百鬼丸の萌えキャラ化が止まらない どろろ第8話 感想記事

 

 現在絶賛放映中のアニメ『どろろ』。第8話「さるの巻」の感想記事になります。ネタバレ回避したい方はブラウザバックを推奨します。

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 前回のストーリーを追ってく形式の記事

似蛭が断ち切ったもの どろろ4話 感想 - boss01074’s blog

をリア友に見てもらったら評判がイマイチだったので、今回は以下のテーマを軸に書いていきたいと思います。

百鬼丸ばっかだけど、まあ『どろろ』は彼の物語なので。

 

百鬼丸の萌え描写

 今回はなんと言っても百鬼丸萌えの話だった。

百鬼丸の萌えポイント
  1. 残され雲に負けて石を投げる
  2. 硫黄の臭いを嗅いで悶絶する
  3. 拙い発音でどろろの名を呼ぶ

 残され雲との一回戦、百鬼丸は負け、姉ちゃんを奪われる。その後のシーンなんだけど、百鬼丸がいじけて石を投げてるように見える。実はこれが逆襲のための伏線なんだけど、傾いた日や岩陰にもたれてる演出も相まって、視聴者にも、多分どろろにもいじけてるように見えて可愛い。

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 残され雲を倒したことによって百鬼丸は鼻(嗅覚)を取り戻すんだけど、OP開けでどろろがこぼしてたように今まで百鬼丸には嗅覚がなかったわけで、生まれて初めて嗅覚刺激を味わう瞬間が硫黄の立ち込める場所っていう。化け物をやっつけるあんなに強い百鬼丸が臭いで悶絶するってまた可愛いよな。

 一件落着してまた二人の旅に戻っていくラスト、百鬼丸が初めて喋る。もう赤ちゃん。赤ちゃんが初めて喋った可愛さ。たどたどしい発音も百鬼丸のあざとさ爆発って感じ。ここまで引っ張ってきて満を持しての発話にふさわしい破壊力。これもOP開けで煽ってたどろろに対して、それも名前を呼ぶっていうのがニクい。

どろろの女装

 対してどろろの方も、今回は残され雲を倒す作戦で白無垢に女装(というか変装)する。前回の「絡新婦の巻」では襲われてた爺さんに嫌悪感示したり、その前の「守小唄の巻」ではミオの遊女仕事に抵抗を覚えたりして、この何話かでだんだんとどろろの少女性が見えてきた気がする。

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ストーリーとの兼ね合い

 萌えキャラ化が進む百鬼丸は見てる分には単純に楽しいけど、ストーリーの進展と合わせて考えると、この先人間と百鬼丸が相容れないっていう悲痛なエピソードが待っていそうな気がして不安でならない。今のところ表面には現れてないけど、そこは踏み入らざるを得んやろ。原作にもその手の話あるらしいし。

 

百鬼丸の戦い方の変化

戦闘シークエンス

 戦闘シーンは大きく

  1. 百鬼丸が負けて姉ちゃんを奪われる
  2. どろろとさるが仕掛けて一矢報いる
  3. どろろと百鬼丸の協力で妖怪を倒す

の3段階で描かれてる。

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 まず一回戦。雲で身を隠しながら戦う残され雲に、人ならざるものを見る目で妖怪を斬っていた百鬼丸は対抗する術を持たず、生け贄の姉ちゃんは残され雲に奪われる。このまま一方的にやられるかと思われた矢先、間欠泉の噴射によって雲が払われた残され雲は撤退。九死に一生を得る。

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 どろろとさるが挑んだ二回戦では、生け贄に変装したどろろが残され雲を誘導し、目標地点に誘い込むとさるが硫黄の噴射孔に向けて火矢を射掛け、爆炎で雲を吹き飛ばし、日の光と合わせて残され雲を焼き殺す作戦。作戦自体は成功するも、残され雲の耐久力が想像より上で致命打にはならず、雲も再生され進退窮まる。

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 万事休すのところで弓矢を構えた百鬼丸の登場。矢の当たる音で距離を測り、残され雲を斬りつける。百鬼丸の意図を察したどろろが残され雲に取り付き、どろろの声を聞いた百鬼丸が片側の頭部を破壊。雲の外に出て視界の開けた百鬼丸がもう片方の頭部も仕留めて、残され雲は灰に還った。

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力押しの一辺倒から作戦行動へ

 今まで通り仕込み刀で斬り掛かる戦い方で敗北した百鬼丸達は、作戦を用意する。特に今回はどろろとさるっていう子供達が戦いに参加することもあって、今までの戦闘ではなかった作戦を立てて戦闘に臨む姿が描かれる。どろろとさるは残され雲の弱点を突こうとし、百鬼丸は見えない相手を捉える方法を考える。

