、敵軍本拠地の手前で再び集合します。トロイの木馬使用のタイミングに制限は無いんですが、城壁崩壊と共にニンジャを擁した敵地上部隊が出撃準備に入るので、なるべく接近してから使用しました。

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ゼノビア攻略

 ゼノビア手前で再び集合し、3隊の位置を整えたら、アンディ隊/アッシュ隊→ウェンディ隊の順でゼノビアに突撃します。同時に動いても、移動速度の差でアッシュ隊よりアンディ隊が先にゼノビアへ着くので。

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 アンディ隊が出撃待ちの敵部隊を蹴散らしたら、遂にデボネアとの対決です。

 デボネアの前には2体のドラゴンがいるため、ダメージを与えるには後列を直接攻撃する必要があります。

 なので、男性兵士は全員サムライへクラスチェンジしておき、後列に置いてソニックブームが撃てるように配置します。

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 アンディ隊の攻撃は、少なくとも1回当たればいいです。

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 次のアッシュ隊の攻撃で、アッシュの他にもう一人ソニックブームを当てれば、削りは十分。

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 ウェンディのアイスレクイエムで止めを刺し、デボネアを撃破しました。

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あとがき

 今回なんと、リプレイだけで前後編という長さ。

 仲間になるキャラクターが2人も出てくる話であり、彼等のキャラが立つようエピソードを創作したので、仕方がなかったんです。ステージ攻略自体は、そこまで長いわけじゃないんですけどね。

 ただまあ次回は攻略を休止して、これまでの流れを整理しようと思うので、戦後処理は次回に持ち越そうと思います。

 また、キャラクターをだいぶ弄ってあるライアンの解説も次回。本編のキャラだと、なんで正義の軍に居るのかわからないんで。

 ノルンは申し訳程度に触れています。少なくともこの時は、ノルンよりアッシュの存在の方が大きかったんじゃないでしょうか。彼女の解説は後々。

 トリスタン、ジャン、ガレスもちらっと出てきましたが、本登場時にちゃんと解説したいと思います。また、本編とは彼等の呼称(王子/皇子)を変えてあるのですが、その理由もトリスタン登場時に。

 

 第1部クライマックスということで、過去最長の膨大な文量となってしまいましたが、アッシュとデボネアの両方を描いた今回より長くなることはおそらくないと思います。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。よろしければ、また次回もお付き合いください。

 

伝説のオウガバトル

伝説のオウガバトル

  • 発売日: 1993/03/12
  • メディア: Video Game
 

 

 

ウェンディ、ゼンダに立つ 『伝説のオウガバトル』攻略日誌 その7 リプレイ後編


 本稿の概要に関しては、こちらをご参照ください→

 今回のリプレイ前編はこちら→

 今回の解説編はこちら→

 では、本文をどうぞ。

 

 ゼノビア王国が建国22周年を迎えたその日、国を挙げたある式典が催された。

 その式典とは、騎士団長アッシュに対する、聖騎士叙任式典である。

 国家としての歴史が未だ浅いゼノビア王国にあって、建国時の大陸平定以来、大きな戦を経験してこなかった騎士団は、位階などなくとも統制に問題はなかったが、次代の王となるトリスタン王子が国を率いていくにあたり、より秩序化された家臣団が必要であった。

 新秩序構築の手始めとして、騎士団の中から特に国王の信頼が篤い騎士に、聖騎士の位階を授ける運びとなり、その第一号に、建国時から王国騎士としてゼノビア王家を支え、武勇、人望共に随一とされ、国の内外から称えられる騎士団長アッシュが選ばれたのだった。

 叙任式当日、アッシュは既に王宮にあった。

 式典は玉座の間にて執り行われ、その後、ゼノビア王国の全国民に向けて布告されるのだが、式が始まるまでは、いま少し時間がある。

 騎士団のみならず、官民多くの人間から尊敬を集めるアッシュであったが、王国始まって以来最大の栄誉をその身に賜るとあって流石に落ち着かず、気を紛らわそうと王宮の庭に出てきていた。

 宮廷庭師により手入れの行き届いた庭園には、大陸南東部の暖かな太陽の光が降り注ぎ、アッシュはこの地に生まれたこと、この繁栄をもたらした王家に仕えてこられたことを、心より感謝した。

「アッシュ殿」

 ふと、アッシュを呼び止める声がする。

「これは、ジャン王子殿下」

 振り返ったアッシュは、声の主を知り慌てて跪く。

 グラン王に二人の男子がおり、御歳十三になられる皇太子トリスタン王子と、その一つ下の弟が目の前に立つジャン王子である。

 共に、剣士として名を馳せたグラン王の体格を引き継いで、既に小柄な兵と見紛う程の体躯をしているが、武術にも熱心で負けん気が強く、よくアッシュに剣の稽古を頼むようなトリスタン王子と違い、病弱なジャン王子は奥から出ることも稀で、公式な場に姿を見せぬことも多く、このように庭園に出て対面するのはアッシュにとって初めてだった。

「面を上げよ」

「はっ」

 そこにある顔は、日頃木刀を構えて自分に向かってくる顔とそっくりなはずだった。事実、トリスタンとジャン両王子は瓜二つと言われているのだが、何故かその時アッシュには、目の前にあるのが見知らぬ顔のように感じた。

「貴公に話がある」

「はっ、なんなりと」

「ここでは話せぬ。ついて参れ」

 逆光の中からそう言うと、ジャンは踵を返して歩き出した。アッシュも急いで後を追う。

 ジャンはそのままずいずいと歩いていき、王宮の門を潜ろうとする。

「殿下、王宮から出るのは…」

 引き留めようとするアッシュに、ジャンは、

「話というのは、我が父君に関する話なのだ。王宮の中で誰かに聞かれでもして、父君に良からぬ噂を立てられるのは、私としても本意ではない」

「しかし、王宮の外に出て、殿下にもしものことがあれば…」

 いかに平和と繁栄の象徴ゼノビア城下と言え、万が一にも危険が及ぶようなことがないとは言いきれない。

「だからこそ、貴公を連れてきたのだ。このゼノビアの守護者に手出しできる者など、居らぬのであろう?」

 確かに、アッシュの顔を見て尚、不埒な真似が出来るような輩は、今のゼノビアにはいなかった。

「むう…、なればせめて、人目につかぬよう裏門からお出ませ」

 裏門を開けるよう言われた門番も、ジャンとアッシュの顔を見ると何も言わずに通した。

 人目を避けた裏通りを、主人と従者が進んでいく。

 裏手門の方は、表通りの賑わいが嘘のように静かな街並みになっている。同じゼノビア城下でここまで雰囲気が異なることを、アッシュは今更ながら知った。

 アッシュも初めて来たこの道を、ジャンは既知のように迷いなく進んでいった。

 さる貴族の別邸がある辺りを抜けて、ゼノビアの城壁に突き当たるところ、

「殿下!」

 アッシュは遂に、ジャンを呼び止めた。

 

 ここまで来れば、アッシュも何かがおかしいと気付いていた。

「もうよいでしょう。ここらで、件の用というのをお話しください」

「もうここらでよい。さて、何の話だったかな」

 ジャンは、アッシュに背を向けたまま答えた。

「国王陛下に関する話と」

「そうだ、。貴公は、グラン王を殺したいと思ったことはあるか?」

「そんな、思いもよらぬ事」

「そうか。だが貴様はグランを殺すのよ」

「ジャン殿下…一体何を?」

「お前には、俺がジャンに見えるのか?」

 ゆっくりと振り向いたその顔は、いや、顔だけではない。背格好から姿形、何から何まで先刻まで見ていたジャン王子とは別人。フルフェイスのマスクと漆黒の鎧に身を包んだ男が、そこに居た。

 茫然とするアッシュに、ジャンだった男が言う。

「同じ王子でも、俺はハイランドの王子。やがてはこの、ゼテギネア大陸全土を統べるガレスだ」

 大陸平定時に締結された五王国同盟は、十年毎に更新される慣習となっており、二年前にも五人の国王がマラノに集まり、三度目の批准を行った。

 その際、グラン王の侍従として同行したアッシュは、エンドラ女王と共に列席するガレスを見ており、背格好や声は確かにその時のガレスのものを思わせた。

 だが今、目の前にある漆黒の鎧はどうだ。以前見たガレスは、こんな物を身に着けてはいなかった。鎧からは禍々しいオーラのようなものを感じるし、マスクの奥には妖しい眼光が覗く。

「ガレス王子が…一体何故?」

「今にわかるッ!」

 と言うなり、ガレスは斬りかかった。

 未だ状況を呑み込めたとは言えないアッシュだったが、騎士団長の座は伊達じゃない。ガレスの剣を咄嗟に受け止める。

「ふん、流石にそう容易くはないか」

「ここまでの狼藉。ガレス王子と言えど、見過ごせはせんぞ」

 私を斬るつもりか。

 覚悟さえ決まれば、剣の勝負で引けは取らない。

 と、そこへ舞い降りてくるは、七頭、いや八頭のワイバーン

「くっ」

 アッシュは剣を構え直した。

 一頭のワイバーンが、爪を立て、アッシュに襲い掛かる。剣で爪を弾き、ワイバーンの突進を逸らす。

 と、息をつく暇もなく、別のワイバーンが尻尾を叩き付ける。

「むうっ」

 剣を合わせ、直撃は防いだが、重量の乗った勢いは殺しきれず、アッシュは吹っ飛ぶ。

 この数の魔獣を一人で相手にするのは、初めてだ。だが――。

 立ち上がったアッシュは大きく息を吸い、そして吐く。

 精神を集中し、相手の呼吸を読む。

 こちらに仕掛けてくる、その刹那、

「鋭ッ!」

 ワイバーンの尻尾が切り落とされる。相手が怯んだと見るや、すかさず止めを刺す。

 数が多いとは言え、ビーストテイマーもいない魔獣の群れ。決して連携しているわけではなく、攻撃と攻撃の合間には、小さくない隙が生じる。

 その隙に剣撃を叩き込み、一頭ずつ確実に仕留めていく。

 やがて、大きく息をついたアッシュの周りには、七頭ワイバーンの死体が転がっていた。

 気付いた時には、ガレスは既にいなかった。形勢不利と見て逃げたか。

 しかし、七頭かそこらのワイバーンで、私の首が獲れると思ったのだろうか。妙な胸騒ぎがする。

 ジャンもとい、ガレスの言葉が、アッシュの中で反芻される。

 だからこそ貴公を連れてきた。

 このゼノビアの守護者アッシュを。

 俺が、グラン王を殺す――。

「まさか…!」

 アッシュは王宮へ向けて駆け出した。

 

