かつて映画館通いをしていた男の戯れ言

 

 映画館での上映中のスマホ使用が話題になりました。

 

 僕の意見としては、根本のスタンスとして、映画館は自由なところであって欲しいなあというのがあるので、上映中スマホいじっててもいいんじゃねくらいのスタンスです。

 隣のオヤジいびきうるせえーなとか、姉ちゃん何回席立つんやとか、そういう体験も含めて映画館かなと個人的には思うので。スマホいじるくらい目くじら立てんでやって、と思わないではないです。

 僕も中学の頃とかよく一人で映画館に通ってて、一人で見に行った映画がしょーもないもんだった時のやるせなさとか、女連れてる男なんでこんなイキりがちなんやとか、映画館はそういう体験を教えてくれた場所でした。

 

 ただ、映画を見ることを本当に楽しみにしてる人が、劇場で関係ない光がパカパカしてる時のげんなり感もわからなくはないんですよ。いわゆるポップコーンムービーとかなら僕もなんとも思わないですけど、お前この映画は違う、みたいなものもあるにはあるんです。

 

 ただまあこれに関しては僕なりに思うところがあって、これも話題になりましたけどチケット代が高いんだと思うんですよね。

 シネコン最大手のTOHOがチケット代を¥1800→¥1900に値上げする。たった100円にも思うけど、元が高いところにさらに値上げということでTOHOはわかってないと言われてました。

 たしかに2000円払って来てる人が気分を害されるのはいたたまれないですよね。

 個人的には映画は1000円くらいで見れるといいんじゃないかと思うんです。そのくらいだと上映中にスマホいじってる人がいても許せるんじゃないですか。

 

 例えば演劇のチケットなんかは高めの値段設定なわけなんですが、その価格帯によって演劇の観客達の間には同じ時間を作り上げる参加者としての共通意識が生まれるんですよね。その当事者意識で結ばれた共同体だから、映画に比べれば観客のマナー意識も高くなります。

 映画も¥5000とか¥10000くらい取れば、上映中にスマホいじる人なんかいなくなるでしょう。動員数は半減どころじゃ済まないでしょうけど。

 

 ネットで吹き荒れてる愚痴の嵐を見ると、演劇ファンみたいな鑑賞意識の高い観客は結構多いんじゃないかと思うわけですが、一方で映画館側がそういうお客さんを喜んでるかというと、映画のラインナップには安易な少女漫画の実写化とかいわゆるブロッコリー映画とか、あまり映画ファンが好まないような作品が並んでたりするわけで。

 意識が高くなってくると、映画見ながらポップコーンなんか食って音させてんじゃねえってな感じにもなってくるんですけど、映画館側からしたらポップコーンじゃんじゃん食って欲しいわけですよね。たとえ席ガラガラでも完売時と同じもの上映しなくちゃいけない映画館の儲けって、あっちのフードやドリンクで出さないといけないわけで、なんなら映画なんか見てなくてもいい。

 共通認識を持ち合わせた集団を構築するより、意識を持ち合わせない人達をたくさん呼び込む方が、シネコンのビジネスプランとしては正解だとは思います。もちろんシネコンの中でも、劇場単位でカラーを構築していくようなことはやってるとは思いますが。

 

 2000円っていうのは、そういう参加者意識が生まれるかどうかの微妙な価格帯で、ある人はあるし、ない人はない。スマホいじるくらいいいじゃんて人もいれば、スマホいじるなんて許さんて人もいる。

 ここで参加者意識の高い人達が低い人達を排斥しちゃうと、映画館自体潰れちゃうんじゃないかと思うんです。あるいはチケット一般¥5000とか。

 今ってテレビもすごい進化してて、家で大画面高画質高音質のBlu-rayを見ることができるし、Netflixに入れば、一生かかっても見切れないほどの映画に劣らない高クオリティな作品群を楽しむことができる。こんな時代に映画1本¥5000ってなると、嫌ですよ僕だったら。映画館行かなくなると思います。

 だから、チケット代は¥1000とかで、ポップコーンもドリンクもじゃんじゃん食ってじゃんじゃん飲んで、仕事で携帯手放せない人も、ヤれそうな相手からの連絡待ってる人とかも、時間潰すためにとりあえず映画館入っとくかみたいなラフな空気感はあってもいいんじゃないかなと思うわけなんですけど。

 

 繰り返しになりますが、ポップコーンムービーの上映ならまあそれでもいいと思うんです。けど、世の中には映画によって監督自身の人生と観客の人生の斬り合いを望んでるみたいなイカれた作品もわりと多くあって、そういった斬り合いの場として映画館に臨んでるイカれた観客もわりといるんです。

 そういう人からしたら、たかが¥1900じゃとてもじゃないけど換算できない、人生のリソース懸けて真剣勝負の斬り合いに来てるわけで、そんな真剣勝負の場でスマホの光パカパカやられたらたまったもんじゃねえっていうのもなんとかわかって欲しいところなんですよね。

 

 自分の物理的精神的リソースを投じて時間を作り上げるっていう感覚がない人には、映画ファンが映画を見ることに懸けるって行為の意味が理解できないかもしれません。

 でもそういう人でも、こっちがめちゃめちゃ盛り上がってる横で場をシラケさすようなことされると醒めちゃって、それまでの時間とそこからの時間が全部台無しになっちゃうっていう経験はあるんじゃないですかね。

 自分の人生の時間をインターセプトされるって経験だけでも辛いのに、それが斬るか斬られるかの真剣勝負の瞬間っていうなら頭にくる人がいるのも無理ないとは思いませんかね。

 まあわかんない人には、AV見てる時に男優のチンコが萎えてるのに気付かされるみたいなことだと思ってください。げんなりするでしょ、そういうの。上映中スマホ触っちゃう人は、自分がチンコ萎えたAV男優だってことは自覚してください。

 

 とまあ、真剣勝負で映画見に来てる人もいるものの、シネコン側がスマホいじりながらポップコーン食ってるくれるお客さんの方を向いてる以上、映画館がデートスポット化している現状は仕方ないと思うんですよね。

 そうなると、ごちゃごちゃ注文つけてちゃカップルで行きたいと思われないですから、やっぱ大手シネコンは¥1000くらいで気軽に見れる場所にしていった方がいいと思うんですよ。

 ¥1000で元取るためにサイドメニューの量も増やして、席にタッチパネル備え付けられててボタン押したらスタッフが届けてくれるとか。どうせその後ホテル行くんだったら個室も用意して、映画見ながら盛り上がったらいつでも部屋入れるみたいな。映画+休憩で¥10000のカップル席。

 そしたら逆に、映画ファンの人達はみんな名画座やミニシアターの方に流れて行ったり。固定ファンがついて安定した集客力を獲得した名画座が館数を増やして、今週上映の作品てことでみんなして旧作についてわいわいネットで盛り上がって、名画座発信で話題性を作ってく。一方でインディー映画も上映しやすくなって、作品ジャンルの多様性にも貢献。ファンのリテラシーも向上し、業界全体の活性化に。

 こうやって、くっちゃべりながら時間潰せるタイプの映画館と、映画に集中して臨む人達ばかりが集まるような映画館、両者綺麗に住み分けができる。なんて完璧な計画。こういうのも悪くないんじゃん。