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 その作戦も、そこまでのシーンでちゃんと伏線が張ってある。OP開けのシーンで、間欠泉があって、硫黄の立ち込めた地であることは描写されてるし、さるも登場シーンで弓矢を放ってる。そして百鬼丸だけど、石投げてたのはいじけてたわけじゃなかったんやな。石が当たる音で標的の位置を探るためだった。

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人間の武器

 獣達に対し身体能力の劣る人間は、知恵を使うことで生存競争に勝った。百鬼丸も、自分に足りないものを知恵で補って戦いに勝利することを覚えた。「守小唄の巻」で耳を取り戻した分百鬼丸が弱くなったっていう描写があったけど、それが今回「さるの巻」では、その聴覚のおかげで残され雲を斬ることができる。

 人間に近付いていくにつれて、百鬼丸の鬼神の如き強さっていうのはもしかしたら薄れていくのかもしれない。でもその代わりに、百鬼丸は人間としての強さを手に入れているんじゃないだろうか。人間の強さの一つは知恵であり、もう一つは他者と共闘することだ。今回は作戦行動の他に、どろろの協力もあった。

 今まで一人きりで戦っていた百鬼丸が、どろろの声を聞き、どろろの力を借りることで戦闘に勝利した。耳を取り戻したのは、音を聞くだけじゃなく、声を聞くにも必要なことだった。百鬼丸を信じて飛び込んだどろろ百鬼丸も信頼し、自らも声を上げた。それが最後の名前を呼ぶシーンに繋がってくる。

 

百鬼丸が初めて話した言葉

 これもOP開けで、どろろが「何か話しかけてみてくれ」っていうのが、百鬼丸が初めて言葉を話す前フリになってる。そしてそれがどろろの名前だっていうのも、今回の話のテーマから、名前を呼ぶっていうのがこれ以上ない美しいエンディング。『どろろ』、この辺の構成が本当に丁寧な作りになってる。

名前が呼ばれるシーン

 今回名前が呼ばれるシーンがいくつかあるけど、大きく

  • どろろとさるの握手
  • 呼び合うさると姉ちゃん
  • 姉ちゃんの名前に対する態度

の3つにまとめられると思う。

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 まず、どろろが妖怪退治を買って出るシーン。妖怪に困っているさるの話を聞き、報酬の約束も取り付けると、どろろとさるはお互い名乗り合って握手を交わす。名前をからかわれて怒るどろろの姿も見せながら、ここでは名前を告げることが信頼の証と重ねられて描写されてる。

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 姉ちゃんが奪われた後、さるは姉ちゃんとの出会いを話す。回想の中、さると名乗るのは姉ちゃんに猿みたいと言われたからじゃなかろうか。ここにあるのは、必要なものとしての名前。さるにとっては、それで十分だった。生還した姉ちゃんが最初に話した言葉も、さるの名前だった。

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 救出された姉ちゃんとの別れ際、お礼を言い、どろろの名前を確認する。このシーンで、名前と感謝が紐付けられる。また一緒に暮らすことにしたさるに、

名前は大事なんだから

と言って名前を付けるそうだ。ここで、必要性以上の意味合いが、名前に持たされる。

どろろの名前を呼べなかった百鬼丸

 残され雲討伐に際し、一度百鬼丸に呼び掛けたどろろの声が消える。すると百鬼丸が唸るような声を上げ始め、さるがどろろを呼んでいると理解する。この時百鬼丸は、どろろを呼ぶために名前を呼ぶという行為(あるいはその意味の理解)ができなかった。人と獣の中間にいるさるによって、視聴者は百鬼丸の意図を知る。

 残され雲の攻撃を真正面から受けながら、どろろを呼び続ける百鬼丸。その声に、昏倒していたどろろが意識を取り戻す。百鬼丸の視界は一面妖気に染まっている。どろろの声がなければ、百鬼丸はこの火の海から抜け出せないのだ。どろろが再び呼び掛けてくれたことで、百鬼丸はこの戦火を潜り抜けた。

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百鬼丸どろろの名前を呼ぶ意味

 その百鬼丸が、最後にどろろの名前を呼ぶのは、本当に美しすぎる構成。自分に命を預けてくれた。自分の命を救い出してくれた。その信頼と感謝を告げるものとして、どろろの名前を呼ぼうとしたっていうのが素敵すぎるし、回らない舌で頑張ってるのがいじらしくて可愛らしい。姉ちゃんとさるみたいになってほしい。

 

どろろ』における言葉の重要性

 百鬼丸の耳が聞こえるようになって以後の5話~8話の演出で、音と声の意味合いを分けた表現がなされていたように思われるので、その両者に線を引く言葉のことを少し考えていきたい。

百鬼丸が聴いた世界

取り戻した聴覚

 少し前から聴覚と声帯を取り戻した百鬼丸だったけど、依然としてどろろの言葉はわからないままだった。

 聴覚が戻った世界で、百鬼丸はおそらくその時初めて自分を取り囲む世界を知覚した。幾つも重なり合った音の渾然とした生命が周りを蠢いている。それが百鬼丸に感じ取られた世界だったと思う。