 一方その頃王宮では、聖騎士叙任式が粛々と進められていた。

 壇上には、国王グランとフローラン王妃、トリスタン王子が並び、その脇には王妃フローランの弟であり、唯一の近衛騎士パーシヴァルが控える。

 居並ぶのは、王国に忠誠を誓う騎士団の中でも、特に勇名抜きん出た次の聖騎士候補者でもある騎士達十二名。また、いずれも国家の要職を担い、ゼノビア王国を支える貴族の面々。更には、国王の盟友、大賢者ラシュディも列席していた。

「騎士団長、アッシュ・シルヴァスタ殿、前へ」

「…」

 名前を呼ばれたアッシュは、無言のまま、御前へ進み出る。

 パーシヴァルから、聖騎士の証となるゼノビア王家の紋章が入れられた剣を受け取ったグラン王は、膝を着き、項垂れているアッシュへ歩み寄る。

「貴公の父と余は、大陸の平和のため、共に剣を取り戦った仲だった」

 グランは、昔を懐かしむ声色でアッシュに語り掛ける。

「当時、まだ十五だった貴公も、父君と共に従軍し、ゼノビア王国の戦士として命を懸けてくれたのだったな」

 アッシュは無言のまま項垂れている。

「以来、今日まで国家の安寧のため尽くしてくれたこと、また、騎士団長の任に着いてからは、騎士団を率いるに相応しい人格を示し続けてきたこと。その忠義に対し、ゼノビア王家守護者たる証をここに与え、貴公を我が国初の聖騎士に叙任する」

 下賜するため、両手に剣を載せるグラン王。

 アッシュは、ゆっくりと立ち上がる。

 その動作に、不審なものを読み取ったグランは、

「貴様、本当にアッシュか?」

 次いで、大きく目を見開く。

「何故、其方がここに――」

「うわああッ!」

 アッシュは自らの剣を引き抜くと、両手で思いきり振り抜いた。

 止まった時間の中で、ゼノビア王家の紋章を彫られた剣が、グランの手からゆっくりと零れ落ちる。

 その鞘が玉座の床を叩いた瞬間、グランの首から大量の血が噴き出した。首元を押さえ、後退るグランに、止めを突き刺すアッシュ。

 そのまま、王妃等の元へ向かい、剣を振り被るアッシュ。そこへ、パーシヴァルが割って入る。

「ぐうッ!」

 深傷を負ったパーシヴァルだが、尚もその場に立ち塞がる。

 今度は、入り口の扉が開かれた。

「王陛下!」

 御覧じよ! 扉を開けて入ってきたのは、今しがたパーシヴァルを斬りつけたはずのアッシュ。

 玉座の方へ目を移すと、元いたアッシュは、皆の視線が扉へ注がれた一瞬の内に消え失せ、その場所には、脅えた目をしたフローラン王妃、トリスタン王子、ジャン王子がいるばかり。

 玉座に駆け寄ろうとしたアッシュ。その目に、変わり果てた姿のグランが映る。

「王…陛下」

 一歩、二歩と進み、三歩目に出した足が、膝から崩れ落ちる。

「何をしておる! アッシュ殿を、取り押さえよ!」

 それは、ラシュディの声だった。

 命令を受け、騎士団がアッシュを取り囲む。が、それ以上動けない。

 騎士団の者皆、アッシュがグラン王を斬り殺すところを目撃していた。しかし、凶行に及んだ先程のアッシュと、グランの死を前に立つ気力さえ失った目の前のアッシュが、彼等の中でどうしても結び付かなかった。

 何が起こったのかわからずに、彼等は剣を抜くことができなかったのだ。

 状況が掴めていないのは、アッシュも同じだった。

 だが、アッシュにとって重要な事実は只一つ。グランが死んだ。自分が、ゼノビアの守護者たる自分が、陛下の御命を守れなかった。その一点の前に、他の事柄は意味を成し得なかった。

 そう、アッシュには、貴族等の命令により、かつての仲間達から刃を向けられようとしていることも、最早どうでも良いことだった。

 

 主の居なくなった王城で、貴族達は騎士団を排斥すると、自らの私兵を乗り込ませ制圧した。

 その貴族等の手で略式の裁判が行われ、アッシュのバイロイト幽閉が決まった。

 国王陛下の殺害、又その犯人が騎士団長アッシュという発表は、王国民達に少なくない同様を与えた。処刑でなく幽閉という処遇は、国民のこれ以上の混乱を避けるためだったのかもしれない。

 だが、現に貴族達による追及が行われ、他の上級騎士等も口をつぐんでいる。何より、当のアッシュ本人が幽閉を受け入れたという事象は、少なくとも国民を納得させるには十分だった。

「王国始まって以来の名誉をその身に賜るとあって、儂は浮かれていたのだ。その慢心が、陛下の御命を奪った。儂は裁かれて当然の人間だ。それが主家を失い、国が滅んだ後になって尚、こうしておめおめと生き恥を晒し続けている。貴殿等反乱軍が、真に王国の威信を受け継ぐ存在だと言うなら、遠慮は要らん。儂を斬るがよい」

 アッシュの瞳は、深い哀しみの色を湛えていた。

 無理もない。王家の守護者としての証を賜ろうというまさにその日に、王家を護れなかったという事実を背負ってしまったのだから。

 王家の盾となって死ぬことも、王国と運命を共にすることもできなかったのだ。騎士としての誇りが人一倍である以上、戦って死ぬことも叶わなかった自身を、アッシュは亡霊のように感じていることだろう。

 生きる意味を失ったまま、13年間も牢獄に繋がれていた彼の苦悩は、計り知れない。だが、だからこそ、

「貴方が自分を許せないという気持ちは、よくわかった。でも、いくら貴方が自分を鞭打ったとて、王家が滅んだという事実は変えられないのよ」

「では、どうすればよいというのだ! 仕えるべき主君を失った騎士は、どのように命を捧げればいい?」

「今の話を聞いて私が怒りを感じたのは、貴方を陥れたガレスの方よ。騎士の王家に対する忠義心を逆手に取って、最も国を思う者に逆賊の汚名を着せるなんて。踏み躙られた側が自らを恨む。そんな世界を、私は許さない!」

「同感です」

 ウェンディの怒りに、ウォーレンも同意を示す。

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「グラン王死去後の宮宰を執った貴族達による臨時評議会ですが、帝国との戦争が始まると、帝国に降る投降派と、一度手にした権力に固執する独立派に分裂し、独立派が投降派を追放したタイミングで、騎士団がクーデターを起こし、亡きグラン王の遺志を継ぐ動きとなりました」

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「王国の威信を守るため、グラン王亡き後も我々王国戦士団は戦い、一度敗れ去って尚、剣を捨てられずにいる。アッシュ殿、ウェンディ殿の軍に集ったのは皆、そうした連中なのです」

 主家を喪った騎士という苦しみは、ランスロットならば身に沁みてわかる苦痛だ。そのランスロットは今、ウェンディ軍の陣中で剣を振るっている。

「貴方が罪を認めて居ることは、グラン王の真の仇である帝国をのさばらせておくことなのよ。このまま帝国の支配が続けば、グラン王が遺したゼノビアの魂まで、いずれ滅びてしまう。誰よりも王の死を嘆いた貴方が、そんな不義を許していいの?」

 グランが遺したゼノビアの魂。

 アッシュは、ウェンディに従ってここまで来た戦士達の顔を確認する。

 王国が滅びて13年、その名残はとっくに失われたと思っていた。自分がバイロイトに取り残されたように、かつて王国の栄誉も忘れ去られていくものだと。

 だが、現実は違った。暗黒の時代の中にあって、ゼノビアの魂を受け継ぎし者達が、大地に再び光を灯さんと戦い続けている。

 アッシュの騎士としての誇りが、打ち震えた。しかし、それは同時に、刻まれた疵をも疼かせる。

「自分の後悔に、陛下の死を利用するのは止めとしよう。だがそれでも尚、儂は陛下の死に際し、全くの無力であった。この剣が最も必要とされた時に、剣を抜くことができなかったのだ。剣だけに生きてきたアッシュ・シルヴァスタの生は、王陛下の死と共に終わりを迎えた。この牢を出たとて、儂が生きていく場所はとうに無いのだ」

 グラン王の剣として、王国の礎を築いてきたという自負。その偉大な誇り故に、最後まで役目を果たしきれなかった無念が、彼の魂を牢獄に縛り付けるのだろう。

 この先も、彼の無念が晴れることはないのかもしれない。それでも、騎士の鑑とまで謳われたこの男に、居場所がないなどと思いたくなかった。

「貴方の両手は、過去を取り戻すためではなく、剣を振るうためにあったのでしょう。剣は、過去ではなく目の前の現実を切り開くためにあるのよ」

 今を切り開くための剣。アッシュの瞳に光が宿り始める。

「騎士団長アッシュ・シルヴァスタの剣は、グラン王の命と共に失われたのかもしれない。では、剣士アッシュに問う。貴方の腕にまだ剣を振る力が残っているなら、帝国を倒すためにその剣の腕貸してもらえるかしら。貴方の残りの命を、明日を築くための戦いに捧げられて?」

「最早使い途のなくなった儂の剣、貴殿が役立てるというなら、喜んで差し出そう。正義のための戦いで果てるなら、一介の剣士の死に場所には本望だ」

 アッシュは立ち上がり、終の棲み家と甘んじた牢の外へと踏み出す。

 王の死という十字架を背負い続けてきた騎士団長は、新たな戦いに居場所を見つけて、一度背を向けた世界へ歩み出す。

 東から吹き込んだ暖かな風が、止まっていた老剣士の時間を動き出させ、再び日の光を浴びることを許した。

 

「では、愈々ゼノビア城の攻略に参りますが、アッシュ殿、城壁の攻略に何か有用な手を御存知でしょうか?」

「いや、儂の知るゼノビアの城壁なら、そう易々と崩せるものではない。正面から当たる他に、有効な手は思い浮かばないな」

「そうですか」

 険しい表情のウォーレン。王国騎士団長直々に穴はないと言われては、手立てを見つけるのは難しいだろう。

「役に立てず、済まない」

「いえ。では、一先ず当たってみることにしましょう。リサリサ隊をバイロイトの防衛に残し、ハドソン隊と合流後ゼノビア城へ向かいます」

「またこんな辺境の防備」

 リサリサは不満げだった。

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「まあそう仰るな。要害のバイロイトは、敵に奪われれば厄介なことになります。南へ下った先に、我等が本拠ミュルニークがあるのですから」

 リサリサを宥めつつ、ウォーレンはアッシュと、共に解放されたラット、カラベルの方へ向き直る。

「アッシュ殿、ラット殿、カラベル殿は、このままミュルニークへ向かってもらうことになりますが、宜しいでしょうか」

「構わん。我等とて、かつては戦士だった身だ。お気に召さるな」

「一応、このストーンゴーレムを護衛に付けましょう」

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 ゴーレムと共にバイロイトを発った三人を見送り、ウェンディ達もバイロイトを出る。

「アッシュ殿は?」

 ハドソン隊で任務に着いていたアンディが、ウェンディに尋ねる。アッシュと知り合いだったのかもしれない。

「アッシュ殿も、我等の軍に加わってくれることになったわ」

「それは」

 願ってもない。アンディの表情はそう告げていた。

「我等はこれより、ゼノビア城へ向かいます。先鋒のハドソン隊で敵の迎撃に対応してもらうことになりますが、かなりの激戦が予想されます。いつでも撤退できる用意はしておいてください」

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「早速、お迎えが来たみたいだぜ」

 前方、グリフォンに乗ったナイト達が向かってくるのが見える。

 言うが早いか、迎撃に出るハドソン隊。

 と、更に数隊の帝国軍。

「敵の動きが早い」

「さすがは帝国正規軍と言ったところでしょうか」

 ハドソン隊の援護に入った方がいいか。

 近寄ろうとしたウェンディ隊に、ハドソン隊が呼び掛ける。

「来なくていい! そこで合図を待て」

 合図?

 正規軍相手でも、ハドソン隊は引けを取らない。迫ってくる敵を、次々と跳ね返していく。

 と、ウェンディ隊とハドソン隊を繋ぐ線の先、一本の道が開くのが見えた。

「今だッ!」

 ハドソン隊とウェンディ隊は同時に翔び立ち、敵の防衛線を突破した。

「やるわね」

「任せとけ」

 そのままゼノビア城まで進軍できるかと思ったが、前方にはまたもやグリフォンの影。

「敵は、グリフォンを使った大空移動のユニットで軍を構成しているようです。兵は拙速を尊ぶと言います。デボネアは、機動力を以てこちらを制するつもりでしょう」

「やれやれ。これじゃ城まで、気を抜く暇はなさそうだぞ。疾風のデボネアってのは、この航空戦術が由来なのか?」

 ぼやきながら、ハドソン隊は敵を迎え撃つ。

 太陽は日暮れに差し掛かり、夜の闇が空を覆おうとしていた。

 厳しい戦いになる。

 ウェンディはそう思った。

 

 ゼノビア城手前まで進軍したウェンディ達。

 今回に限って、夜の闇はウェンディ達にも味方したのだろう。予想されていた程、敵の反撃に苦しむことはなかった。

 だが、ここからは――。

ゼノビアの城門は東西南北四ヶ所にありますが、今バイロイトに向かう東門には、敵が集結しているはずです。我等は迂回して、次に近い南門から攻め入りましょう」

 南門に回り込み、城壁越えを目論むウェンディ軍。だったが、察知した敵が南門へ兵を向ける。城壁で足止めを食うウェンディ達に、続々と敵兵が襲い掛かる。

「やはり、このままゼノビアを落とすのは難しいようです。すぐ後ろに、アンベルグという城塞都市があります。一度そこに入り、態勢を建て直しましょう」

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 後退したウェンディ達は、城塞都市アンベルグを解放し、広場に集合する。

「後退したはいいけど」

 ウェンディはウォーレンに尋ねる。

「何か手はあるの?」

「ミュルニークに残した全勢力を結集しての突撃。が、現状考えられる唯一の手段となります」

「それは…」

 要するに、策も何もない、真正面からの力押しということか。

「どうやら、お困りのようだな」

 考えあぐねるウェンディ達に、声を掛けてきた者がいた。

 年の頃は、まだ20代前半か。精悍な顔つきをしているが、肉体を見せびらかすような格好は気に入らない。

「お前等、反乱軍だろ? 城壁の攻略に手間取って、この町に寄ると思ってたぜ」

 歳の割に、横柄な態度だ。

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「この大陸一の魔獣使い、獣王ライアン様が力を貸してやってもいいぜ」

 大陸一の魔獣使い? ギルバルドの方を見るが、首を横に振る。ゼノビア王国魔獣軍団長だったギルバルドをしても、この獣王様の名は聞き及んでいないらしい。

「だが、タダで助太刀するわけにはいかねえな。俺様の力を借りたければ、二万ゴートよこしなッ!」

 随分大きく出たもんだ。二万ゴート。出せない金額ではないが。

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「お前なあ…」

 カノープスも呆れている。こんな不躾なやり方で、自分を買ってもらえると思うのだろうか。

「残念だけど」

「なんだ、金が無えのか? しょうがねえなあ。まあ、いいさ。金の当てが出来たら、声を掛けてくれ」

 そう言うと、男はその場を去る

 何だったんだ、奴は。

「折角ですから、この町で、城壁の攻略法が無いか、探ってみましょう」

 ウォーレンの提案で、聴き込みを始めるウェンディ達。

 とは言っても、市民達に聴き込みをしたところで、城壁の攻略法がわかるものだろうか。

 ハドソン隊が市街地の方へ向かった一方で、ウェンディ隊はアンベルグ城主に尋ねてみることにした。

「城壁と言えば」

 城主は思い当たる節があるらしい。

「かつて、トロイという名の伝説のからくり師が存在したといいます」

「からくり師?」

 首を傾げるウェンディに、ウォーレンが補足する。

「からくり師というのは別名、手技の魔術師とも言う魔術師の一種です。魔力を込めた物質を組み上げる、その方法が一つの術式になっており、組み上げられたアイテムを使用することで、魔術の心得がない者でも複雑な魔術を行使することができるのです」

 マジックアイテムの製作者というわけか。

「彼の作った木馬型のからくりは、目的の城壁に取り付けることで、どんな城壁でも破壊することができたそうです。実はその『トロイの木馬』が、ゼノビア付近の教会に預けられているとか」

「じゃあ、それを見つければ」

 ゼノビアの城壁を壊せるかもしれない。それにしても、

「よくそんな情報を知ってたわね。トロイの木馬だけでなく、それがある場所まで。ひょっとして、貴方も帝国に叛旗を翻す機会を窺ってたの?」

「いえ、私にとてもそんな勇気は…。この話は、ついさっき現れた男がしていったのです。名は確か、ライアンとか」

 ライアンって、さっきのあの態度のデカい男か。一体何のつもりだ?

「ともかく、一度広場に戻って、ハドソン隊と情報を共有する」

 ウェンディ隊が広場に戻ると、ハドソン隊も既に戻ってきていた。そして、あの男も。

「おう、金の当てはついたのか?」

「いいえ」

「そうかい」

 そう言うと、ライアンは広場に居た連中と相撲を取り始めた。

 気を取り直して、ハドソン隊にトロイの木馬の情報を告げる。

「というわけだから、これからゼノビア近辺の教会を当たってみようと思う」

「教会というと、このアンベルグとミュルニークとの間に一つと、もう一つはここからポストイナ川で区切られたブルゼニュまで行き、更に先へ進んだ先。結構遠いですな」

 ウォーレンが思案していると、

「あー、あー、あー。曲がりなりにも、この辺り一帯は帝国の支配下なんだよな。物騒な物を隠そうって奴が居るとしたら、そう簡単には見つからないような所にするんだろうなあ」

 相撲の歓声に混じって、独り言にしてはあまりに大きすぎる声が聞こえてきた。

「簡単に見つけられないとすると、隠し教会かしら」

「それなら、アンベルグの南西にある島に、隠れた教会が存在するって話を聞いたな」

 ハドソンが答える。

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 独り言の主は、素知らぬ顔で相撲を取り続けている。

 ライアンがどういう男か、だんだんわかってきた気がする。

「じゃあ、私達は南西の教会に向かうわ」

「ハドソン隊には、アンベルグの防衛をお願いします」

 ウェンディ隊は、アンベルグを発った。

 

 小島に渡ると、確かに隠れた教会があった。

 ウェンディは教会を解放する。

「ここに、トロイの木馬が置いてあると聞いたんだけど」

「それでしたら」

 神父に尋ねると、人間大の大きさをした、四ツ足で長い首を持つ獣の木像を見せてくれた。これがトロイの木馬か。

「ちなみに、これがどうしてここにあるの?」

「一週間ばかり前でしょうか。ちょうど、デボネア将軍が、ゼノビアに入られた頃だったかと思います。一人の男がこれを持ってきたのです。自分では使い途がなくなった物だが、この先おそらく、これを必要とする者が現れる。その時まで、帝国の目が届かないこの地で、トロイの木馬を預かって欲しいと」

 初めから、私達に渡すつもりだったってこと?