 そんな百鬼丸には、どろろの声も多分風の音なんかと区別できなかったのではないだろうか。

ミオの唄

 そこからミオの歌声を聴いて、世界の音の中には命の出す音、自分に寄り添ってくれる声があることを知ったのだと思う。世界の音と繋がれることを、この時知ったのではないだろうか。

絡新婦の命の色

 絡新婦と対峙した時には、弥二郎の声に善悪の色が移りゆくのを見て、見えないものを声が教えてくれるのを体験したのだと思う。

今回聞こえた音と声

どろろとのすれ違い

 これまでにも、どろろと百鬼丸の意思疏通ができていない描写はいくつもあり、むしろ強調されてきたと言っていい。

 今回、姉ちゃんの前で刀を抜いた百鬼丸どろろは張り切っていると勘違いしたが、人里を離れて暮らすさるには百鬼丸が戦闘態勢を取ったとわかった。ギャグからシリアスに切り替わる演出ではあるけれど、どろろと百鬼丸の間にはやはり齟齬があると感じさせるシーンになってる。

命が発する音

 周囲が雲に覆われて、騒ぎ出した護衛の男達が死体となって転がる。この辺にも、音を命として扱う意識があると思う。

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どろろの声

 百鬼丸が音で残され雲の存在を知覚できるとわかったどろろは、自分の声で残され雲の位置を百鬼丸に知らせようとするも、気を失う。

 音で命を聞く百鬼丸にとって、どろろの声が聞こえなくなったことは命が失われたように感じたのではないだろうか。どろろを呼んだのは、どろろの無事を確かめたかったっていうのもあるかもしれない。

百鬼丸の声

 そう思うのは、百鬼丸が残され雲の攻撃を真正面で受けながら、声を上げ続けるから。攻撃を避けなかったのは、そこにいるはずのどろろを探していたからだと思う。声帯を取り戻した百鬼丸だったけど、自分から声を出すことはなかった。悲鳴以外の声を発するのは、多分これが初めて。

通じ合ったどろろと百鬼丸

 百鬼丸の必死の呼び掛けが聞こえたのかどうかはわからない。それでも、意識を回復したどろろが呼び掛けると、百鬼丸がそれに応えた。完璧な意思疏通ができたわけじゃなくても、二人がお互いを信頼して力を合わせ、危機を脱した。二人がここまで来たこと以上に、今回の勝利を表すものはない。

百鬼丸が喋った理由

すすり泣くさる

 姉ちゃんを奪われた夜、昼間気丈に振る舞っていたさるが寝床の中ですすり泣く音に百鬼丸が気付く。

 「妖刀の巻」のお須志の泣く声は聞こえなかった百鬼丸が、ここではさるの泣き声を感じ取っている。

 間に、百鬼丸はミオの死を経験している。大事な人を喪う経験によって、百鬼丸にも悲しみの声が聞こえるようになっている。

 直後にもらい泣きに見えるどろろのカットも挟まる。おそらく、さるの泣き声に母を喪った悲しみを思い出している。

 今回残され雲と戦ったさる、どろろ百鬼丸っていうのは、(母に相当する)大事な人を亡くした悲しみで繋がっている。

言葉を話すということ

 言葉というのは、世界を分節する役割がある。混沌とした世界に対し、自分が意味を見出だせる単位で世界を切り取ることで、私達は意味がそこにあることを見失わなくて済むようになる。

 言葉を話すということは、世界に対して意味を投げかけることで、世界と自分の関わりを認めることになる。他者に話しかけるという行為は、他者と関係を築く第一歩だ。言葉を話すことは、たとえそれが必要性に迫られたものであっても、世界に意味を認め、他者と関わりを持とうとする自分を認めるものになる。

名前の重要性

 特に、名前は相手の存在そのものを認める言葉であり、そこには必要性以上の意味が込められる。名前を呼ぶという行為は、相手の存在をかけがえのないものだと感じる自分を認めることだ。世界の中に意味ある相手の存在を認めた上で、自ら手を伸ばしてその相手に触れようとする行為に他ならない。

名前は大事なんだから

 百鬼丸どろろの名前を呼ぶきっかけになったのは、姉ちゃんとさるのやりとりに影響を受けたのかもしれない。

 姉ちゃんの名前はお梅と言うらしい。山で世話を焼く程度の付き合いだったさるは、おそらく姉ちゃんの名前を知らなかった。おうめの方も、“姉ちゃん”と“さる”の関係で構わないと思ったのだと思う。

 でも、家族になることを決めたお梅は、さるに名前を付けると言った。かけがえのない存在だと認識した相手には、かけがえのない名前で呼ぶ必要があるということを、お梅は知っていた。

 だからこそ、百鬼丸どろろの名前を呼んだのだろう。どろろの存在をかけがえのないものと思っており、そのどろろに触れようとする意思がある。それを示すために、どろろの名前を呼んだのではないだろうか。