「その男の名前、わかる?」

「彼は、ライアンと名乗っていました」

 ウェンディ隊は「トロイの木馬」を受け取ると、教会を発つ。元の大きさも大概だが、魔力が込めてあるせいか、えらく重たい代物だ。運ぶのに、ウェンディ達は五人掛かりだった。

「これは、下手に取っておこうと思わず、手にした時点で使ってしまった方がいいですな」

 そりゃそうだろう。造形も簡素なもので、用途がわからなければ、置物としても大した値はつきそうにない。

「それにしても、あのライアンという男。初めは我々を混乱させるための、帝国の間諜かとも思ったが」

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「ああ、奴のもたらした情報は、全て真実だった。あれで案外、いい奴なのかもしれん」

「いい奴が二万ゴートも吹っ掛けるかよ!」

 ランスロット、ギルバルド、カノープス達が話し合っているように、ウェンディもライアンのことが気になっていた。気になるのはあくまで、面白いヤツという意味でだが。

 アンベルグに戻ったウェンディ隊。

 

 と、そこへ、グリフォンのネッソスに乗って、アッシュ達がアンベルグに到着した。

「もう戦えるの?」

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「ああ、問題ない。それにデボネアの奴とは、因縁もあるしな」

 戦士の顔に戻ったアッシュは、この上なく頼もしく見えた。

「では、ゼノビア攻略の作戦会議に入りましょう。ちょうどネッソス、マックスウェル殿、カノープス殿がいるので、飛行部隊三隊で攻め込みます。問題はネッソスに乗る先鋒部隊ですが」

「先鋒は、我等に任せてもらおう」

 声を上げたのは、アンディ等アッシュの家臣達であった。再び戦地に赴く主人に、彼等も並々ならぬ思いがあるようだ。

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「では、カラベル殿、ラット殿を加えたアンディ隊に先鋒をお任せします。第二陣は、アッシュ殿にお任せしましょう。第三陣は我等ウェンディ隊。三隊の連係が鍵になります」

 遂にデボネアとの対決だ。相手は将軍であると同時に、女帝直属の聖騎士と聞く。彼個人の武も、相当のものと見ていいだろう。

「一ついいか」

 アッシュが提案した。

デボネアの剣の腕は、儂が保証する。特に、奴の剣技ソニックブレイドは、接近しての戦いを阻む。こちらも、遠距離攻撃の可能なサムライ装備で望むべきだろう」

「成る程。幸い、サムライ装備に十分な数が用意してあります。後方からの攻撃主体で攻めましょう」

 頷く緒将。

 流石、元騎士団長だけあって、統率力は目を見張るものがある。というか、これ私要らないんじゃないかな。

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 サムライ装備を整えたウェンディ軍は、ゼノビア城攻略のため、愈々アンベルグを発つ。

トロイの木馬は見つかったか?」

 アンベルグを出る所で、ライアンが声を掛けてきた。

「お陰様でね」

「俺の力を借りたければ、今からでも遅くないぜ」

「そうね。考えとくわ」

 ウェンディは笑顔でそう返すと、アンベルグを後にした。

 

 ゼノビア城、南の城壁。

 ウェンディ軍の手によって、ある物体が仕掛けられる。

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「これでいいの?」

 ウェンディが作動させると、黒い影が四本の足を、目にも止まらぬ速さで一本ずつ踏み始める。その動きは次第に大きく、また間隔も開いていき、大地を踏み鳴らす音がやがて地鳴りとなった。

 振動が地震となり、立つのに支障が出る程になったところで、城壁に押し付けられる木馬の首。

 それは、決して大きな衝撃ではなかったはずだ。むしろ城壁が傷付かぬよう、そっと押し当てるような動きだった。

 にも拘わらず、ぐわんと大きな音が響いたかと思うと、その音波は城壁を伝って周囲に駆け巡り、遠くの方でパリンッと硬質な音が弾けると共に、見上げる程だったゼノビア城壁が崩落した。

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「みんな、怪我はないかしら!」

 地震が起き始めたタイミングで皆、空中に翔び上がっていたため、幸い怪我をしたものはいなかった。今後使う際は、注意が必要だ。

 だが木馬の方は、完全に瓦礫の下敷きになってしまっている。どちらにしろ、使いきりのアイテムだ。

 瓦礫の上に降りて、ゼノビア城下を見渡す。

「これが、あの大陸一の都、ゼノビアの城下か」

 アッシュが、悲嘆の声を漏らす。

 そこに広がっていたのは、異様な光景だった。

 倒壊した建物の跡にぽつぽつと点在する、バラックのような粗末な小屋群と、その合間に存在するゴミの山。

 初めはトロイの木馬の影響かと思ったが、そうでないことは建物の年代感を見てわかった。

 これらゼノビアの城下町は、13年前落城時の戦火で焼けて以来そのままなのである。

 それから大した復興もなされぬまま、このようにスラム街の様相を呈している。

 よく見れば、ゴミ山を通り抜けて行き交う人もいるが、男も女も親も子も、皆一様にボロボロの服を着て、虚ろな目をして歩いている。

 彼等は、街を守る城壁が崩され、ウェンディ達が現れても、吠える野犬程の関心も示さなかった。

 そうした人々の中を、ウェンディ達は進んでいったのだった。

 城壁の異変を知り、ウェンディ軍の侵入に気付いたデボネアの側も、迎撃の隊を繰り出してくる。だが、再びゼノビアの地を踏んだアンディ隊の戦意は、鬼気迫るものがあった。

 迎撃隊を蹴散らしていき、かつてゼノビア王宮であった、帝国の将軍デボネアの本拠が見えてくる。

「覚悟はいいわね」

 夜が明けるにはまだ早い。朝日が昇る前の最後の暗がりを突き破って、ウェンディ軍はゼノビア宮殿に突入した。

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「よくここまで来たものだな。命知らずなその勇気は誉めてやろう」

 宮殿へ入ったウェンディ達の正面。灰暗い広間の中央で、甲冑のよく似合う長身に、これも見事な金色の長髪をした偉丈夫が、待ち構えていた。どうやら、彼一人のようだが。

「我が帝国は寛大だ。今からでも遅くはない。速やかに投降すれば、命だけは助けてやれる」

 気のせいだろうか。言葉は高圧的だが、帝国の将軍という肩書きと裏腹に、自信無さげな男に見えるが。

「さあ、命を粗末にするな」

「人々の命を粗末に扱っているのは、貴方達帝国の方じゃない! 帝国に従って助かる命ならば、こんな所まで来たりはしない! 私の命は、私の正義を実現するためにある!」

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「そうか。なればこのデボネアが、ハイランドの名誉に懸けて、貴様等を倒す」

「その剣に、真の名誉があるのか?」

 その声の主、アッシュに対して一度目を細めたデボネアだったが、さして驚きもせず。

「陛下の治めるこの大陸の平和を、貴様等反乱軍は乱している。陛下に害為す者を討つこの剣が、俺の名誉だ!」

「大陸の平和か。よく言う。このゼノビアを見ろ! 大陸一の栄華を誇ったこの街が、今やただのスラムではないか!」

「くっ」

 グラン王が治めていた時期のゼノビアを知っているデボネアにとって、この地に派遣されて見たゼノビアの惨状は、想像を絶するものだった。

 今ならウェンディにもわかる。帝国四天王たるこの男から、覇気を感じない理由。デボネアは迷っているのだ。自分の信じているものが、自信の正義が、本当に正しいのか。

「無辜な民を虐げ、誇りある家臣に人殺しを命じ、世に悪徳を蔓延らせる。そんな帝国が、どうして理想の国家と言えよう」

「黙れッ!」

「これが本当にエンドラの意志なら、貴公の主君は仕えるに値する相手か?」

「…たとえ貴殿だろうが、それ以上陛下を侮辱することは許さん」

 剣を構えるデボネア。すると、その両脇で、ゆっくりと鎌首が持たげられ――。

 石像だと思っていたそれらは、二体のレッドドラゴン

 まさか、ドラゴンを使役していようとは。

 やはり、四天王。甘くはないか。

 だが、ウェンディ軍の戦士に気圧される様子はない。何が相手だろうと、彼等の剣には信念があるからだ。

「よかろう。どちらが正しいかは、剣が示してくれる」

 各々が剣を構える。

「行くぞッ!」

 まず動いたのは、アンディ隊。ラット、カラベル、アンディの三人は、構えた剣を同時に振り下ろす。

 繰り出されたのは、古くの同輩として息の合った三つのソニックブーム

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 反射神経でもデボネアは一級の剣士だが、流石に三つの斬擊は防ぎきれない。

 アンディの攻撃を避けた先で、ラットの攻撃を剣で受けるも、カラベルの攻撃に身を晒す。

「ぐっ」

 デボネアを襲うは、数の暴力。それにしても、あれだけの数がいた帝国兵は、皆出払ったのだろうか。

「イアーッ!」

「ギィーッ!」

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 神速の剣技は、ネッソスが体を張って受け止める。

 襲い掛かるドラゴン達は、前衛のマックスウェルとマルコムの二人が凌いでいる。

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「見極めよ、デボネア。貴公が真に貫きたい正義は、一体何だ?」

「むぅ!」

 激昂したデボネア。駿足の踏み込みから繰り出される剣は音速を超え、デボネア渾身の斬撃となってアッシュに襲い掛かる。

ソニックブレイド!」

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 しかし、それを予期していたアッシュは、剣筋を見切ると紙一重で受け流し、

「鋭ッ!」

 デボネアの剣に合わせて自らも剣を唸らせた。

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「がっ」

 態勢が整わないデボネアの方は、ソニックブームの直撃を受ける。

 息つく間もなく、今度はディベルカとハドソンが剣を振り上げている。

 二本のソニックブームに対し、デボネアは一つを剣で受けるのが精一杯だった。

「グワァーッ!」

 デボネアの動きは、明らかに落ちていた。

 そこへ、

「アイスレクイエム」

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 周囲を凍らせるウェンディの魔法。今のデボネアに回避は困難だ。

 満足に動かなくなる体を、デボネアは気合で鞭打ち、再び剣を構えようと――、

「…ッ!」

 はたと気付くデボネア。愛剣ソニックブレイドは、刃が完全に凍り付いていた。

「俺の負けだ」

 疾風のデボネアは、遂に膝を屈した。

 

 

伝説のオウガバトル

伝説のオウガバトル

  • 発売日: 1993/03/12
  • メディア: Video Game
 

 

 

ウェンディ、ゼンダに立つ 『伝説のオウガバトル』攻略日誌 その7 リプレイ前編


 本稿の概要に関しては、こちらをご参照ください→

 今回のリプレイ後編はこちら→

 今回の解説編はこちら→

 では、本文をどうぞ。

 

第1部 シャローム蜂起編

ステージ7 忘れ得ぬ秋風

 ポグロムを解放したウェンディは、ゴヤス城で戦後処理にあたっていた。

 森林周辺の都市に兵を派遣して、様子を探らせているウェンディの懸念。それは、カペラを倒したものの、ポグロムの森を覆う瘴気が晴れないことだった。てっきり、森が淀むのは結界の影響で、カペラを倒しさえすれば瘴気は晴れると思ったのだが…。

 巡回に出した兵達が戻ってくる。

 ウォーレンが、ウェンディの疑問に答えた。

「結界により留められていた分は、消え去っています。しかし、どうやら大量の瘴気を孕んで生育した森の木々そのものに、多くの瘴気が溜め込まれているようです。森が、虐殺以前の状態に戻るには、育った年月と同等か、それ以上の時間が必要でしょう」

 人々に刻まれた虐殺の記憶は、悪党一人を倒したくらいで癒されるものではない。ポグロムの森が、そう物語っているような気がした。

「森の中を見てきたが、町の人間が自由に歩き回れるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。これは、その時見つけたものだ」

「私はこれを見つけた」

 ランカスターとケミィが、それぞれ「雷獣の盾」と「黒王の剣」を持ってきていた。

 そうしているとマックスウェルも戻ってきて、ウェンディに告げた。

「貴殿に、セルジッペへ来て欲しいそうだ」

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 セルジッペへ向かったウェンディ達を、都市の神官が出迎えた。

「なんでも、ポルトラノ様から貴殿方解放軍に、お頼みしたいことがあるそうで」

 ポルトラノの元へ案内される。その道中、

「この町には、トードという名の商人がいまして」

 その名に、同行していたリサリサは反応する。

「彼はまだこの地に?」

「それが、帝国軍の退却と同時に町から姿を消してしまいました。何分、悪どい取引ばかりしていたような男で、いなくなってこちらとしては清々するくらいなのですが…。どうやらマラノの方で大きな取引があるとか。一応、貴殿方のお耳に入れておこうと思いまして」

 いわゆる悪徳商人というやつか。

 リサリサは、ウェンディに彼と会ったことを話そうかとも思ったが、ウェンディが知る必要もないと思い、黙っておくことにした。

 セルジッペへ戻ってきたポルトラノは、大分顔色が良くなったようだ。

 ポルトラノは、居住まいを正して言った。

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「このポグロムの地から遥か西の、ダルムード砂漠にあるアリアバードという町。其処に住むギゾルフィと申す魔導師に、ある石を貰ってきていただきたいのです」

「石?」

「引き受けてくださいますか?」

「そのくらいのことなら、別に構わないけど」

「ありがとうございます。私からの正式な使いである証として、この『クイックシルバー』を貴殿方に預けましょう。これをギゾルフィに渡せば、貴殿方の身分を信用してくれるはずです」

 たかが石を貰ってくるだけで、随分仰々しい気もするが。余程高価な品なのだろうか。

 ウェンディは、ポルトラノから純銀でできたアンク「クイックシルバー」を受け取り、首から提げた。

 用が済んだので、ウェンディ達はゴヤスへ帰る。

 城へ着くと、次の攻略目標へ向けての軍議が始まる。

「愈々、旧王都ゼノビアの攻略に向かいます」

 ゼノビアという名に、一同の顔が引き締まる。

「先にも申しましたように、我等の蜂起を聞いた帝国は、ゼノビアに神聖ゼテギネア帝国四天王が一人、疾風のデボネアを配しております。デボネア将軍は、音速の剣ソニックブレイドを操る強敵です。幸い、南東の城塞都市ポストイナの市民は、我々に好意的と聞いています。このまま西へ向かうのではなく、一度南のランカグア方面へ下り、ロスアンヘルスを回ってポストイナへ向かいましょう。そこを拠点に、攻略の糸口はないか探ることにします」

 ウェンディ軍の次なる目的地は、ゼノビアの南東、城塞都市ポストイナと決まった。

 軍議が終わると、ちょうどシャロームから補給が届いたところだった。

 物資を届けてくれた彼等には、このままゴヤスに残ってもらい、森に覆われたポグロムの経営を担ってもらう。

 と、補給物資を運んできたグリフォンの一頭が、ウェンディ達に擦り寄ってくる。

「そのマラトーンは特別元気が良かったんで、前線部隊に入れてもらおうと、連れてきたんだ」

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 顔を見ると、確かにマラトーンの目はやる気に満ちていた。

「じゃあ、一緒に行きましょうか」

「クアーッ」

 新しく仲間に入ったマラトーンと共に、ウェンディ軍はポストイナへ向けてゴヤスを発った。

 

 そのポストイナの北方、ゼノビアから真っ直ぐ東に進んだゴヤスとの間に位置する、城塞都市バイロイト

 この街は、まるで外界との交流を拒むかのように、他の都市と比べて一際高い城壁によって、周りをぐるりと囲まれている。というのも、この街には、とある重罪人が囚われており、街全体が彼のための牢獄の役割を果たしているからだ。

 彼の名は、狂戦士アッシュ。元ゼノビア王国騎士団長でありながら、その主君神帝グラン、及び王家の者達を手にかけたとして、まだ王国が帝国に滅ぼされる以前より13年もの間、このバイロイトの牢獄にて収監されている。

 牢からも覗かれる月が綺麗な晩、そのアッシュの元を訪れた者がいる。人目を避けてか、連れているのは魔術師一人だが、身に付けた甲冑と立ち居振舞いから感じさせる雄壮さは、余程の人物と見える。

 彼を脱獄させようとして捕まった二人の従者以来、およそ十年ぶりとなる稀有な来客に、目を細めるアッシュ。月影に浮かび上がったその顔には、確かに嘗て見た面影があった。

デボネアか。久しぶりだな。見違えたぞ」

「それは御互い様だ。まさか、獄中に繋がれた貴殿と見えようとは、思いもしなかった」

 アッシュと対面するこの偉丈夫こそ、この大陸を統べる神聖ゼテギネア帝国女帝エンドラ直属の聖騎士、中でも将軍として兵を預り、自身の武勇も天下に鳴る四天王の一人に若くして数えられ、今はゼノビアで反乱軍制圧の任に着く、疾風のデボネアその人であった。

「大戦時の功績で、貴殿は将軍職に任じられたと聞いたぞ。帝国の将軍様が、わざわざ儂の顔を見に来たのか?」

「勘違いするな。近頃活発な動きを見せる王国の残党を鎮圧するため、ゼノビアに赴いたのだ。貴殿に会いに来たのは、そのついでにすぎん。殺し屋の身を案じていられる程、我々は暇ではない」

 殺し屋という言葉を聞いて、死ぬことすら許されないまま、バイロイトという墓標に閉じ込められた老人の口から、恨み節が溢れ落ちる。

「ふっ、大陸中の人間を殺して回る貴様等帝国からすれば、儂のような小物など眼中にないか」

「黙れッ! 陛下に逆らう輩が悪いのだ」

「こんな僻地での動乱に、虎の子の将軍をわざわざ派遣するかよ。デボネア、貴様は真面目すぎるからな。帝国の施策に楯突いて、中央から遠ざけられたのではあるまいか?」

「くっ」

 獄中の老人を睨み付けたデボネアだったが、思うところがあったのか、何も言い返すことはなかった。

 しばしの無言が続く。

 アッシュの牢の隣には、十年前より主人と共に、ラットとカラベルの二人が囚われている。

「貴公等には、直接の咎はない。過ちを認め、帝国に仕えると誓えば、牢から出すこともできるが」

「アッシュ殿を見捨てて、我等だけ解放を望むと思うか?」

「そうか」

 答えがわかっていたかのように、デボネアは呟く。

 やがて、踵を返して出ていこうとするデボネアは最後に、

「反乱軍が、このゼノビアに向かってきているようだ」

 背中越しにアッシュへ告げた。

「己では手を下せぬからと、反乱軍に儂を斬らせるつもりか」

 悪態をつくアッシュ。

 それには答えないまま、デボネアバイロイトを後にした。

 

 南の迂回路から、ロスアンヘルスを経由してゼノビアを目指すウェンディ軍の前に、城塞都市ポストイナが見えてきた。

 解放しようとしたウェンディ軍は、城塞の手前で一人の女に声を掛けられた。

「反乱軍の方ですか?」

「そうだけど」

ゼノビアに御座すデボネア様から、言伝てがあります」

 民間人だと思っていた女の口から、将にこれから倒さんとする帝国将軍の名前が出たことで、一同に緊張が走る。

デボネア様曰く、民を戦火に巻き込むは、我等とて本意ではない。この先にある、帝国の築いた城塞ミュルニークを解放してある。其処を反乱軍の拠点とせよ、とのことです」

 どういうことだろう。

 帝国軍自ら、我等のために拠点を提供するなんて。

 罠。そう考える方が自然だ。

「罠じゃないと証明できる?」

「勿論、元は帝国のものであれば、攻略の仕方は心得てあります。それでも、貴殿等の武人としての誇りを信じると、デボネア様は申されていました」

 武人としての誇り? そんなことで、我等が敵の誘いに乗ると?

「一応、人を見にやらせましょう」

 ウォーレンの提案で、カノープス達飛行部隊を、ミュルニークの偵察へ行かせることにした。

 にしても、仮に申し出が本当だったとして、何が狙いでわざわざそんなことを。

デボネアの奴、相変わらずのようだ」

 ポストイナ付近に居残っている本隊の中で、アンディが口を開いた。

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デボネアのことを知ってるの?」

 聞き返したウェンディに、

デボネアは昔、剣の修業でゼノビア王国に来ていたことがある。その時はまだ若造だったが、義を重んじる性格で、将来の武人を感じさせる男だった。本国に帰った後に起きた四王国との戦争で、武名を轟かした奴は今の四天王の地位に着いたんだ」

 ゼノビアに居たことがあったなんて。帝国の将軍にも、色々な経歴があるのか。

「その時の奴のことを思えば、民のために拠点を明け渡すくらいのことをしても、不思議じゃない」

 敵であるアンディにそこまで言わしめるなんて。悪鬼のような輩ばかりと思ってい帝国にも、かように立派な男が居たとは。

 そこへ、ミュルニークに行かせたカノープス達が帰ってきた。

「ミュルニークと思しき城があったぞ。本当に無人のまま放置されていて、静かなもんだ」

 やはり本当だったのか。

 グリフォンに乗って同行していたウォーレンも同意する。

「四ツ辻の交差する地点となっていて、侵攻拠点としての立地は申し分ありません。その上作りも堅牢で、流石に帝国の大軍に囲まれれば保たないでしょうが、ポストイナに拠るよりかは戦闘に堪え得ると存じます」

 敵に塩を送るとは言うが、そこまで礼を尽くしてくれるものか。

 ウェンディはアンディに問う。

「そんなに立派な人物なら、帝国に仕えるのを辞めさせることはできないかしら?」

 アンディは渋い顔だ。

「奴の性格からいって、主君への忠義を捨てさせるのは難しいだろう。ミュルニークを解放したのも、全力で俺達を叩き潰すためのはずだ」

 決断だった。

 ミュルニークに入ることは、デボネアの宣戦布告に承服したことを意味する。

 民を思い、主君に忠義を示し、あまつさえ敵にまで礼を重んじる。

 ウェンディの正義に照らせば、彼個人と刃を交える理由はない。

 だが、彼は今、帝国の将軍として、ウェンディの前に立ちはだかっている。

 喩え相手がどれほど尊敬に値する人間だろうと、帝国に与するとあらば戦わなければならない。

 それもウェンディの選んできた、そして今尚選びつつある正義なのだ。

「ミュルニークへ向かう」

 それを聞いて、女はポストイナの町へ入る。

 ウェンディは、神聖ゼテギネア帝国四天王、デボネア将軍に宣戦布告した。

 

 ゼノビア城内のデボネア。彼の頭には、先日顔を合わせたアッシュとの、遥か遠い日の記憶が去来していた。

 遡ること20年近く前、先王モリー崩御に伴いハイランド王国に起きた混乱は、モリースの妻エンドラを一時的に即位させることで収まりを見せたが、宰相サレムの手によって、ハイランド家臣団に多少の再編があった。

 デボネアの家は、その剣によって代々騎士の位に就き、デボネアの父の代に王家直属の聖騎士の号を賜ったが、その父が早世し、まだ幼かったデボネアを父の弟が後見していた。

 政変時、宰相サレムの後ろ楯を得たデボネアの叔父は、自身が宗家の家督を相続。家に居場所のなくなったデボネアは、別れを惜しむノルンを振り切り、半ば放逐の形でハイランドを出たのだった。

 ハイランドを去ったデボネアに唯一残されていたのが、父祖伝来とされる剣ソニックブレイド。幼少より武芸に打ち込んでいたデボネアは、剣の道で身を立てようと決めた。

 諸国を遍歴しながら、武者修行の日々で耳にした、他国、特に大陸の東側では、ハイランド騎士団と並び称されるゼノビア騎士団。中でも、騎士団長を務めるアッシュという男は、武勇、人格共に比類無しとされ、ゼノビア王国初の聖騎士に任じられる日も近いという。

 それまでハイランドこそが世界の中心であったデボネアにとって、最強の象徴たるハイランド騎士団と同等と目されるゼノビア騎士団の存在と、そしてかの騎士団を背負って立つアッシュという男の存在は、俄然興味を引くものだった。

「お前が、噂のアッシュか?」

 そこでデボネアは、ゼノビア王国に乗り込み、領地を遊歩中だったアッシュを探し当てると、その前に立ち塞がった。

 平和と繁栄を謳歌していた当時のゼノビア王国は、他国からの流れ者を受け入れることを拒まなかったのだ。

 見るからに剣客の風貌をしたデボネアの姿に、アッシュの供をしていたラットは警戒する。

「いかにも、私がゼノビア王国騎士団長、アッシュ・シルヴァスタだ」

 剣に手をかけるラットを制して、アッシュは答えた。

「俺の名は、クァス・デボネア。剣の道を志して旅する道中、アッシュという男が相当の腕だと聞いたものでな。貴様が本当に腕の立つ剣士だと言うなら、俺と剣で勝負してもらおうか」

「貴様、礼儀というものを知らんのか。何故アッシュ殿が、貴公のようなならず者との勝負を受けねばならんのだ」

「まあまあ、良いではないか。王陛下の治世により、このゼノビア王国は長年に渡って平和を享受してきた。それは誠に結構なことだが、活きのいい若者を見る機会が減ったことだけが残念だ。俺も久々に、腕自慢の剣士と剣を交えたいと思っていたところよ。貴公との勝負を受けよう」

 掛かった。

 所詮南国の平和呆け騎士団。団長のアッシュとて、ハイランド聖騎士の父の下で剣を磨いた俺の敵ではあるまい。勝負にさえ持ち込めれば、こちらのものよ。

 一応人目を避けたアッシュの邸内で、従者カラベルの立ち会いの下、デボネアとアッシュは勝負をした。

「始めぃッ」

 号令と共に、アッシュの懐へ飛び込むデボネア。そこから、目にも止まらぬ速さで繰り出される剣擊。

「ッ、速い!」

 堪えるアッシュを尻目に、デボネアの剣は止まらない。

 やはりこの程度か。剣の腕では、俺は叔父上にも勝っていた。今の俺の剣は、あの頃より更に強い。アッシュとやら、あと何合持ち堪える?

 だが――。

 いくら打ち込んでも…崩れない?

 デボネアの神速の剣を、アッシュは最小限の動きで全て防ぎきっていた。

 人間は、無限に動けるわけではない。攻め続けたデボネアの、息継ぎをする一瞬の隙、

「ぬんッ!」

 肩からぶつかってきたアッシュに、体格の劣るデボネアはぐらつく。

「鋭ッ!」

 体重を乗せて振り下ろされた剣は、受けようとしたデボネアの剣を叩き落とし、彼の首元でピタと止まる。

「参りました」

 デボネアは膝を付き、頭を垂れた。

 

 それ以降デボネアは、アッシュの好意で彼の邸の食客になっていた。

 負けてすっかりしおらしくなったデボネアは、自分の身分を明かし、頭を下げてその場を去ろうとしたが、デボネアを気に入ったアッシュが、行く宛がないのであれば家に来いと誘ったのだ。デボネアは、無礼な挑発で勝負を仕掛け、あまつさえ敗北した自分にそのような待遇は身に余ると断ったが、アッシュが無理に押し通した。

「貴公は私を倒しにきたのであろう。なれば、私に勝てるまでは、この地に逗留してはどうだ?」

 初めは、異国生まれの流浪の剣士に距離を置いていた邸の者達も、元の礼に篤い武人となったデボネアに程なく心を開き、アッシュの邸で過ごした時間は、デボネアにとって久方ぶりに心安らげる一時となった。

 その中でも、デボネアとアッシュの勝負は続けられていた。

 負ける度にデボネアは、アッシュに勝つための方を模索して、嘗てより一層真剣に修業に励んだ。

 最早勝負というより、実戦形式の稽古とも言える様相だったが、デボネアは元よりアッシュの方も一切手を抜くことなく、二人は何度も剣を合わせ、デボネアは何度も負け続けた。

「お前さんもよくやるな。もういっそのこと、アッシュ殿に勝つのは諦めて、我等と共に家臣となったらどうだ?」

 アッシュの臣下の一人であるアンディが、勝負で付けられた傷を冷水で冷やしていたデボネアに声を掛けた。

 デボネアは今では、アッシュの家臣達からも、同輩のように扱われているのである。

「うむ、俺もそう思ったことが、ないではないが」

 傷を見ながら、デボネアは考えている。

「実際に剣を合わせてみてわかるのだが、アッシュ殿は本気で、俺がアッシュ殿を倒し、ここを出ていくことを望んでいるように思う」

「そんなことはないだろ。アッシュ殿は、貴殿のことを息子のように可愛がってるぞ。我等とて、貴殿のことを皆気に入っている。ゼノビア騎士団に、貴殿のような戦士が欲しいくらいだ」

「俺のような人間には、勿体ない言葉だ」

 デボネアも、周囲の暖かさには感謝していた。

「だが、そういう意味ではないのだ。出ていけというのではなく、剣を通して、俺に何か、足りないものを教えようとしている気がする。それがきっと、俺が勝てない理由なのだ。アッシュ殿は、俺がそれを見つけ、剣士として一人で立てるよう、稽古をつけてくれているのだと思う」

 言葉は頼りないが、デボネアの声には、幾度もアッシュと斬り結ぶ中で感じた確信があった。

「ふーむ、俺にはよくわからんが、続けるならまあ頑張れよ」

 デボネアがアッシュに勝てるかは、家臣達の中でも関心事の一つになっていた。

 デボネアがアッシュの元に身を寄せて、半年は経とうか。

 今日もデボネアはアッシュに挑む。

 アッシュが構える前に――。

 半年前より、半歩分速いデボネアの踏み込み。

「むっ」

 剣が間に合わないと悟ったアッシュは、前蹴りで突進を殺す。

「ぐっ、まだ」

 体勢を崩すも、沈んだ重心から強引に跳躍し、体ごと突っ込む。

 と、僅かに体をずらしたアッシュ。直線的な力は、いとも容易く外に逃がされる。そこには、ガラ空きになった胴。

「がはッ!」

 腹にめり込む平打ち。デボネアは悶絶した。

 これで24戦24敗。

「貴公の剣は、先祖伝来とやらか?」

 デボネアの呼吸が整った頃合いを見て、アッシュが問うた。

「そう聞いている」

「成る程な」

 アッシュはデボネアに向き直った。

「貴公の戦い方では、一生私に勝てない」

「なっ」

 いきなり何を言う。

「疾風となりて懐に飛び込み、神速の剣で敵を斬りつける。我がデボネア家は、この戦法で数々の武名を成してきた」

「その剣でか?」

「そうだ」

「武名を得る度に、何度その剣を研ぎ直したろうな?」

 何だ? 何を言おうとしている?

「軽いのよ、その剣は。嘗ては、敵を鎧ごと薙ぐ重量があったかもしれんが、今のその剣では、受け止めることは容易い」

「我が先祖伝来の剣が、軽いだと…?」

「剣だけではない。貴公の体躯は並みの剣士を上回るが、私よりは劣る。体格で劣る相手に近接戦を挑むは、分が悪いと思わんか?」

「ぬうっ、俺の体では、父祖の剣を振れぬと申すか!」

「世界は広い。敵と必ず、同じ体格差とは限らない。剣の技とは、絶えず変化する状況に応じて使い分けるものだ。貴公の信じる強さが、絶対ではない」

「放逐されたと言え、俺に流れるは誇り高いハイランド騎士の血だ。俺は俺の剣で、貴殿を超えてみせる」

「そうだ、貴公の剣だ。考えろ。貴公の踏み込みの鋭さは、何者にも勝る。音速を超える剣速を、最も活かせる間合いは。体格で劣る私に、貴公が克つ術を」

 俺が、強者であるアッシュ殿に克つ術。

 デボネアは再び立ち上がった。

「その剣の重みが真に尊ぶべきものなら、それを使う貴公の方が変わらねばならぬ」

 掴みかけてきた気がする。

 手に持った剣の感触を確かめる。本当だ、軽い。

 だが、この軽さは力だ。この剣ならば、疾風を生み出すことも容易い。

 敵の眼前に迫るこれまでの踏み込みは、疾風が駆けるには窮屈すぎる。

「見せてみろ。今亡き父の影ではない、貴公自身の剣をッ!」

 間合いを詰めにくるアッシュ。

 デボネアに比べ、アッシュの動きは決して速くない。間合いはこちらに味方する。

 踏み込んだデボネア。まだアッシュの剣は届かない。

 構わず振る、最速の剣。音速を超えた剣は衝撃波となって、カウンターでアッシュを襲った。

「うぅッ!」

 アッシュが膝をついた。

「勝った…のか? 俺が、アッシュ殿に」

  25戦目にして、デボネアは漸く白星を得た。

 

「ああ、アッシュ殿!」

 念願だった初白星に、しばし呆然となっていたデボネアだったが、はたとアッシュの容態が心配になって駆け寄る。

「うう、見事だ」

 アッシュは、デボネアの肩を借りて立ち上がる。

「怪我の具合は?」

「心配ない。二、三日すれば、治るだろう」

 傷の深さを確かめながら、アッシュは言った。

「一つの考えに凝り固まっていては、いつか切羽詰まる時が来る。如何なる状況にあっても彼我の力の程を量り、己の意を通す最善の法を見極める。混沌の中に確たる己を見出だしてこそ、真に剣の道を極めたとぞ言う」

 今なら、わかる気がする。

 解し得ない所で自分の処遇を決められた俺は、自分にわかる道理、即ち剣の強弱が支配する世界、その法則に準じようとした。

 それはつまり、剣に負ければ死ぬこと。そこのみに己の価値を置き、それ以外のものを見ようとしていなかった。

 その呪縛を解くために、アッシュ殿は俺を打ち負かし続けたのだ。

「それにしても、凄い業前だった」

「この剣が、力を貸してくれた」

 真に俺が受け継いだもの。それは、数多の敵を屠ってきた剣の技ではなく、ハイランドの騎士として、王家を支えてきた誇り高き魂だ。

 形を変えたとて、剣に込められた魂は変わらない。だが、いや、だからこそ、この剣ソニックブレイドの魂は、俺の技、俺自身の価値で示さねばならないのだ。

 ハイランド聖騎士の剣を受け継いだという覚悟が、俺に新たな一歩を、俺自身の人生を切り開く一歩を踏み出させてくれた。

ソニックブレイドデボネア家が受け継いできたこの剣ではなく、俺自身が振るうデボネア家の魂という意味で、この剣と同じ名付けとする」

ソニックブレイドか。疾風勁草の貴公に相応しい技だ」

 肩を組み、談笑する二人には、確かに師弟の絆があった。

 そこへ、

デボネア殿はいらっしゃいますか?」

 邸の者が訪れる。

「どうしたのだ?」

「ハイランド王国から、使いの者が参っています」

「ハイランドから?」

 急いで支度を整え、面会する。

 使者は、予想外の事実を告げた。

 先王モリー崩御時、宰相サレムによる私的な家臣団再編があったが、エンドラ女王の即位後もサレムの専横政治はずるずると続き、古くからの家臣達には不満が溜まっていた。

 即位から半年後、聖騎士等の支持を受けた女王エンドラは親政を開始。宰相サレムを政界から追放すると、サレム派の臣下を一掃。女王に忠誠を誓う騎士団の下、ハイランド王国は急速に纏まりつつあるとのこと。

「ついて貴公には、デボネア家の家督を継ぎ、騎士団の一員に加わってもらいたい」

 聞くところによると、叔父の排斥により身分剥奪となりかけたデボネア家の処遇に際し、父と親交があり、今や王国の将軍を務めるヒカシューの助力で、デボネア家督相続を条件に騎士身分を残してもらえることとなったらしい。

「少し、考えさせて欲しい」

 降って湧いた好運。いや、好運と呼べるのだろうか。

 正直デボネアは、自分が再びハイランドに戻る日が来ようとは、思ってもみなかった。

 それが突然、家督の相続に、騎士待遇。今の不安定な身分からすれば、願っても得られない地位だ。だが…。

 デボネアには、相談すべき相手がいた。

 話を聞いたアッシュは、手放しで喜んだ。

「貴公は、かような所で燻っているべき男ではないと思っていた。いや、デボネア殿」

「ですが、俺はアッシュ殿に数々の御恩が――」

「貴殿は、遠く離れた異国の地に逗留し、邸の主人の暇潰しに付き合ってくれただけ。何も恩義に感じることは御座らん」

 アッシュは、事も無げに言い放った。

「しかし、それでは…」

 流浪の身の自分に住む場所をくれ、剣の稽古までつけてくれたこと。なによりその人徳に、デボネアは本気でアッシュの家臣になってもよいと考えていた。ゼノビア王国戦士団には入れずとも、有事に命を張ってこの男を守る、それが出来れば満足とまで思っていたのだ。

 帰る家が出来たからと、このまますんなり去っていくことが許されるだろうか。それ以上に、他国の戦士同士となるのだ。今は互いの国も友好関係にあるが、万に一つ、戦争にならないとも限らない。そうなった場合、これ程自分に尽くしてくれた相手に、俺は刃を向けねばならぬのか。

 そんなデボネアの心境を察して、アッシュは穏やかな、しかし言い含めるように、一言一言はっきりとした口調で語った。

「私が貴公に剣を指南したのは、自分に利するためではない。誰かを救い得る男が、道に迷っている。その誰かを、私では救えない。なれば、男に道を教えるのが、騎士たる私の務めではないか。今、その男を必要とする者がいる。ハイランド騎士の誇りを抱く男であれば、取るべき道は自ずと一つであろう。戦場で見えることを懸念するのであれば、御門違いもいいとこ。戦地にて一人前の姿を示すことこそ、騎士として最高の恩返しよ」

 アッシュの邸を発つ最後の日。

 邸の者総出で、若きハイランド騎士の門出を見送った。

 デボネアの肩に手を置くアッシュ。

 その目は、この半年で見た最も優しい色だった。

「願わくば貴殿が、その剣に誓いし誇りに相応しい騎士と成らんことを」

 万感の思いに打たれ、デボネアは深々と頭を下げる。

 そうして、デボネアはハイランドに戻ってきたのだった。

 

 太陽がちょうど南天する時刻、ウェンディ軍はミュルニークへ入った。

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「では、いつものように情報収集を、と行きたいところですが、敵は我等がこのミュルニークに入ったことを既に承知のはず。あまり悠長に構えている暇はないかもしれません」

 デボネアは、こちらを全力で叩くために、わざわざ無人の城塞を宛がった程だ。激しい戦いになることは必至だろう。

「せめて、城壁を攻略する術だけでも、見つけたいところですが」

「城壁っていうのは、あれ?」

 ウェンディは、正面、北方に見える城壁を指して聞く。

「いえ、あれはバイロイトの城郭です。ゼノビア城は、ここより北西に見える、あれです」

 ウォーレンの指す方角には、

「…なに、あれ」

 初めウェンディには、そこに壁があるものと思っていた。だが現実には、ミュルニークから覗く視界の北西部を完全に覆い尽くす程の、巨大な建造物だったのだ。よく見れば、城壁の手前に、幾つかの都市が存在するのが見える。

 思わず、カノープスの方を見るウェンディ。

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「残念だが、俺の羽を以ても簡単には越せない」

グリフォンの飛ぶ高さなら問題ないでしょうが、少数編成となる大空部隊だけで、敵の本拠地まで迫れるかどうか」

 デボネア靡下の正規兵だ。兵の数も、練度も、今まで以上のはずだ。

ゼノビア以外の都市も、バイロイト?だったかしら、ああやって城壁に囲まれているの?」

 ウェンディは、北の城郭に目を移す。ゼノビア程ではないが、こっちも高い壁が町を覆う。

「いえ、バイロイトは特殊でして、彼の地は、ゼノビア王家殺害の罪人、王国騎士団団長アッシュを逃がさぬ監獄の役目がある都市なのです」

 騎士団長が王族殺しの罪人? なんて畏れ多い話だ。

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「あのアッシュ殿がグラン王を手に掛けたとは、どうしても思えんがな」

 軍で面識のあったギルバルドは、険しい顔で呟く。

 ギルバルドの懸念を、ウォーレンが補足した。

「グラン王の暗殺直後、その下手人としてアッシュ殿が捕縛され、バイロイトに投獄されることに。ただ、怪しむべきは、アッシュ殿の監禁を支持した貴族連中が、大戦時挙って帝国へと寝返ったことです。その多くは、ゼノビア攻防戦の際討ち取られ、真相はわかりませんが、あるいは国王暗殺時、既に帝国側の内応工作が及んでいたのやも」

 栄えあるゼノビア貴族達の腐敗ぶりは忌々しい限りだが、それが事実ならば、王国の支柱たる騎士団長に重罪を着せ、国家の弱体化を図ったという推察も成り立つ。

「加えて不可解なのが、帝国も未だにアッシュ殿をバイロイトに閉じ込めたまま、放ってあること。アッシュ殿が本当に王殺しの罪人なら処刑すべきでしょうが、敢えて生かしたまま、バイロイトごと封印し、王国の墓標のように残してある。旧王国民の反帝国感情を逸らす意味合いもあるでしょうが、帝国にとってもグラン王の死は、無暗に掘り返したくない事情があるのでしょう」

 自分達が犯した罪を、あくまで他国自身の問題として処理させる。その象徴としての、囚人。そんな役回りを押し付けられて、

「アッシュには、真実を告げる機会すら与えない、というわけね?」

 ウェンディの問いに、ランスロットが首を振った。

「いや、アッシュ殿は、自ら罰を受けることを望んだのだ」

 ん、話が見えない。

「彼が、王を殺したわけじゃないんでしょ?」

「アッシュ殿は、ゼノビア王国にその人ありと言われた、騎士団の鑑のような御仁だった。王家の繁栄をその誇りとしていたアッシュ殿だけに、グラン王をむざむざと殺されてしまったことが余程堪えたのだろう。国王殺害の責め苦を一身に背負ったのだ」

 担うべき役割を果たせず、何よりも大切なものを喪って、自身を許せない気持ちはわからないではない。

 だが、その結果、王国の瓦解は加速し、悪しき帝国に滅ぼされてしまったのではないか。

「ウェンディ殿」

 居並ぶ戦士の一人、アンディが呼び掛けた。

ゼノビア城の攻略において、戦略上の価値があるわけではない。だがどうか、バイロイトのアッシュ殿を解放してはもらえぬだろうか」

 北西に位置するゼノビアに対し、北のバイロイトへ向かうことは多少の回り道となる。そもそも、あの城壁を越えるには手間がかかるだろうし、他都市との交流も盛んとは思えず、大した情報は得られないかもしれない。でも、

「私も、アッシュから真実を聞いてみたい」

 ゼノビア王国が滅ぼされた理由。帝国の支配が正当な理由があの城にあるというのなら、それを確かめずには、真にゼノビアを解放したことにはならない。

 歴史に葬られようとしているゼノビアの悲劇を、陽の下でもう一度照らし出し、正当に位置付ける。それが、亡きグラン王への手向けではないだろうか。

「では、第一の目標は、バイロイトとしましょう。カノープス殿、マックスウェル殿、ランカスター殿をそれぞれ、ウェンディ隊、ハドソン隊、リサリサ隊に配した飛行部隊三隊で、まずはバイロイトを目指します。このミュルニークは、ラーク殿を中心とする地上部隊で、防衛をお願いします」

 ひとまず、軍の方針が定まった。

「先陣はハドソン隊、リサリサ隊は殿軍を」

 ウェンディ隊、他二隊は、北の城塞都市バイロイトへ向けて、進発した。

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 ウェンディ隊の行く手に、バイロイトの城壁が見えてくる。

バイロイトの中へは、我等ウェンディ隊とリサリサ隊で入ることにしましょう。ハドソン隊は、城壁の手前で敵の監視についてください」

 先行していたハドソン隊が、バイロイトの北面南面を共に見張れる位置に着くと、ウェンディ隊は城壁越えにかかる。

 確かに、一飛びにというわけにはいかないが、カノープスの羽による恩恵があれば、幾度か壁を蹴って翔び上がることで、越えられないというわけではない。

「これなら、ゼノビア城の攻略もできるんじゃない?」

ゼノビアの城壁は、これより遥かに高いものです。翔べるといっても、やはり策無しにぶつかるのは賢明ではないかと」

 遠く離れたミュルニークから、視界を覆い尽くしていた壁を思い出す。

「そうだったわね」

 一足先に城壁を乗り越えたウェンディ隊に続いて、後進のリサリサ隊も追いつく。

「漸く来たわね」

「申し訳ない。途中でこれを見つけたので、拾っておいた」

 リサリサ隊は、「マラカイトソード」を拾得していた。

 城塞都市バイロイト。その中央部に聳え立つ塔こそ、アッシュが囚われている牢獄だ。

 バイロイトを解放したウェンディ達は、まるで時の流れから隔絶されてあるかのような威圧感を放つ、監獄塔へ向かった。

「ふむ、妙ですな」

 軍事施設ではないと言え、重犯罪者を閉じ込めてある牢だ。帝国の警固兵との遭遇は覚悟していたが、塔内に番兵の気配はなかった。デボネアは、人を引き揚げさせたらしい。

 階段を上った先、アッシュとその二人の家来が囚われる牢があった。

「誰だ?」

 一番奥の牢から響く男の声は、微かに嗄れた感じがした。

「私達は帝国を倒さんとする者よ。アッシュね。貴方に聞きたいことがある」

 ウェンディが近付こうとすると、

「待て」

 嗄れた声が制した。

 見ると、三つの牢を繋ぐ廊下の先に、鎮座する影。

「ストーンゴーレム」

 石でできた人形が、ウェンディの前方、何もない空間に、視線を落としている。

 成る程。これが看守の代わりというわけか。打ち毀せるか。

 剣を抜こうとしたウェンディを、f:id:boss01074:20200720061031j:image

「それには及ばないでしょう」

 ウォーレンが制する。

 そう言うと、その場から両手を前に翳し、何やら呪文を唱える。

 詠唱が終わる。と、ゴーレムはゆっくりと立ち上がり、牢の鍵を次々と抉じ開けていく。

「魔法式を上書きしました。一先ず、私の意の儘に動きます」

 ウェンディ達は、ゴーレムが鍵を開け終わって尚、牢の中に居座っているアッシュの前に来る。

「儂に聞きたいことがあると言ったな。貴殿等は儂を斬りに来たのではないのか」

「貴方は、なんでここに居るの?」

「儂は、王殺しの罪人だ」

 憮然として言い放つアッシュ。

「貴殿が王陛下を手にかけるはずがない」

 その声に、アッシュは聞き覚えがあった。

「ギルバルド殿、生きておったか。貴殿も反乱軍に加わっていたとは」

 表情が少し和らいだアッシュに、ランスロットも言葉を次ぐ。

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「我等は皆、貴殿に憧れて戦士の誓いを立てたのだ。我等の理想だったアッシュ殿が王陛下を裏切ったとは、どうしても思えん」

「貴公は…、騎士団の者か」

 元王国騎士団長の顔に、言い知れぬ憂いが浮かぶ。

「しかし…」

「王家を護れなかった貴方の悔恨は、想像に余りあるでしょう。でも、真実をこのまま闇に葬っては、ゼノビア王家の名誉は永遠に失われたままよ。最も信頼した騎士に討たれたなんて最期、グラン王にとっても浮かばれないんじゃなくて?」

 グラン王にとって。その言葉は、己の罪とばかり向き合い続けてきたアッシュに、いたく響いた。

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「儂は、グラン王を殺したも同然なのだ」

 アッシュは、重い口を開いて、13年前の真実を語り出した。

 

 

伝説のオウガバトル

伝説のオウガバトル

  • 発売日: 1993/03/12
  • メディア: Video Game